第40話 ゾンビとメアリー

 空挺着艦場――


 我々はTwelveThinkrの事務所のある海洋都市M.Uに向けて準備を行っていた。M.Uは南米を越えて南緯34度57分西経150度30分にある全長120㎞の人工島だ。Miscellaneous Union(多種多様な人々の共同体)の略である。場所が場所だけに神秘の島だとか言われるがそれはまた別の話である。


 現在、私とケェリィアとで連結させた互いの空挺のシステム変更を行っている。空挺の後方と前方が連結し一つの船として機能する。


 アキラ達はというと多少の物資の積込みと荷下ろしと在庫確認を行ってもらっている。電子タグやQR内蔵の梱包資材であれば読み取れば良いのだが、氷河期のこの時代では資材不足でそんなもの方こそ珍しい。それ故原始的な方法を取らざるを得ない状況だ。


 ユラナは例の一件でアキラと仲良く謹慎処分となったため、仲間への引継資料の作成に四苦八苦している。


 アキラとマリアは物資の搬入、マリアはタブレットを操作して手慣れた手つきで搬入量の確認している。アキラもこの仕事を5年もやっていることもあり、フォークリフトの扱いも慣れたものだ。クロウの指示でアデニアの復興のため、使えそうなものは提供するように言われ、それを卸している最中だ。

 

 そして、その傍らには二人の姉妹が哀愁を漂わせていた。


「じゃあ、行くから……」


「うん、勉強頑張って」


「分かってる」


「病気や怪我には気をつけるのよ」


「心配いらないって、あたしのことより自分の心配をしろよ。これから忙しくなるんだろ?」


「そ、そうね。ごめんなさい」


 しばし沈黙が流れた。互いに思う様に言葉に出来ない様子。これで今生の別れという訳ではないのだから、畏まる必要も無いのではないか。


「「あのさっ!」」


 アイシャ氏とシオンは同時に話を切り出してしまい狼狽している。流石姉妹息ぴったりだな。それにしても、なんてベタなことをやっているんだ。


「あのね。チャリティフェスティバルに出席を求められているの、だからその時はM.Uを案内してくれる?」


 アデニアはErcuの新加盟国、この催事を無下にしては今後の関係性が危ぶまれる。出席は当然のことだろう。


「しょうがねぇな。それまでには案内できるようになっておくよ」


「ええ、必ず時間作から」


「シオン、そろそろ時間だ」


 無粋にもほどがあるアキラの呼びかけが、逆にきっかけになったようで、二人は抱擁を交わした。


「行ってくるよ。姉さん」


「ええ、元気でね」


 ひと時の別れを済ませ、縺れ合っていた姉妹は再会の約束を結ぶ。


 縺れ合っていた姉妹の絆は切れることは無かった。寧ろその縺れが絆の強固な結び目を作った。


 我々は次なる目的のため、悔恨と哀愁を残しつつもアデニアの地を飛立った。



 南大西洋上空、――

 

 アデニアと発って4時間弱、M.Uまでの直線距離は凡そ18,000㎞、マッハ2で飛行中。到着時間は凡そ4時間後。艦内は修羅場と化していた


「ねぇ、アキラ、そっち出来た?」


「お前ふざけんなよっ! 言ってから1時間経っていねぇぞっ! だいたい何なんだよっ! 入札に回るってっ!」


「しょうがないでしょっ! 私に言わないでよっ! とにかく到着までに仕上げなきゃならないんだからっ!」


 アキラとユラナは向かい合って端末のキーボードを打ち鳴らしていた。


 つい一時間ほど前、アデニアの復興対策の一件がErcuで公共扱いなった。簡単に言えば分捕られた。詳しい理由は分からないが凡そ国家元首が変わり、一旦仕切りなして公平にすべきだとか主張されたのだろう。長老連中が考えそうなことだ。


 そして入札が1か月後に決定した。それに備えて急遽入札用の資料を作るようにクロウに言われた。


 アキラはアデニアの土壌成分や農業事情についてまとめている。ユラナは財政と経済事情について、マリアは衛生状態と医療水準、そしてプリオン病についてだが、彼女は手際よく医師団への報告へと合わせて終わらせた。2、3日中に医師団はアデニアへ医師を派遣するとのことだ。流石彼女だ。こういうことは手際が速い。


 やることを終えたマリアは、サクラとシオンのために幼児教育で使用するようなパネルを使って英語を教えていた。7シオンの学力は数学や物理学に関しては量子もつれのオブジェクトを組めることもあって、既に高校生ハイスクールの学力は越えていたが、それ以外は問題外であった。特に英語はカメラを覆いたくなったものだ。汚い単語は呆れるほど知っていたが、一体誰が教えたのやら、何せよ高校認定資格の受験において英語は必須科目のため、英語の取得が


「紅っ! お前も手伝えよっ!」


『運転中だ』


「お前な……」


『冗談だ。しかしアキラ。君が書いているのは君自身の意見書だろう。そんなに難しい――むっ?』


 突如レーダーに登録のない飛翔体の影を捕らえる。1時の方向、距離数は20。通常のレーダーではないバイスタティックレーダーに引っかかった――ということはステルス性を持っている飛翔体という事、つまりドローンという事になる。


『アキラっ! 話は後だっ! 全員コックピットへっ! シートベルトを装着しろっ!』


 全員の着席を確認し、飛行艇の出力を最大にし加速させる。現在マッハ3.5。


 制御を失った野良ドローンの群れが飛行艇を適性と認識して追尾してくる。ドローンの群れの標準速度は凡そマッハ4。このままじゃジリ貧、地上には土壌再生の為に腐海と化したアマゾンとアンデス山脈が見える。北部は北半球から押し寄せ巨大な氷床が見える。


 執行者、L.Lが言っていたドローンに気を付けろというのはこのことかっ! 


 前にアキラが言っていた手口から殺意より悪意を感じるという事が漸く理解できた。同時に腹が立つということも――


「紅っ! 俺が外にでるっ!」


『馬鹿かっ! 今出たら肺が腐るぞっ! しかもマッハ3.5だぞっ! 外に出た瞬間死ぬぞっ! もう少しで太平洋にでるっ! 少し待てっ!』


 無謀な発言をするアキラを窘めるのもつかの間、ドローンからロックオンされ、ミサイルが射出される。空かさずフレアを発射し、赤外線センサのデコイに引っ掛かり暴発したミサイルは誘爆を起こして、後方で爆炎を巻き上げる。


 数匹巻き込むことに成功するが、爆炎の中からしつこくドローンが現れ、ミサイルの二射目が発射され、私はミサイルの起動予測を開始、ローリングやループを駆使して回避機動を実行。


 そして西太平洋に差し掛かった瞬間――


 上空からの砲撃、レーダーには捕らえられないほどの小さな飛翔体が、追尾してきたドローンが次々と爆散させていく。


 飛空艇の識別コードをキャッチ、数キロメートル先に空中静止している飛空艇を捕らえる。その上部ハッチに人が二人、拡大映像をモニターに映し出した。


 映し出されたのは東洋人の女性ともう一人。


 一人はは天=兰愫≪|ティエン=ランスゥー≫だった。いつも通りのスーツ姿で身の丈ほどのある巨大な槌を携えている。Twellv Thinkerの副代表を務め、愛称はラスティ。彼女の持つ鎚はウィトゲンシュタインハンマーという、従円や周転円上に重力子を展開、軌道上の質量体を目標に追突させる。それは地球の周回軌道上にあるデブリでさえも引き寄せる。第二種封印指定兵器に指定されている。持ち出しにも使用にも面倒くさい手続きと許可がいる。


 そしてもう一人、金髪碧眼、日焼けした肌が健康的、鼻筋は高くなく東洋人のような印象を受ける。それもその筈、彼――否、彼女はオーストラリア出身で先住民アボリジニのクォーター。名前はクロス=フォア―ド。ラスティと同じTwellv Thinkerの創設メンバーの一人で、単分子高周波振動刃搭載のブーメラン、CRJ2カークジャが彼――否、彼女の獲物だ。因みに第三種封印指定兵器に指定されている。さっきから私が彼――ではなく、彼女と説明しているのには理由がある。簡単に言えばトランスジェンダー、先天的に卵精巣性性分化疾患 (Ovotesticular DSD)で、TQX素体により肉体は女性体に調整した。しかい脳神経系の性染色体はXYのままであるため、現在の状態はXYモザイクと表現する方が正しい。


「クロっ!!」


「ラスティっ!!」


『やっほー、アキラっ! 元気だったっ!? ボクが来たからもう安心だよぅ!』


「お待たせ、迎えに来たわ。アキラ、ユラナ……それにマリアさん、紅、飛空艇をすぐ私たちの背後へ、これからドローンの殲滅をします……敵性捕捉、対処方法を検討……パターン11を実行します」


 数回の瞬きの後、目が陰りだしたラスティの上品の物言いは機械的な生気の薄い声色に変わる。それは彼女が使用する戦闘用オブジェクト<PZ-パーソナリティ>。敵性の戦力に応じて戦闘パターンを脳内に保存、実行する。


 ラスティは身の丈ほどの鎚で新体操やチアリーディングで行われるような華麗なバトントワリングを見せる。

 

 上空から20を超える飛翔体を確認する。直径2メートルの岩石、過去に使用されていたスペースシャトルの耐熱パネル、アポロに使用された接続リングまである。大気による摩擦熱で赤く輝く火の玉が飛来する。


 『流星ミーティア』と呼ばれるオブジェクトが、飛来したデブリにドローンの群れを火の海に変えてく。


 火の海の先から更に後続のドローンが現れ、ラスティとクロスの乗る飛空艇に大量のドローンが押し寄せる。


 しかし、そのドローンの群れは飛空艇を通り過ぎる。興味が無いといったような印象さえ受けるような、まるで飛空艇が見えていないようだ。ドローンは我々を捕捉できなくなり、個々が突然ロストした我々を見つけようと無軌道に飛行し始める。同じ機械としてその光景は不憫というより滑稽にさえ思えた。


 無限軌道を描くブーメランが統率を失ったドローンの群れを次々と引き裂き殲滅していく。


 突然捕捉できなくなったのは無理も無い、光学センサーやカメラ、熱源などの誤認させるオブジェクト<MRディフレクト>によるものだ。可視光、X線、紫外線、赤外線を含む光情報の全てを誤認させる。地味に見えて汎用性は高い。


 九死に一生というのは、こういうことを言うのかもしれない。TwellvThinkerは通常の慈善事業団体より、少々――否、非常に武闘派だ。頼りになるが、今は無法地帯と化した世の中、むしろこういうのは悲しいというのだろう。

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