『都市シリーズ全体』ビルドゥングスロマンの導入
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「今回の話は都市シリーズが35から前面に出していたビルドゥングスロマンの導入。これは川上作品の基礎とも言える要素ですが、これはどうしてそうなったのか。そんな話ですね」
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「ビルドゥングスロマン……、って、言いにくいわよね」
「ドゥングス……、って普通に無い音ですからね……」
「”播磨灘だ”とどっちが言いにくいかしら」
「”播磨灘だ”じゃないですかね……」
「じゃあ”播磨灘だ”の勝ちってことで終わり」
「終わらない! 終わらない!!」
「いや、コミケも終わって”無明の騎士”の連載も終わって”ファー! 楽!”とか思ってたらコラムのストックが尽きるとか言われてねえ」
「アー」
「まあそんな感じで、このネタ、ちょっと見てみるわね」
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「まず”ビルドゥングスロマン”とは何か、ですよね」
「基本的には”成長モノ”って憶えておけばいいんじゃない? というか私自身がそのくらいの認識だから」
「初手から頭の悪いことをオープンにしていく展開ですね」
「ええ、頭の悪いという事実を後から出すと……」
「……あまり変わらないか。どうでもいいわよね」
「そういう処が駄目なんですよ……!」
「ともあれ説明。ハイ」
「えーとまあこんな感じです」
・ビルドゥングスロマン
教養小説のこと。
19世紀後期に独逸の哲学者ヴィルヘルム・ディルタイが定義付けた小説形式。
主人公の自己形成、内面的な成長過程をテーマとする。
「……コレ、以前にも話さなかったっけ?」
「グローバル検索掛けたけど出ませんでしたね……」
「じゃあ敢えて言うけど”教養”って」
「コレ日本語にしたときの意訳で、実際は”形成小説”ですね」
「何でそんな変な意訳したのかしら……」
「まあそれはそれとして、とりあえず要素として、そういう”成長”とか”形成”が、うちの作品には入っている訳ですね」
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「ぶっちゃけ35だけじゃなく、以前からこの要素は入っているのよね」
「古代はどんな感じだったんです?」
「成長って、あまり厳密に大きな変化を考えなくてもいいのよ。逆に言うと”変化”をしたことが明確になるなら、それでいいと思うの」
「たとえば?」
「ラブコメで、主人公がヒロインに対する感情について自覚し、彼女や周辺との関係にも変化を生じるなら、それは成長だと思うの」
「ええと、つまり?」
「こういう事ね」
・内面的変化:内心におけるものの見方が変わる
・関係的変化:外部との関係のあり方が変わる
「関係的変化は、正しくは外面的変化だと思いますが”関係”という理由は?」
「外面だと容姿や外側からの表面的要素に見られるから。だから何を意味しているか、ということで”関係”とさせて貰ったわ」
「…………」
「よく考えたら、私って今、”ビルドゥングス”を”教養”と訳すような言葉の置き換えしてる?」
「あれはどっちかって言うと解りにくい方に振ってるんで、逆ならいいんじゃないですかね……」
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「でも、成長には”内面”と”関係”の二種が必要なんですか?」
「ええ。両者は相関してるわけ」
「そうなんですか?」
「ええ。よく考えたら解るわよ?」
・内面的変化:外の環境の影響を受けて変化が起こる
・関係的変化:内面的変化の発露とその影響を受けて変化が起こる
「アー、成程、鶏と卵的に循環するんですね」
「そう。内面的変化は関係的変化に影響を与え、関係的変化は内面的変化に影響を与える訳。だからどちらかが不動化した場合、そのキャラの成長は止まるのよね」
「ビミョーにリアルでもありますね……」
「そうね。年齢を経ると交流は狭くなりがちで、自分の外向性も低くなるわ。
そうなってくると外からの変化が無くなって、自分が固まりやすくなるわね」
「そうなると、どうなりますか?」
「――他人に指導したくなる」
「…………」
「危険な処に行きましたね!」
「いや、指導ってのは自分が”出来た”から行うんだけど、それって、その人の中で自分のアップデートが止まったってことなのね。
だから指導始まっちゃってるのを見ると”アーこの人、この分野で自分のアップデートが止まったんだなー”って思うわ」
「それって、悪いことなんですか?」
「悪いことじゃないわよ。アップデートを再開しない限り、過去のものになるけど、今だとネットとかもあって過去の産物にアクセスしやすいし、有りなんじゃないかしら」
「? 過去のものになるんですか?」
「ええ。だって、まず自分の中で”出来た”と思ってから、それが成文化されるまでに時間が掛かるのよ。だからそれを外に出せる頃には、その指導って少なくとも一年、二年以上は昔のものなの。
そしてそれを参考にして出来上がるモノって、どれだけ時間がたった後のことかしら?」
「アー」
「だからそういうのを見たときは、定議や定理などの”誰がやっても同じ答えが出る=再現性100%”みたいなものでない限り、”これを参考にすると、古い上で、掛かった時間分も古くなるからなあ”って、そんな感じで見ていいと思うのよね」
「……アップデートはしておかないと駄目ですね」
「うちとかも、チャート型の教え方みたいなのするけど、それが以前と最新だと結構いろいろ変わってるのよね。でもそれはアップデートしてるってことで、昔の見て参考にしていた人は”か、勝手に変わってやがる!”って思うかもしれないけど、上手くついてきてくれると有り難いわ」
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「脱線してますが、じゃあ、作家には指導って不要なんです?」
「究極な処言うと不要でしょ? 私とか独学だし。そして幾つも作品を作っていって、自分にとって最適な方法を見つけて行く中で、不意に”覚醒”するのよね」
「覚醒?」
「ええ。――あ、こうやればいいんだ、っていきなり道筋みたいなのが見えるようになるのよ。自分の語彙と、物語の作り方のパターンが”物語を作れる分の種類だけ、満ちる”ことでそうなるんだと思うけど」
「プロンプトが揃う、と、そんな感じですか」
「そうそう。プログラムを構築出来るだけのコマンドが揃って、それを扱う構文も揃ったって感じ。
そうなると自分が思ったものをテンプレとか無視で書けるようになるから、それまで書いていたものが古く感じるのよね」
「……つまり作家として成長? あ、いえ、覚醒ですか」
「いや、成長でいいのよ。ぶっちゃけ、作家としての覚醒は何度でもあるわ。そのたびごとに、以前書いていたようなものはもう書けなくなるんだけど、その後に書くものは自由自在になっていくから」
「自由自在?」
「ええ。覚醒するごとに、何でも、どのようにでも書けるようになっていくの。コレ、別で話をするつもりなんだけど、作家にも究極の到達点みたいなのがあるのよ」
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「まあ与太はいいとして、成長において、内面と、外の関係は切り外せないものだと考えていいんでしょうか」
「強いていうなら、”性徴”がそこに該当するかもね」
「アー、思春期」
「カラダの変化や、成長ホルモンの関係で生じる反抗期とかいろいろ、内面への影響ね。そういうものは外の関係を無視した内面の成長を促すと、そう言っていいかもだけど」
「……内面をメンタルとして考えるなら、性徴におけるカラダの変化も”外の関係”ですよね……」
「それによって外からの扱いとかも変わるモノね。七五三を持ち出す意味は無いと思うけど、赤飯文化とか、つまり性徴とかの身体の変化は、それだけで外との関係を変えていく文化があったりするから」
「そういう文化は”古い”って言う言い方もあるかもですけど?」
「”古い”って言ってる時点でその軛から逃れてないわね。”忘れてた”くらいは言って欲しいわ」
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「まあそんな感じで、物語と、この”内面と外の関係の循環”を結びつけると、こういうパターンが出来るわ」
■受動パターン1
:主人公 :内面の変化は元々なし
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公:外の関係の変化によって、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化が完成していく
↓
:主人公 :外の関係の変化を認めて自らも変化を完成する
:外の関係:主人公の変化を受け入れる
■受動パターン2
:主人公 :内面の変化は元々なし
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公:外の関係の変化によって、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化が完成していく
↓
:主人公 :外の関係の変化を認めず自らが別の変化をする
:外の関係:主人公の変化を受け入れない
■能動パターン1
:主人公 :内面の変化が生じている
:外の関係:環境などは固定状態である
↓
:主人公 :外の関係を変化させるために、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公 :外の関係を変化させ、自らも変化を完成する
:外の関係:主人公の変化を受け入れて変化をする
■能動パターン2
:主人公 :内面の変化が生じている
:外の関係:環境などは固定状態である
↓
:主人公 :外の関係を変化させるために、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公 :外の関係を変化させようと、自らの変化をする
:外の関係:主人公の変化を受け入れない
■共動パターン1
:主人公 :内面の変化が生じている
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公 :外の関係を変化させるために、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化が完成していく
↓
:主人公 :外の関係を変化させ、自らも変化を完成する
:外の関係:主人公の変化を受け入れて変化をする
■共動パターン2
:主人公 :内面の変化が生じている
:外の関係:環境などの変化を段々生じていく
↓
:主人公 :外の関係を変化させるために、内面が変化していく
:外の関係:環境などの変化が完成していく
↓
:主人公 :外の関係を変化させようと、自らの変化をする
:外の関係:主人公の変化を受け入れず、別の変化を完成する
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「結構ありますね」
「行数が稼げていいことだわ……」
「言い方! 言い方!!」
「まあでもパターンは大体解るわね?」
・受動パターン1
:主人公は巻き込まれ型
:世界の変化が主人公の変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられる
・受動パターン2
:主人公は巻き込まれ型
:世界の変化が主人公の変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられない
・能動パターン1
:主人公は巻き込み型
:主人公の変化が外の関係の変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられる
・能動パターン2
:主人公は巻き込み型
:主人公の変化が外の関係の変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられない
・共動パターン1
:主人公と外の関係は既に動いている
:主人公と外の関係の変化がお互いの変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられる
・共動パターン2
:主人公と外の関係は既に動いている
:主人公と外の関係の変化がお互いの変化を促す
:主人公の変化は外の関係を変えられない
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「初めからこっちの方が解り安くなかったですかね……」
「まあそんな感じよ」
「俗に言うセカイケイとはどう違います?」
「セカイケイが主人公とパートナーの関係が世界を変えるという、小さな関係が世界を変えるものであるならば、こちらは”世界を変えるには成長がまず必要”で、世界を変えるには小さな関係ではなく大きな関係を変える必要があるということ」
「つまり、うちの場合、世界を変えるには、何か変な能力とかじゃなくて、変化をさせるためのキャラクターの成長を含めた手順と、それを行うだけの関係の規模が必要という、そういうことですね……」
「動く関係の中に、決め手として主人公達がいても、彼らだけで世界が変わる訳じゃないの。多くの関係の中の一つなのよね。だからうちをセカイケイに数えるなら、改革系や国作りもののタイトルはほとんどそうなっちゃうわ」
「ホライゾンも、ホライゾンとトーリ君が世界を変えたんじゃなくて、二人をリーダーとして私達が皆で動かして、ヴェストファーレン会議とかやったんですよね……」
「まあそういう、誰かが上手い言い方で考えた流行のカテゴライズって、結局は飽和をして廃れていくものだから。そういう言い方をしてる人は、今の、当時よりも遙かに作品の質が増えた時代に合わせられてない可能性があるわね」
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「――35は、能動1のパターンですよね」
「そうね。倫敦は受動2、香港は受動1、大阪は受動1から能動1に変化するタイプ、巴里は能動1で新伯林は受動2から能動1に変化するタイプ。DTは受動1から能動1に変化するタイプね」
「パターンが変化することもあるんですね」
「主人公の成長の仕方によるわよね。初めは外の関係の影響を受けていたんだけど、逆に外の関係に影響を与えるようになる、とか。
流石にそこらの変化をくわえるとパターンが煩雑になるから入れてないわ」
「アー、まあ解りやすさ優先で」
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「35は解りやすいわよね。外の関係=独逸本国はDP-XXXを隠そうとしていて、それを表に出そうとしているヴァルター達と対決する……、と、ホントにそういう構図」
「ここに、成長してなかったエルゼが加わって、しかし事件の中で成長。ヴァルター達が捕縛されることで止まりかけていた”変化”を再開する……、というのが面白い構図ですよね」
「相手となる独逸側にも、マイアーがやはり自分を押し込めていたんだけど、対決の中で段々と成長し、自分の能力を発揮していくのよね。
この、主人公側における”成長して主人公になるエルゼ”の二重構造と、相手側にもある”成長してライバルを自覚するマイアー”の対称構造が、35にビルドゥングスロマンが導入されたからこそ生まれた面白さとドラマ、って事になるわけ」
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「しかし何でビルドゥングスロマンを導入したんです?」
「何か疑問が初手に戻った気がするけど……、」
「まあちょっとそこらの話を」
「そうねえ。成長って、書ける人間と書けない人間が分かれる分野だと思ってるの。家庭環境とかいろいろで、実体験がものいう分野だから」
「アー、チョイと難しい話」
「まあそこらは省くとして、自分の方としては、やはり資料を集めたりいろいろ作って行くと、さっき言ったような”覚醒”があって、視座が変わるのね」
「自分にスキルが身についたというか」
「感じ感じ。”以前・以後”になったな、ってアレ。実際に実力上がって、何かを作ると周囲の対応も変わってくるのよね。そういう体験を分析すると、成長には何が必要だったかというのを”物語”に出来ると、そう思った訳」
「RPGみたいな?」
「そうそう。こんな解釈だったと思うわ」
・動機となるフラグの回収
↓
・決め手の決別
↓
・成長を示す試練
「訓練みたいなのは、無いんですね!」
「訓練が必要な場合もあるけど、大体は、既に実力的に問題なくて、ただメンタルの部分が押さえ込んで実力を出せてないと、そういうモノだと思ってるのよね。
だから成長で大事なのは、自分で掛けている抑圧を解除すること。
そのための積み重ねが大事って処かしら」
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「何でそうしたんです?」
「幾つか理由と思われるものはあるわ」
「どうぞ」
「まず第一に、当時のラノベでビルドゥングスロマンを主軸に組み込んだ作品が見受けられなかったこと。観測者によっては”あった”と思うけど、当時のラノベはシリーズ化が容易だったこともあって、主人公の成長ってほぼ無くて、事件を追うようなものばかりだったのよね」
「成長が無いと”事件を追うになる”んですか?」
「ええ。だって成長って、基本的に成長限界があるから、それに至ると話が終了するの。だから成長は基本的にゼロにして、事件バリエでシリーズを進める訳」
「アー、成程……」
「そして主人公が成長するとしても、成長が主軸では無く、事件を追っていく中で、結果として成長していく、というもので、成長がストーリーを回す作りにはなってなかったの」
「観測範囲で言っています」
「”こういうのがあったぞ”みたいなのは不要だから御容赦ね。私の話をしている訳だから。
でまあ、第二の理由としては、それを組み込むことで物語の厚みが増すから、ね」
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「物語の厚みというと?」
「物語は基本的に、”起きること”で進むわ。解るわね? 何も起きない場合、そこに物語は発生しないから」
「アー、まあ、定義ですね」
「そういうこと。でまあ、”起きること”って、何かしら?」
「ええと、”事件”ですよね」
「そうね。何か事件が発生し、それが連鎖したり、別のものに置き換わって進んで行くわけ。――じゃあ、”事件”って、成長としてみたら、何?」
「――”外の関係”ですね!」
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「そういうこと。当時のタイトルの多くは事件を動かすことで物語としていたんだけど、これを見ていた私としては、この”事件”を”外の関係”にすれば、主人公の”内面の変化”を起こしたり、相互作用出来ると考えたのね」
「つまり、物語が、事件と主人公の成長で、二重化するんですね!」
「しかも主人公の成長は事件との相互作用だから、物語のモチベーションにもなるのよね。
あとは制御だけど、私はプロット派だから問題なかった訳」
「組み込んだというか、”そういうのを作るのに向いていた”というか……」
「私の作家としての覚醒の一つが、この”成長”を書けるようになったことなんだけど、これを初期に獲得してたのはリセマラ成功クラスの重大事よね……」
「当時レアだった”成長を主軸にした物語”が、そうやって出来たんですね」
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「でもそういう”覚醒”の始まりって、何だったんです?」
「最初は誰でも小さなこととして体験してるんじゃないかしら。例えば九九を完全に言えたときとか。平仮名を全部書けたときとか。
そういう、自分の区切りとなる成功体験を大事にしておこうって話よね」
「もうちょっとソレっぽい話を」
「そうね。私の場合、やはり小学校五年の時に自作したRPGボードゲームよね。何度も話に出してるけど、あれを作るにはそれなりにゲームのシステムに通じている必要があるし、それを形にしようという思い切りが必要だったわ。そして作った後、認められた。
自分の道を決めた一歩よね。そして――」
「そして?」
「そこから始まるクロニクルとホライゾンの作成。クロニクルはそれまでの延長として出来たけど、ホライゾンは挫折したから、だからこそ、そこからの積み直しとかの実感が強いの。あれでホライゾンがストレートに作れていたら、今作るものはもっとヌルかったでしょうね。
その上で、また大事なのが、それらを作ってる間に作ったTOKYOのアイデアベースとなるような掌編ね。今見ると大したことないけど、当時書くとき”誰も書いたことがないようなものを書こう”って躍起になって、出来上がったときは”自分だけのものが出来た”って思ったものだわ。
これは、それまでの”積んで・思い切る”ことで得ていた成功体験に対し、”自分だけのものを作ろう”という要素を与えてくれた訳」
「いくつもの”覚醒”が集まって、――こんな面倒な作り手を形成したんですね」
「それホントに否定出来ないから困るわ……」
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