第7話 ユーモアとは?
「先に言っておくけど、これを装備して死んでも責任は取らないわよ」
「オーケーオーケー、何とかなるさ」
ドカマの警告にロビンが笑顔で答えているけど、ゲームで直ぐに死ぬヤツは、現実で命の尊さに涙しながら死ね。
「それでいくらだ?」
「そうね。40Gってとこかしら」
「それじゃ、よろしく」
「後で本当に返せよ……あ、領収書頂戴」
ロビンに文句を言いながらドカマに金を払って領収書を貰う。
「男だったら、そこで奢るぐらい言ったらどうなんだ?」
そう言いながらロビンがコンソールを弄ってレースクイーンのコスプレからアーミースーツに装備を変えると、彼女の纏う雰囲気が歴戦の人殺しに変わった。
「お前なぁ……そう言う事を言ってると叩かれるぞ」
「誰に?」
ここで言葉の選択を間違えると、逆に俺が叩かれるから慎重に選ぼう。
「異性の興味を引きたくて仕方がないんだけど何も出来ず、現実だと「キモッ!!」って言われるような……正義のアンチ様」
「何となく想像が付くけど、酷い言い草だな」
あれ? 選択間違えた? まあ、いいや。
「想像が付くなら分かるだろ。アイツ等は映画でも小説でもメス豚にならねえ性格ブスのヒロインを見れば、作者を叩いて心をへし折ろうとする連中だ、敵に回すと面倒臭せえ。例えばヨツシーの連中を見ろよ。客に暴言を吐いて暴れたら、掲示板で連中からボロクソに叩かれて炎上しているぜ。アンチ野郎ども、同じ様に暴言を吐いてる癖に自分は正義だと勘違いしてるから罪悪感なんて全くねえ」
「随分とまあ、リアリティーのある話だな」
「俺も被害者なんだよ。SNSのブロック数4桁は伊達じゃねえって」
「マジでスゲエな!! 一体何で炎上したんだ?」
「ユーモアを求めているだけだけど?」
「お前の求めるユーモアが分からん」
それを聞いて、片方の口角を尖らせニヤっと笑う。
「だったら教えてやるよ。いいかユーモアというのは単発じゃ意味がない。何度も何度も繰り返すんだ。
例えばこの前、芸能人の誰かが生まれたての赤ん坊の写真をアップした。俺はそれに「お前の赤ちゃんブサイクすぎワロタ」とコメントする。
さらに「俺の息子の方がかわいいぜww」と続けて黒人のデカマラの写真を送る。さらに続けて「潰れた動物の死体の方がまだかわいいぞ一体なんだそれ?」ってコメントする。
すると「この子は難病を抱えていて生まれた事自体が奇跡なんだ」と返してくる。で俺は「奇跡なのは俺がテメエのガキの写真を見てショックで死ななかったこと」と返す。
その辺りで大抵はブロックされる。友人は居なくなるが、大体は楽しい時間が過ごせる。自分限定だけどな。
やりとりを見た他のユーザーから叩かれるけど関係ねえ。当然俺はそいつ等に向かって「クソによるクソカキコ乙」と書き込んだ後でブロックする。それであっという間にブロック数が4桁台だ」
言い終わると、やれやれと両方の肩を竦めてため息を吐いた。
「お前がアンチじゃないか!!」
「何を言ってるんだ。炎上してるのは俺のアカウントだから被害者だろ! ステ垢だから問題ないけどな」
「ヒデェ……」
ちなみに、チンチラはドン引きして、ジンとドカマはSNSを知らないから半分も理解していないが顔は引き攣っていた。
「あ、一つだけ警告しとくわ」
突然何かを思い出したのか、ドカマが俺達に話し掛けて来た。
カマの警告とか、どうせアブノーマルな話しかねえだろう。
「ケツの穴にぶっこんだ後の注意事項か? 衛生面の話なら知ってるぜ」
突っ込んだ後のチ〇コの手入れについては、ここに来るまでの間にビートの爺から無理やり聞かされた。あれは一生忘れる事ができねえトラウマリストに入っている。
「違うわよ。今、この町に冒険者の振りをした山賊崩れがいっぱい居るから気を付けてって話」
「山賊崩れ? 賊ってだけで人間のクズなのに、その崩れとかクズ、クズ……あーロビン、クズ以下って何がある?」
語彙力が足りなくてロビンに聞く。
「お前」
「なるほど、俺と一緒じゃねえか……ってオイ!!」
「さっき聞いたお前が求めるユーモアは、クズよりも最低な部類だからな」
「…………」
クズ以下と言われても傷付いちゃいないが、軽く突っ込んだら、説得力のある答えが帰って来た。
「今ね、まともな冒険者の大半が森に現れた塔の調査に出払ってて、その隙に野蛮な連中が町で暴れているのよ」
「この町の領主は何もしてないんですか?」
チンチラの質問にドカマが肩を竦める。
「育毛で……」
「領主が睨みを利かせているから住人の被害は少ないわ。だけど、冒険者のもめ事は冒険者内で解決するのがこの町のルールなのよ」
俺が話し始めたら、すかさずドカマが喋り出した。どうやら、これ以上俺に口をはさまれたくないらしい。
「なるほど、分かった。気を付けよう」
ロビンが話を締めたが、その表情は笑っていた。どう考えても殺る気だろう。
会話が終わると、俺達はドカマに礼を言ってカウンターを後にする。
「山賊の話で忘れてたけど、金はちゃんと返せよ。ああ、それと、素敵な服だな」
「……え? ああ、ありがとう」
ロビンが驚いた様子で礼を言う。
「つまりダサいって意味だ」
そう言うと、ロビンの抗議を背中に受けながら防具屋を後にした。
移動中にクエスト依頼所を見つけたロビンの顔が笑顔になる。
「なあ、クエスト依頼所も覗いて行こうぜ」
先ほどの山賊の話を聞いて、冒険者が集まりそうな所へ行きたいと願う心は、戦争地域へ行き人を殺したい心と同じだろう。
「クエストを受けるのは構わねえけど、俺達はコゾドーム村に行くから、お前だけここで留守番だぞ」
「ああ、そうだったな。今回は諦めるか……」
ロビンを軽くいなして、クエスト依頼所を前を通り過ぎようとした途端、依頼所の扉からポーンとおっさんが飛んで来た。
宙を飛ぶおっさんは地面に落ちるとゴロゴロと道の端まで転り、ピクピクと痙攣しながら気絶する。
「誰も居ないのにトペ・コンヒーロか? ルチャが好きならメキシコまで飛んで行け」
気絶しているおっさんに話し掛けていると、再び依頼所の扉が開いて別のおっさんが飛んできた。
「……ここはルチャドールに何か思い入れがあるのか?」
俺が首を傾げてロビンを見れば、俺とは逆に笑っていた。これは間違いなくダメな方向へと進む。
「トラブルか? ちょっと見てみようぜ」
「お前が介入したら、ただの夫婦喧嘩でも連続猟奇殺人事件に発展するからやめとけ」
「いいから、いいから」
「「「…………」」」
忠告を無視して、ロビンがウキウキしながらクエスト依頼所へと消えていった。
そして、入ってから僅か5秒後。依頼所の中から今までよりも激しい騒音がして、チンチラ、ジンと顔を見合わせた。
「最近、皆が俺を見て「またか」って思う気持ちが理解できるようになったよ」
「私はレイ君が2人居る様な気がする……」
「…………」
「現役バリバリの殺人鬼と一緒にされるのは笑えねえな。ああ、笑えねえ。だからジン、テメエは頷くな」
あれで現実だとスーパーモデルっていうんだから、詐欺だと思う。
「取り敢えず、止めに行かなきゃ」
「……仕方がねえな」
年下に止められる年上はクソダセェな。と思いつつ、チンチラに連れられジンと一緒にクエスト依頼所の中に入った。
クエスト依頼所の中は学校の教室ぐらいの広さで、射精エキストラのNPC……違った、冒険者が部屋の中央を囲んで騒いでいた。
コイツ等が山賊崩れ? 全員汚ねえ格好だから、冒険者と見分けがつかない。
人混みをかき分けて中央を見れば……ロビンと一緒に義兄さんとベイブさんが冒険者と殴り合いをしていた……何故に?
3人の様子を見れば、義兄さんは怒っている様子で、ベイブさんはそれに付き合うという感じで少し困り顔。ロビンは嬉々として暴れているけど、あれに道徳的な観念を期待してはダメだ。
「カートさんが暴れているのも珍しいね」
チンチラが話し掛けて来たけど、お前は付き合いが短いから知らないだけで、義兄さんのスタンスは脳筋がベースだから、話し合いよりも殴り合いを優先にする性格だ。
それをチンチラに教えようとしたら袖を引っ張られ、振り返ればジンが殴り合いをしている3人に向かって指をさしていた。
「なに、お前も混ざりたいの? 乱交パーティーが好きだとしても、あれに加わるのは止めとけ、人生を後悔する」
言い返したらジンが顰めた顔をして頭を左右に振った。どうやら違っていたらしい。
改めて指先を見れば、その先に姉さん、ジョディさん、おまけでアルサが立っていた。
「チンチラ、姉さん達が居る」
「あ、本当だ」
「どっちが先に喧嘩を売ったのか確認しよう」
先に喧嘩を売ったのが義兄さんだったら、とんずらする予定。
「うん」
チンチラとジンが頷くのを確認後、俺達は射精エキストラの輪から抜け出して姉さん達に近づいた。
違った、NPCの輪から抜け出して姉さん達に近づいた。
「お姉ちゃん。どうなってるの?」
チンチラの呼びかけに姉さんが振り向くけれど、そのネタってまだ有効だったのか。不意を突いて俺の腹筋にダメージを与えるのはやめて欲しい。
「あら。やっぱりロビンちゃんと一緒だったのね」
「それで3人が……いや、ロビンがビタミンチャージに人間を喰うのは知っているけど、義兄さん達が暴れているのは何で?」
「それがね……」
話を聞けば、姉さん達はコゾドーム村の情報を得ようとここに来て、NPCの冒険者に話を聞こうとしたら姉さんがナンパされたらしい。
確かに姉さんは見た目が美人で性格もいいから現実でもモテる。だけど、弟の俺から言わせれば本性が極度のブスだ。
「プレイヤーをナンパするゲームってどうよ」
「それを言ったら、乙女ゲームは皆そうじゃん」
「確かにそうだ」
俺の呟きを聞いたジョディさんの反論に納得する。
「まあ、リアルブスが仮想世界で男を喰いまくるのは置いといて、目の前で現在進行形で起こっている珍事の説明をプリーズ」
俺が話の続きを促すと、今度はジョディさんが続きを話し始めた。
NPCのナンパが普通だったら断って終わる話だが、どうやらそのNPCは強引だったらしく、断った姉さんの腕を掴み強引に連れ出そうとした。
それを見た義兄さんが止めに入ると、今度は義兄さんがターゲットになった。
「そいつは、田舎者が都会者を虐めたがる妬みってヤツか? 風の噂じゃその虐めと寝取りが同じ属性で、ネトラレ好きが興奮するらしいじゃねえか」
「里帰りの青年が成長した従妹に惚れるけど、その子は既に地元のヤンキーのヤリマン彼女でしたー。里帰りネトラレネタは昔から鉄板だからね。だけど、今は私が話をしてるから黙れクソ野郎」
「……オーケー」
さらに話を聞くと、おちょくられても義兄さんは我慢していたが、NPCの一人が義兄さんの顔を指さしながら笑い、「そのかわいいツラが気に入ったぜ。今からテメエの嫁を全員でまわしてやるから、その悔しそうな顔で俺のを気持ち良くしてくれや」の発言にブチ切れたらしい。
「なるほど。義兄さんが切れるわけだ……」
普段の義兄さんは意外と大らかな性格なのだが。姉さんが絡むと一変、後先考えずブチ切れるアホだった。
いや、普段もアホなんだが、より一層アホになるという言い方が正しい。
「町中だと殺傷できる魔法は使えないし、困ったわねぇ」
姉さんは「困った」と言っているけど、その表情は笑っている。
それと魔法で何をしようとしたのか問い詰めたい。
「だけどさ、プレイヤーとパコパコしようとするゲームってどうよ」
「それを言ったら、R18のゲームは皆そうじゃん」
「確かにそうだ」
俺はまだ18歳以下だから挿入しようとしても強制ログアウトの刑。それ以前に薬で立たねえけどな。
ちなみに、ペド野郎のシリウスさんの話だと、このゲームはプレイヤーの年齢に合わせてNPCのセリフが変わるらしく、今回は姉さん達が大人だったから下品なセリフが出たが、未成年の俺やチンチラの場合だと、少しだけ大人しい下品なセリフを喋ると聞いている。
だけど、前に海で片耳のおっさんとヘイト合戦した時、思いっきり倫理アウトなセリフを言われた気がするけど、多分あれは俺が煽り過ぎちゃったんだろうな。
「と言う事で、レイちゃん、何とかしてね」
「何が「と言う事」なのかが分からない。それに、義兄さんとベイブさんの二人だけならまだしも、俺は何かを忘れて笑顔で人を殴っているアレを止める手段を持ち合わせてないぜ」
アレとはもちろんロビンの事。
ちなみに、俺達が会話をしている最中も彼女等は暴れていた。あれを止めろって? 無理だろ。
その様子を見て飽きれていると、肩をポンポンと叩かれた。
「……え? って、ぐはっ!?」
振り向くのと同時に殴られ仰け反った。
俺の体は後ろに居たジンに支えられ、床に倒れずに済んだけど何事?
正面を見れば、一人の冒険者風の男が俺を見てニヤニヤと笑っていた。
「おいおい、俺達の公衆便所を横からかっさらおうとか、舐めたマネしてんじゃねえよ」
「…………」
まさか何もしていないのに殴られるとは思わなかった。コイツは恐らく山賊なのだろう。違ってても俺を殴った時点でどうでもいい。
そして、痛覚設定が低いから別に痛くはないけど、俺の中の何かがブチっとキレた。
「上等じゃねえか。お前が上と下の穴から漏らしまくるのを見て笑わせてもらうぜ」
ジンから離れると口から垂れる血を拭い、目の前のクソ野郎を睨みつける。
「殺すのはダメだからね」
「……え? マジ?」
背中からショットガンを取り出したら、今まで黙っていたアルサに止められて、ブチキレたのも忘れて振り向いた。
「いや、たかが喧嘩で何で殺そうとしているのよ。アンタ、頭おかしいわよ」
真顔で言われて呆然としながら姉さんを見れば、残念ながら頷いていた。
「暗黙の了解で全員殺すまで戦ってないわ。皆も武器を持たずに殴ってるでしょ」
「……ふーん。分かった」
納得できないが仕方がない。
溜息を吐くと、目の前のクソ野郎に向かってショットガンをぶっ放した。
部屋内に鳴り響く銃声に全員が驚き、動きを止めて俺を見ていた。
そして、俺の前には膝を撃ち抜かれて床に倒れるクソ野郎。
「……い、痛てぇ!! 痛てえぇぇぇぇ!!」
最初、そのクソは自分の身に何が起ったのか理解できない様子だったが、粉砕している左ひざに気付くと、静かになった部屋で一人、叫び始めた。
その様子に悲しそうな表情を浮かべて、倒れて暴れるクソ野郎の右ひざに銃口を向ける。そして、再び鳴る銃声がクソ野郎の叫び声を打ち消した。
ちなみに、悲しい表情を浮かべたのは、苦しまずに殺すことが禁止されていたから。
「ギャーー!!」
クソ野郎は左ひざに続いて右ひざを撃ち抜かれ、自分の血に染まった床を両腕で這いずり、全身血まみれになりながら逃げようとしていた。
「逃げ惑う姿が芋虫みてえだな」
近づいて鞄からハイポーションを取り出し、上からぶっかけた。
「おえぇぇぇぇ!!」
クソ野郎は完治までとはいかないが治った両膝の代償に、不味いハイポーションに苦しみゲロを吐いてから気絶していた。
「お、お前。い、今、何をし……ガッ!!」
クエスト依頼所内の全員が突然起こった惨劇に呆然としている中、俺の近くに居た冒険者がいち早く現実に戻りギョッとした目で俺を見て質問してきたが、その返答の代わりにショットガンのグリップで顔面を殴る。
続けて、ショットガンを両手で振り上げて頭に叩きつけると、質問してきた男は床に倒れて身動き一つしなくなり、後頭部から流れる血が床を赤く染めていた。
「ハイポーションはもったいねえな」
今度はポーションをぶっかける。
「う……うぅ……」
小声で何か言ってる様子だったから、近づいて耳に手を添えた。
「ん? 何だって? 腰を振り過ぎてヘルニアがしんどい? お前、ゴブリン相手に頑張り過ぎだろ。仕方がねえな、治療してやるよ」
鞄から激辛万能薬を取り出すと、再び倒れた男にぶっかけた。
その途端……。
「ギャーー!! 熱い、燃える!! 助けてくれーー!!」
万能薬を浴びた男が体のバネだけで飛び跳ねて床の上を暴れ回った。
「飛び跳ねる姿が米つきバッタみてえだな。突然昆虫シリーズが始まったみたいだけど、お遊戯会をしたかったら保育園に行けや」
俺が感想を述べている間に床で暴れていた男が気絶する。だけど、万能薬の効果が体に残っているのか、気絶しながら体をビクつかせていた。
気づけば、俺の周りには誰も居らず、クエスト依頼所が静まり返っていた。
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