第48話 7日目⑥
『なんか、全然ゴール見えないんだけど。』珍しく三谷さんが後ろ向きだ。
『そうですね。椎名さんと御紋さんは着く気配ありますか。』
『全然ない。』御紋さん。
『私はない。』椎名さん。
『皆さん、ゴールが見えないようです。私もです。』僕がこう送る。僕たちが、こんなに後ろ向きなムードになっているのは、迷路でバラバラになってから、30分後ぐらいのことで、ちょうど、夕日が空を赤く染め始めたぐらいの時だ。こうなる前の様子を懐かしみながら紹介するとしよう。
『私はとりあえず、まっすぐ歩いてるよ。』椎名さんから送られてくる。
『椎名さんはずっと真っ直ぐだそうです。みなさんは?』
『適当。』と御紋さん。
『何となく、ゴールのありそうな方へ。』三谷さん。
『御紋さんは適当、三谷さんはゴールのありそうな方ですね。分かりました。』なるべくみんなで同じものを共有できるように、僕が復唱しつつコメントするようにしている。そんなシステムが定着しかけたころ、
『いま、織屋ってさぁ、私たちにそれぞれの発言っていうか思いを、共有させるために、復唱してるんだよね。唱えてはないけど。』と御紋さんから来た。まだ結論も出てないし、僕への話のようだから、今のところ復唱の必要はないだろう。
『そうなりますね。』
『じゃあ、復唱しなかったら、私たち三人はお互い何を思ってるかが分かんないんだよね。』
『そうなります。はい。』正直、御紋さんが何を言わんとしているかがわからない。まあ、話を聞くとしよう。
『じゃあ、それ使ってクイズできるね。二人にクイズするって伝えて
。問題は何々と言えば?みたいなのね。じゃ、よろしく。』こうやって、いきなり意思の疎通が切れるのは電話を切られている感じだ。まあ、とりあえず、言われたようにしよう。迷路といっても結局は歩くだけになるから、暇つぶしのつもりだろう。さて。
『えーと、御紋さんの提案で、クイズをします。皆さんそれぞれ答えを考えて、僕に送ってください。問題は、お互い何を思ってるかがわからないのをプラスに使えるものにしますね。』
『うん。』椎名さん。
『なんとなくしか分かんないけど、うん。』三谷さん。
『じゃっ、やろう。』御紋さん。
『では。赤いものと言えば。』数秒の沈黙。僕なら、リンゴだろうか。いかにも平凡・オブ・平凡だが。
『えーと。』誰かの思いが何となく聞こえて来た。
『織屋。いちご。』この呼び方は椎名さん。でも、いちごとは、普段のサバサバしていて、怖い感じとはかけ離れている。僕の思いがうっすら伝わったのか、
『別にいいでしょ。一番目に思い浮かんだんだから。』と送られてきた。
『血。』三谷さんだろう。この雰囲気は。でも、血とはまた怖いものを。たしかに赤いけども。
『カーネーション。』最後は御紋さん。カーネーションか。うん、確かに赤い。
『では、結果発表と行きます。』
『はい。』三谷さん。
『うん。』椎名さん。
『早く。』御紋さん。よく考えたらこの相槌もそれぞればらばらだ。
『椎名さんがいちご、三谷さんが血。御紋さんがカーネーションでした。』僕がそう送るやいなや、
『「血」って双葉ちゃん怖っ。』という、御紋さんの声や、
『初ちゃん、「カーネーション」て乙女か。意識したでしょ。』なんていう二人分の答えが聞こえてきたりした。この会話も、復唱してみんなに送った。なかなか楽しかったので、色々やろうということになった。
そう。そんな感じでやって、お題も尽きたかと思われ、「織屋の第一印象」なんてのも使って、後悔することになったが、一通り楽しんだ。
そして、着かない。もちろんゴールへ。クイズが終わって、楽しさの余韻と、虚無感と不安だけが残って行った。なぜなら、だんだん空が赤らんできたからだ。
こんなことがあったのも、もう昔の話。今はひたすら歩くだけだ。もうだれも、思いなんて、発しない。疲れているのだろう。
数分後、誰かの思いが聞こえた。事態が進展しているといいのだが。
どんどん、空は赤になる。
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