第44話 7日目②

 前から烏の声がする。僕はさっきそう思った。それは間違いではなかった。れっきとした正解だった。しかし、それは重大な言葉足らずでもあった。それは僕たち四人が近づくとわかった。

 そう。烏は白かったのだ。なんだ、色が黒じゃなかっただけじゃないか。この世にはアルビノという言葉も存在するんだよ。

 そう言われればおしまいだったが、本当にそう思うなら目の当たりにするがよい。とても驚く。白烏はくうとは噂に聞いていたがこんなものだとは思わなかった。強烈な違和感とインパクトがそこにはあった。

「ねぇ。この烏白い。」御紋さんが単純にしかし的確に言葉を発する。

「そうだね。ちょっと気味が悪い。」椎名さんも言う。

「見慣れないからだろうね。」三谷さん。

「慣れって怖いですね。」僕。

「そうでしょう。わたくしのおかげで慣れの怖さに気づきましたか。」

「うん。」御紋さんが答える。えっ誰に。二秒ほど思考が止まったが、ある答えが導き出された。今の声はこの白烏のものだ。ここは魔界だし、言葉を話す動物にもよく分からない生き物にも会って来たじゃないか。

「烏がしゃべってる。」椎名さんが素直に驚いている。でもここが魔界だということを思い出してか、それ自体への驚きは消え、

「烏ってよく魔女とかに遣われるもんね。」と言っている。

「そうなの。」三谷さんが訊いている。

「ご名答です。ただ、私は魔女ではなく魔王に仕えていますが。」そう白烏が返す。

「なるほど。オーディンもフギンとムニンを遣ってましたしね。」僕が言うと、

「え、何語。」と御紋さんが言っている。

「北欧神話ですね。よくご存じで。」白烏がそう言う。

「こっちはご存知じゃないけど。」そう言う椎名さん。皮肉を無視して白烏が訊く。

「ところで、あなたたちは何をなさっているのですか。」御紋さんが

「まおうと」と言いかけたが、危険を察した三谷さんが、

「魔王様のお城にお目にかかりたくて。どちらに行けばよいですか。」と尋ねている。

「そうですか。あそこは豪華絢爛ですからね。非常に広いですし。」白烏が半ば自慢げに答える。が、そのあとで、

「でも、あのお城の入り口には何やら鍵穴がたくさんあるものがありましたよ。私はいつも空を飛んでいるから関係ありませんが。」と言う。

「そうなのですか。とりあえず、外観だけでも見てみたいので。ありがとうございます。」三谷さんが丁寧にお辞儀までする。気分を良くしたのか、白烏は

「ごきげんよう。」と言って飛び去った。

「初ちゃん。駄目だよ。魔王討伐って言ったら。」三谷さんが言う。

「なんで?」御紋さん。

「あの人は、人じゃないか烏か。は、魔王に仕えてるって言ってたでしょ。だから、討伐とか言ったらどうなるか分からないよ。」椎名さん。

「でも頼まれたんだよ。本人に。」御紋さんが食い下がるが、

「そのことが誰にまで伝わってるか分かりませんから。一応ですよ。嘘は言ってませんしね。」僕も言う。納得したというよりは、どうでもよくなったという感じで、御紋さんはまた歩き出す。

「お城はやっぱりあっちにあるのかな。」そんなことを言いながら。

「そうじゃないですかね。」と僕。

「どんなお城だろう。絢爛とか言ってたけど。」椎名さん。

「絢爛かもしれないけど、魔王の城だからね。物騒な感じかもよ。」三谷さん。

 そういえば僕たちがこんなに落ち着いて会話できているのは、いま歩いているところが大きな石畳だからだ。もちろん浮いてはいるが。

「物騒って例えば。」椎名さんが訊く。

「分かんないけど、侵入者を抹殺みたいな。」三谷さん。

「怖いよ。普通に。ゲームならいいけど。」御紋さん。たしかにそうだ。今は非常にのんびりしているが、いつの間にか空に浮いていてのんびりだと感じてるが、やはり慣れは怖い。ありがとう。白烏。のんびりとしているが、城の中はどんなものか分からない。

 僕たちはいま横に並んでるが、段々床が傾いている気がする。みんなも同じだったようで、段々バランスを崩して走り出す。よく考えたら、浮いているものに乗って自分たちだけ動いたらバランスを崩すのは当たり前だ。その結論と共にシーソーが思い浮かんだ。

 その時には、僕たちは陸地に跳んでいた。

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