第50話 8日目①

 陽の光で目が覚める。これが習慣になっているが人間界に戻ってから再現するのは難しいだろう。直接日光が当たるなんてこともないし、僕を起こす要素が人間界にはひしめいている。たとえば、目覚まし時計。これは自分でかけたのに毎朝邪魔になる不思議なものだ。それに家族の生活音。無いは無いで困るのだが、ざわざわとしている。まあ、挙げたら学校に行くことなんてことまできりがない。

 そんな感じで起きる。この魔界はその点では恵まれているのかもしれない。ざっと周りを見渡す。昨日の晩はご飯づくりも片付けも三人がちゃんとやってくれて,そのあとすぐ寝たから、あんまり周りを見る余裕がなかった。しかしここは何とも言えない雰囲気だ。少し要塞のようになっている部分の入り口だからだろうか。完全に閉ざされたわけではないけど、自然そのものではない印象を受ける。

「おはよ。」椎名さんがベッドをのぞき込んでくる。

「ああ。おはようございます。」そう答えて、着替えも終わっていたので、ベッドから出た。朝ごはんをつくろう。材料もそろっているし。

「織屋、このあとはどうする?」

「どうしましょうか。多分この奥が『魔王の城』だと思うんですよ。だから、とりあえずそっちに向かいましょう。」

「そうだね。あっ、双葉ちゃんおはよう。」振り返ると、着替えた三谷さんがいる。

「おはよ。」「おはようございます。」こんなやり取りをして、御紋さんを起こした方がよいのではという結論になった。

「御紋さん、起きますよ。」

「初ちゃん。」椎名さんがキッチンでこっちを見守っている。

「ほら、御。」僕がそんなところまで行ったところで、

「あ、おはよう。おきるね。」そう言って御紋さんが起き上がった。一番上だから広々している。

「じゃあ、いただきます。」三谷さんが言う。みんなでそれに続く。

「じゃあ、あっちに行くの?」御紋さん。

「うん。あっちが城だと思われるし。」椎名さん。

「これは思い違いかもしれないけど、というか思い違いであってほしいんだけど、あっち側から、すごい邪悪な雰囲気の欠片が感じられるんだよね。」御紋さん。

「多分あってるよ。だって、初ちゃん、『闇の教会』の時も嫌な気分って言ってたし、『修道女』だから、そういう負のエネルギーに敏感なんじゃない。」と三谷さんが言う。

「確かに。」椎名さん。

「そうかもしれませんね。」僕。

「そっか。」御紋さん。

 こんな感じで朝ごはんは終わった。そのあと、片付けを始めた。お皿を洗うところから、食卓やキッチンを片付けるところまで。不思議なはざまのところだったが、過ごしやすかったかもしれない。だが、もうここには用はない。目指すはあっちのお城だ。

「じゃあ、出発~。」御紋さんの号令で、僕たちはスタートした。

「やっぱり、物騒な感じかな。」さっそく御紋さんが核心に迫る。

「そうなのかな。やっぱり。」三谷さん。

「鍵も幾重にもかけられてたし、迷路もあったしね。」椎名さん。

「やはり、侵入者へは警戒してるんでしょうね。」僕。

「じゃあ、武器かなんか要る?」御紋さん。

「あったら、安心ですね。」僕。

「でも私何も使えないよ。」三谷さん。

「私も。」御紋さん。

「私は黒魔術あるし、バリアも張れるし。一緒にいればある程度は守れるかも。」椎名さん。

「京華ちゃん、男前。」御紋さんが茶化す。

「でも、よろしくね。」そう付け足す。

「僕はなにかナイフかなんかほしいですね。」そう、思い付きで言うと、パッと椎名さんが手から出した。

「はい、ナイフ。」

「ありがとう。」そう言って受け取る。思っていたよりも軽い。

「まあ、私はいいや。ていうか、お城ってあれ?」御紋さんの指先には、大きな建物がある。分類するなら、城だろう。前方には僕たちを同じくらいの背の高さの、人形がある。何かの象徴だろうか。そんなことを悠長に考えていると、

「あっ。」と三谷さんが言った。なんですか、そんな野暮なことを訊く前に、僕は三谷さんの発言の意味が分かった。

 まだ朝を感じさせる青空が広がっている。

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