『激突のヘクセンナハト』巨大物を構築する独特のクラフトルール

「今回の話は、激突のヘクセンナハトに搭乗する巨大なマギノデバイス。全長500メートル超の魔法杖の生成システムについてです。何となく流してしまいますが、ちょっと特徴ある生成システムはどのようなものなのか。そんな話ですね」


「今、実はこのコラムを書くか、クリスマスの絵を描くかで迷っていてね……」


「嫌なリアタイ感出してきましたね……」


「まあでも内容的に、かなり細かい部分の話だから、すぐ済むと思うわ。それに、これはちょっと別の意味も含む話なのよね」


「それは、どういう?」


「まあ後々で、とりあえず生成システムを見てみましょう」




「さて、この二つのフレーム生成描写があるわね。


・前者はノーマルフレーム=魔女の基本装備(人間サイズ)を作るとき

・後者はマギノフレーム=500メートル超の魔法杖を作るとき


 こういうものを考えるとき、私達は何を発想すべきかしら」


「ええと、この描写などから見ていると、――素材を変形加工するシステムですか?」


「そうね。それも考える必要があるわ。でも、もう一つ考えるべきことがあるの」


「? 何です? それは」


「加工側のシステムだけじゃなく、被加工側のシステム。

 つまり”素材の状態”ね」


「素材の状態? 何です? それ」


「じゃあ、たとえば水を素材として考えるわね? 状態としては、どんな感じがあるかしら?」


「――個体・液体・気体……、でしたっけ?」


「そうね。じゃあ”水を剣にする”にはどうしたらいいの? 状態は変化させていいものとするわ」


「状態を変えて良いなら、――氷の剣を作ります」


「ええ。フツーはそうするわよね? じゃあそこで質問なんだけど、氷の”剣の形”を作るには、どうしたらいいの?」


「……型を作って、それに水を流し込む?」


「そうよね? じゃあ、そこまで理解出来たなら、素材を変えて発想してみましょう」


「素材を変えて? ……どんな素材ですか?」


「うん。――MP、またはマナとかでもいいわ。これを術式で”剣”にするにはどういう手順を踏むの?」


「え? ええと……」


「ゲームとかでは、よくあるわよね。MPを”MPの剣”に変換する術式って。最近のエンタメだと、”オリジナルの術式”を駆使する主人公とか。

 あれはどういう手順を踏んでいるのかしら」


「ええと、例えば神術の場合だと、剣神の系列だから”MPの剣”が召喚できるとか、”オリジナルの術式”の場合、そういうことが出来るキャラはそういうことが出来るとか……」


「フシギよね。水は型に流し込んで凍らせないといけないということが解っているのに、何故かMPやマナ、フシギパワーについては、そういうのスっ飛ばしで”形”になってしまう」


「別にそれはそれで、いいんじゃないですか?」


「矛盾が生じやすいのよ」


「たとえば?」


「MPやマナをそのまま剣に加工出来る場合、じゃあMPは加工可能な万能素材として、何処にあるの?」


「え? それは、その人の中に……」


「それは”剣に加工出来る”ものなのよ? 物理的にその人の中にあるの?」


「いや、多分、術式を通して物理化するので、非物理状態でその人のなかにあるのでは……」


「術式のちょっとしたミスで、人の中には”物理化する爆弾”があるようなものよね。

 じゃあ、外部からの操作で”人の中に剣を作る”で暗殺し放題になるわよ?」


「セキュリティが……、って思いましたけど、セキュリティの術式の出所は何処だとか、万人にそれが掛かってることにするにはどうするか、って問題がありますね……」


「だとしたら、どうするの?」


「たとえばMPは、”界”が違う領域に保管されている、とか?」


「その場合、じゃあ、現世において、その人のMPとかマナとかの”量”を見せる演出は使えなくなるわね。それが漏れていたら”火薬庫から火薬が漏れてる”ことになるから」


「アー」


「――まあこういうのって、ほとんど言いがかりだけどね? だから”いやそれはおかしい”とか早口になる意味は無いわ。

 でも、こういうのを考えたことがあるかどうか。

 それによって、変わる部分があるの」


「変わる部分?」


「ええ。――誰も見つけていない応用と、大量絶滅の発生と回避」


「誰も見つけていない応用って、どういうことですか?」


「ええ。さっき、テキトーな流れでMPの矛盾ぽいのを言ったわよね? MPが人の中に非物理状態であるならば”体内に物理化する爆弾抱えてる”って」


「ええ。ありました」


「じゃあ、新作のタイトルで”俺だけが知っている。世界の誰もが知らずに使っているマナが大量殺戮兼暗殺システムだということを”ってのはどうかしら」


「アー」


「他にも”皆が何気なく使っている魔法のシステムを分解研究したら万能武装とアーティファクトを無限生成できるようになりました!”とか、そういうの」


「アー」


「これらの発想だと、よく言われる”読者は複雑なものを学びたくないから、既存のガジェットを使った方が読んで貰える率が高くなる”をクリア出来るのよね」


「勿論、今のアイデアが面白いかどうかってのは書き手次第になるから別として。

 ただ、こういう”応用の詰め”を行うことは、基礎にあるものを否定する訳じゃなくて、基礎を活かして自分だけが応用を得る=多くの読者に向き合いながら他の作家を出し抜ける、と、そういうことでもあるの」


「読者は応用を欲していなくても、作り手は応用までを見ることで、基礎を活かすアイデアが得られる、ということですね」


「そういうこと。そしてこれは、場合によっては、大きな副次効果を生む可能性があるわ」


「……? それはどういう?」


「こういう、基礎を活かしたまま応用を見せる作品が出てくるようになると、基礎だけの作品って”過去のもの”になっていくの。つまり”基礎だけの芸風は古い”ってことね」


「アー、格闘ゲームで必殺技ゲージが付いたときのような……」


「感じ感じ。それでまあ、このときに発生しているものがあるのよ」



・次代のムーブメント

・旧代の大量絶滅


「無論コレはいきなり生じることってなくて、実際は緩やかに常に生じているのよね。ちなみに何か特定ジャンルや媒体のことを言ってる訳じゃ無いから、そういうのが見えた人は自分の現実の中で宜しくね」


「ともあれ、”基礎を押さえた応用”が、当然のパッケージとなっていくというのは、何にでもあることですね……」


「――でまあ、チョイと脱線したけど、ヘクセンでは加工素材としてはお馴染みの”流体”を使用しているのね」


「専門の私の仕事だと思いますが、”流体”はこんなものです」



・流体、地脈

 ……”流体”は万物や法則、事象を構成する万能因子。世界全てはこれに満ちていて、その太い流れを”地脈”と呼ぶ。

 地脈にアクセスすることで、運命や時間に関与することも可能。


「流体の面白いところは、何もかもがそれであるから、今の私達も、周囲の大気や大地も宇宙も全て流体ってことね。

 果ての無い流体のプールの中に、私達が形を保つ”型”や”相”があって、それによって私達や物理法則が存在している、という感じ」


「流体には密度があって、人の意思に引き寄せられます。そうやって人が自分の中に獲得した流体を”拝気(内燃拝気)”と言い、外部に獲得した拝気を”外燃拝気”と言います」


「――内燃拝気の場合、人の中に”物理化する爆弾”があることにならない?」


「いえ、拝気は”人を作る流体の密度”として加算されているので、内燃拝気の流体は”その人を作る流体”として成立してます。だから外から加工は出来ません。

 人であること自体が、流体を外部操作されないセキュリティになってるんです。

 無論、本来のその人を作る流体量を超えているので、漏れるような演出は出来ますね」


「外燃拝気は何処にあるの?」


「その人の”支配圏”ですね。気配や”空気・雰囲気”とか、そういうものとして存在しています」


「……アンタ、自分が目立つのは巨乳のせいじゃなくて外燃拝気量だとでも言いたいの……?」


「ま、まあ大体そんな感じの設定ですね」


「なお、ヘクセンでは、他シリーズよりも流体などの要素や扱いを絞っていたり、ビミョーに変えてるわ」


「どういうことなんです?」


「OBSTACLEシリーズが、そういう”幅”のシリーズってのもあるし、ヘクセンはホライゾンの刊行中に出た作品だけど、現代モノだし、4巻完結(当初は3巻完結予定)でしょ? だからこそ既刊読者じゃない御新規さんが手に取ると思って”解り易く”してるのよね」


「そういう意味では、いつもの”先に●●を読んでおく必要が無い”ですね」


「――さて、ヘクセンの流体だけど、ヘクセンの魔女達はこれの取扱量が莫大なのね。

 では、どのような問題が生じるでしょう?」


「問題? ……キャパオーバーとか……?」


「器がデカいから、ちょっとくらいだったら誤差範囲よ。

 問題が生じるのは、寧ろ”出力系”なの」


「そうなんですか?」


「ええ。よく考えて見たら解るわ。

 魔女が莫大な流体を扱えるとしても、魔女の歴史として考えたら原初の魔女が扱える流体の量って、当然、少なかった筈よ」


「その根拠は?」


「人類が発生して言語を得て、それを成文化できるようになって初めて高度な技術が継承可能となるけど、”継承”無しに開発研究は出来ないし、そもそも魔女が生物として 莫大な流体を扱えるなら、術式が無い時代、魔女は流体の制御が出来なくて暴走、全滅していると思うわ」


「……魔女は生物として莫大な量の流体を制御出来る生物であり、それが人類の言語獲得などと共に術式化して、制御が容易になった……、とかは?」


「その場合、魔女は人類の文化発生よりも早い時代に”強固な生物”として君臨しているだろうし、魔女では無い人類は魔女に滅ぼされているか、奴隷みたいな扱いになっているんじゃないかしら。そういう世界観も有りだけど、私は使わないわね」


「じゃあ魔女が人類の発展と共に流体量などを獲得、継承によってそれを莫大化していったとして、出力不足って、あり得るんですか?」


「あり得るわよ? だって認識不能な量の流体は制御出来ないもの。

 ホースの水は指で押さえるとかでその勢いを制御出来るけど、ダムの放水は制御できないでしょ? それと同じ事は起きるの」



・出力量

・出力個数

・出力範囲

・出力時間


「このあたりが制御出来ていて、初めて”制御出来ている”と言っていいのね。

 描写するとき、これらが発揮されてる箇所やコンソールをズームアップすると格好いいから、そのあたりオススメよ」


「しかし、ヘクセンの場合、魔女の出力不足というのは……」


「ええ。ヘクセンの場合、主に二つあるわ。


・変身(フォームチェンジ)する際の時間短縮

・マギノデバイス制作時の制御


「この内、変身の方は”制御出来ているんだけど時間短縮したい”ってことね。つまり通常よりも急ぎたいから、もっと上の制御が必要、ってこと」


「後者の方は、もう完全に認識の範疇を超えてる訳ですね」


「500メートル超だものね。視界に全部納めるのだって大変だわ。

 なお、ヘクセンの世界では、マギノデバイスなどには設計があることになってるわ」


「成程。その上で強いて言うなら、生成する装備の強度、精度上げ、というのもありそうですね」


「そんな感じね。ともあれこういう”変身の速度を上げたい”とか”巨大な建造物を即座に確度高く作りたい”とか、そういうのって、”技術”だから、日進月歩で開発と研究が進んでいる筈なの」


「しかしこういうの、”術式を研究した”で、雑に解決する場合がありますよね……」


「それがどういうものなのか”詰めておく”ことで、応用としての自分のネタ幅がアップする、というのはさっき言ったわね? いろいろ考えておくことで未来は増えるわ。

 表向きは解り安く”術式を研究した”でもいいの。ただ、作者の側としては、ちょっと余裕があるといいわね。そんな感じで」


「――で、出力不足なので、制御しなければならないものがあるとします。その場合、ヘクセンではどうしてるんですか?」


「ええ。さっき引用した箇所……。戻るの面倒だからもう一回出すわね」




「何となく解ると思うけど、ヘクセンの世界では、流体でフォーム(魔女用装備)やマギノデバイスを作るとき、流体を過熱状態にするのがフツーなの」


「流動性を上げる、というイメージですか?」


「そうそう。油が熱されて流動性が上がるのと同じで、素の流体よりも、過熱状態の流体の方が”型”に流し込みやすいのね。そして装備やマギノデバイスは修復や変形などを行うので、その過熱状態を基本的には保ったままにして戦闘するの」


「結構、危険な方法ですね。でも、そうだとすると、流体の制御の内”時間を早める方法”は解ります」


「ええ。最初から過熱状態の流体をストックしておけば、型への流し込みは早くなるわね。実際、米国代表の魔女”エルシー・ハンター”なんかは、その手段をとってマギノデバイスを高速生成するわ」


「じゃあもう一つの方法は――」


「ええ。本文にもあるけど”自分以外のものにアシストさせる”の」


「本文中にある”駆動器”がそれ。どういうシステムか、解る?」


「ええと、まず、術式で流体を使って、”駆動器”を幾つも作るんですよね……?」


「そうそう。そして出来上がった”駆動器”を、魔女が持つ莫大な流体ストックの出口にして、装備の各部を成型させるの」


「……このとき、魔女が行っているのは、何です?」


「ええ。駆動器の制御と、装備の設計図となる”型”の展開。

 つまりこのとき、魔女は、自分の装備をいちいち術式で作っていないの。

 本来ならば装備を作る手順である”流体から作る”で駆動器を幾つも作り、あとは設計図通りに駆動器が流体を吐き出し、装備の形に加工するのを待ってればいいの」


「変身、というと魔女ッ子変身バンクみたいなのを想像しがちだけど、ヘクセンのはそうじゃないわ。全身各部、またはマギノデバイス各部に流体を加工する駆動器がまず成型され、同時進行で一気に作り上げるの」


「マギノデバイスの場合、作られるごとに駆動器が加算されて行きますね……」


「そうね。発想としては、マギノデバイスは巨大だから、”巨大な駆動器を作るために、それ専用の小さな駆動器を先に作る”とか、そういうのも設定にあるわ。

 言い換えるなら、多段式の生成ね」


「手間が掛かってるようですけど、魔女が一人で全部作るより、その方が早いし、確度が高いものが出来上がると、そういう訳ですね?」


「そう。

 例えとしては悪いかもだけど、プラモを、ランナーから手で千切って説明書も見ないで作り上げるのが”魔女が一人で作る”ね。

 だけどヘクセンの場合、まず設計図を用意して、次にニッパーとか作って、そのあと皆で一気に各パーツごとに作ってしまうの。

 出だしはチョイと遅くても、途中から急激に完成速度が上がるのね」


「――で、役目を終えた駆動器は?」


「ええ。駆動器は流体の出口であり、加工器でもあるから、そのまま各部の出力系として使われるわ」


「ヘクセンの魔女達が、各国の代表であると共に、バックアップに企業や国家、軍隊などの組織があるのは、そういうものの開発研究があるからなのよね」


「軍事とか民間へのフィードバックもあるし、逆に集合知として研究されたものが魔女の方にも組み込まれる訳ですね」


「そういうこと。”技術”って共有出来るし、継承出来るものだからね」


「しかし、コレ、……アレですよね」


「何」


「――流体を素材とした3Dプリンタですよね!!」


「2015年だものねえ。魔女がいちいち手作りで立体物作ってるとか、そんな発想はなくていいじゃない、って思ったのよね。あの頃既に巨大な3Dプリンタで被災地用のシェルターを分割で作るとか、そういうのやっていたし」


「ヘクセンの魔女がやってることって、3Dデータを作って、それを自作の3Dプリンタで射出、合成してるって事になるわけですね……」


「魔術で3Dプリンタを作り、MP該当の素材で装備を作り上げるとか、そんな概念を持ち込んだのはヘクセンが初かしら。

 ともあれこういう、ちょっと面白い方法で装備やマギノデバイスの生成をしていたの。

 もう七年ほど前になるし、車輪の再発明みたいなことは起きてないと思うけど、そういう方法もフツーにあっていいものだと思ってるわ」


「これもまた、”応用”の一つですね」


「感じ感じ。うちは、先にやってる分、ちょっと応用展開して行きたいわね」


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