第30話 破壊行動の爆発
マーケット通りに入る前、ショットガンに土の属性弾を装填する。
ジンがそれを見て首を傾げていた。
「まあ、今に分かる」
ショットガンを構えて『ヨツシー』の店の近くに行くと……。
「でっていうー」
「後ろか!」
桃が背後から現れて、俺に突進してきた。
「死ね」
桃に向けてショットガンをぶっ放す。ちなみに属性弾だからダメージはない。
「ギャ!」
土の属性弾を顔面に浴びた桃が狙いを外して、横に居たジンにスピアーをぶちかました。
「……!!」
「うお!!」
桃のスピアーを喰らったジンは俺の服の端を離さず、俺もジンと一緒に地面に転がった。
「見えない!! 何も見えないんだけど、どうなってるの!?」
「ゴホ! ゲホ! ゴホ!」
突っ込んできた桃が横で叫び、ジンが地面に転がって腹を押さえながら咳き込む。日常の平和が一瞬で修羅場と化した。
「俺はお前のやっていることの意味が全く見えねえよ」
立ち上がると、ショットガンのグリップで桃の後頭部をぶん殴った。
「ぐへ!」
それで桃が気絶して地面に倒れる。
「ジン、無事か? それと意地でも俺の服を掴んで離さないのは止めてくれ」
ジンを助け起こすと、苦しみもがきながら紙に何かを書いて俺に手渡した。
『意味が分からない』
安心しろ。初対面でコイツの行動を分かるヤツはまず居ない。
「説明するとだな、コイツは金の匂いがする奴に対して物凄い嗅覚を持っているけど、それに思考が追い付かず獣と同じように襲い掛かるんだ。守銭奴が野生化した……一言でいえば守銭狂だ」
「ふむ、確かに良い得てその通りだな」
ジンに説明していたら、いつの間にかマリアが現れて俺の後ろに立っていた。
「よ、マリア。景気はどうだ?」
「残念ながら、コイツのおかげで稼いでいる」
マリアが桃を指さしながら、溜息を吐く。
「残念なのか?」
「ああ、買った客の殆どが二度と来るかと言って帰っていくからな」
「なるほど。俺もそのうちの一人だから、そいつらの考えは分かる」
「……前から思っていたのだが、お前は何でうちの店に来るんだ?」
店の従業員がそれを言っては駄目だと思う。
「そうだな……コトカでコイツからスピアーを喰らったのが最初の一発目。次にブロックの店で二発目。この店ができたと聞いて祝いに行く途中で歓迎の三発目。
ギルドに行こうと歩いていたら四発目。あの時は遅刻して義兄さん達に怒られたな……。
メシを食い終わって帰る途中で五発目、その時は路上にゲロをブチ撒けたっけ。
クエスト帰りでヘロヘロ状態の時に六発目。あの時は捕まってもいいから、コイツを本当に殺そうかと思ったよ。それから……」
「もういい。分かった」
途中でマリアが遮って話を止めた。
「俺から店に行ったことは……祝いに向かった時以外は……ないな……うん。ないな……」
「その、あれだ、色々とスマン」
「いや、マリアが謝る事はないと思うぜ、全ての元凶はコイツなんだから」
気絶している桃の顔面をぐりぐり踏みつける。ちなみに、ジンは俺の話を聞いて仰天していた。
「それで今日はうちに寄って行くのか?」
「今日はコイツの装備を買いに来たんだ」
後ろに居たジンをマリアに紹介する。
「マリアだ。今後ともよろしくな」
マリアが微笑むとジンがコクリと頷いた。
「……ん?」
「ああ、コイツは喋れないんだ。別にマリアを見てチンコをおっ立ちながら照れている訳じゃないから気にするな」
「そうか。レイの紹介だ、サービスはするぞ」
「ジン、特別サービスで一発抜いてもらえよ」
俺の冗談にマリアがジロリと睨む。
「そんなサービスが欲しかったら風俗に行け」
「残念ながらまだ未成年だ。仕方がねえからこの店で我慢するよ」
マリアが何も言わずに溜息を吐くと、桃の襟を掴んで引きずり店に向かう。俺とジンもマリアの後を追って店の中に入った。
「茶でも出そう……」
「いや、その三門芝居にもならねえ演技は見飽きたからいいよ。ほら、これをやるから湯を沸かしてくれ」
店の中に入るとマリアが何時もの如く俺の茶を要求しようとしたから、それを制して俺が持っている茶葉を投げ渡す。
「む? そうか……すまんな」
マリアが奥で湯を沸かしている間、ジンは店の中の商品を見ていた。
「何かめぼしい物でも見つけたか?」
俺の問いかけにジンが手にしていた品を俺に見せた……何でピンクのウサギのぬいぐるみ?
「コイツを使って性欲処理でもするつもりか? 随分とかわいいオ〇ホールだな」
ジンが眉をひそめて首を横に振り、俺にウサギを渡す。
受け取ったウサギを調べればリュック状になっていて、耳の裏から物を入れられるようになっていた。
「ここから突っ込むのか……少し穴が大きくないか? これじゃ気持ち良くならねえだろ」
それを聞いてジンが溜息を吐いていた。
「待たせたな。何か気に入ったのは見つかったか?」
マリアが戻って、珍しい事に俺達の分まで茶を持ってくると、椅子に座って煙草を吹かし始めた。
「鞄が欲しいんだけど、独身アラサー女が好む様なファニーな感じじゃなくて、普通のは置いてないか?」
「ふむ……私達プレイヤーは全員普通の鞄を持っているからな……少し待て」
マリアはそう言うと、俺の分の湯飲みを取って桃にぶっ掛けた……どうやら、相変わらず俺の分の茶はなかったらしい。
「アチッ! アチチチッ! ウォチャー!」
最後の悲鳴は不明だが、頭から熱い茶をぶっ掛けられた桃が叫び、起き上がって店の中を暴れ回る。
「ハッ! 私は何をやっていたのかしら?」
「桃、鞄はあるか?」
正気に戻って首を傾げているアホ女をガン無視して、マリアが話し掛ける。
「鞄? 確かウサちゃんとクマちゃんと蜘蛛なら作ったわよ」
「蜘蛛?」
「ですが、なにか?」
なぜそんな鞄を作った。
「いや、お前が極度のメンヘラーなのは知ってるから、男物の鞄はないか?」
俺の質問に桃が首を傾げる。
「普通の鞄なんて誰でも持ってるじゃん」
「いや、今日お前が土手っ腹にブチかましたコイツの鞄が欲しい」
「ふーん。コイツってNPC?」
桃がジンを指さしたから、その指を掴んで逆方向へねじ曲げる。
「ぎゃーー痛たたたたた。何するのよ!!」
「プレイヤーでもNPCでも客に向かってコイツと呼ぶのは止めろや」
「分かったわよ! で、このお方はどなた様でしょうか?」
桃の口から上品なセリフが出て店の空気が濁る。
「一度品性を失ったクソが丁寧に話し掛けても所詮クソか……」
「そういうアンタもクソの一人よね」
「ああ、ついでにここへ来る度にクソのお前に迫られているけどな。被害者をなくすために頼むから死んでくれないか?」
「アンタって私だけじゃなくて他のクソにも迫られているでしょ。人気があっていいわね。クソどもがアンタに群がる理由が分かるわ」
俺と桃が言い争っていると、ジンが俺の服を引っ張って何かを書いた紙を俺と桃に見せた。
『二人は恋人?』
「「…………」」
俺と桃が紙を見て固まっている横で、マリアが腹を抱えて大爆笑していた。
「あははははっ! ジンと言ったな。真面目だと思っていたけど、意外とユーモアのセンスがあるぞ」
「ジン、俺が女と絡む度に思春期に発情しまくるメスみたいな考えをするのは止めろ」
「コイツまだガキじゃん。金のある大人にしか私、興味ないわ」
俺と桃から違うと言われ、マリアからは笑われてジンが困惑していた。
「それで話を戻すけど、鞄は作れるのか?」
俺の質問に桃が嫌そうな表情を俺に見せた。
既に諦めているが、客に面と向かってその表情はないと思う。
「作れるけど、ただの鞄なんて作るのつまらな……」
「ジンの装備を一式買おうかな……」
「喜んで!」
桃の話を遮って追加注文を口に出すと、嫌そうな桃の表情が180°変わった。
このゲームを始めてから、いや、今までの人生の中でここまで自分に正直な女を俺は知らない。
「鞄は私達と同じ仕様で良いわよね。外見はどうする? このジンって人、中東アジアのツラしてるからラクダにでもしようか?」
「ファニーをこじらせてファンキーな考えは捨てろ。中東アジアならテロリスト風の黒で頼む。余計な事はするなよ。ついでに余計な攻撃もするなよ」
「私だって好きでやってるわけじゃないわ。無意識に体が動くのよ」
「心療内科に行って医者に相談して来い。ついでに無駄だと思うが、金に強欲な醜い心も相談しろ」
桃がフッと自虐的に笑う。
「セラピスト如きに私の欲望は抑えられないわ」
「自慢にならないな……本当にならないな」
「私の事はいいわ。それで装備は皮で良いのよね」
「ああ、予算は多めに貰っているから良い材料で頼む」
それを聞いて桃の目の色が輝いた。
「さすが『ニルヴァーナ』ね。そこらの貧乏共とは違うわ」
「職人としては、いや、人間としては最低の性格だけど、お前は欲望が高まると良い品を作るからな」
「あなたも借金まみれの貧乏生活ってヤツを一度味わってごらんなさい。二度と体験なんてしたくないから……」
今の桃の話から、どうやら彼女はその貧乏体験というのを味わった事があるらしい。そう思うと、金銭欲むき出しの今の彼女の行動も多少同情でき……
「あのゲームは最低だったわ……」
訂正、コイツは一度、殺す。
その後、ジンの装備は俺と同じサハギンのレザーで色はやや茶色い黒。グローブ部分に俺と同じく、ロックピックを仕込む小さな穴を入れるなどの注文を入れると、桃が鼻歌を歌いながら奥へ消えて行った。
マリアのエンチャントは桃が作り終わったら決める事にして、ジンの武器を選ぶ。
「ジン、お前、接近の武器は何が良い?」
『ナイフ』
「俺と同じ突き刺し系か……だけど最初に会った時、俺に向かってメイスで殴って来なかったか?」
それを聞いてジンが少し考えた後、思い出したらしい。
『アレは元の依頼主からの借り物。気絶効果が付いていたから使っていた』
「なるほど……マリア、ナイフで良い品はないか? 無ければコイツのケツに入れるバ〇ブでもいいぞ」
「うちは普通の武器防具屋だ。いかがわしい品が欲しけりゃ他を当たれ」
「ただの冗談だ」
「お前の冗談はセクハラが酷すぎて訴訟されたら確実に負けるレベルだぞ」
「もちろん知ってるぜ。だけど俺はまだ未成年だから、若さの至りってのが許される年齢なんだよ。性に飢えたおっさんと一緒にしないでくれ。それで、ナイフはあるのか?」
「ナイフか……そういえば昨日か一昨日にルイーダがそんなのを作っていたような……」
マリアとの会話中に店の入り口のカウベルが鳴って全員が振り向くと、緑色のフリーダムキャット、改め、当のルイーダが店に現れた。
「ただいまー。あーー疲れた」
この女は何時もフラフラと出歩いているが、一体、外で何をやっているのだろう。
「ああ、ルイーダ、ちょうどよかった」
「何?」
「昨日か一昨日、ナイフを作ってなかったか?」
マリアの質問にルイーダが首を横に振る。
「そんなの作ってないよ」
そう言いながら、ルイーダはジンがまだ手を付けていない茶の入ったマグカップを一気に飲み干した。
「びひゃーうめぇーー!」
「…………」
ジンは彼女の行動に反応できず、ただ見ているだけだった。
「ん? もしかしてお前のだったか?」
自分を見ていることに気付いたルイーダの質問にジンが頷く。
「そうか、次からは気を付けろよ」
「…………」
ジンは意味が分からないという表情を浮かべていた。
「私が昨日作ってたのは銃剣だよ」
「銃剣? 何でそんなものを……」
マリアの質問にルイーダがにんまりと笑った。
「ほら、この間ショットガンの砲身を作ってくれって言ってた……あー名前忘れたけど、そんな奴がいただろ。それで触発されて作ったんだけど、よく考えたら銃剣だけ作っても使えないのに気付いてね。今は倉庫に入れてるぞ」
タカシが話していたショットガンの作成にルイーダが関与していた話は本当だったらしい。
「ショットガンってこれの事か?」
鞄からショットガンを取り出してルイーダに見せると、彼女は驚いた表情を見せた。
「おおーモスバーグM500じゃん! アイツ、本当に作ったのか。だけど、どうしてお前がそれを持っているんだ?」
「タカシから買ったんだけど」
「ん? タカシって誰だっけ? そもそも、お前は誰だ?」
今日は顔を晒しているけど、俺、ここの常連で何度かこの猫とも話はしているはずだけどな……。
「お前は認識障害か何かか? 常連客の顔ぐらい、いい加減に覚えたらどうだ?」
「常連? ……そうなのか?」
ルイーダが首を傾げる。
「ルイーダ、コイツはレイだ」
マリアから教えてもらってルイーダが露骨に顔をしかめた。何気なくマリアも俺に向かってコイツ呼びしてね?
「はあ? あのいつもフードを被って陰険な癖に口だけが悪い、あれか?」
ブチッ!
それを聞いた瞬間、俺の我慢が限界に達して理性が吹っ飛んだ。
バーン!
ショットガンにバックショット弾を入れて装填させると、ルイーダに向けてぶっ放す。
俺が銃口を向けた瞬間、ルイーダが体を低くして躱し狙いが外れて壁に銃弾の後が残った。
それを見ていたマリアが俺の行動に驚き、慌ててカウンターの下に隠れる。
「チッ! 外したか……」
「オイ! お前、何撃ってんだよ!」
ルイーダの抗議を無視してハンドクリップを前後に動かし装填する。
「ウルセェ! テメエ等の態度に限界が来たんだ!! 桃、テメエも出てこい! 日ごろの恨みを今返してやるよ!!」
叫びながらショットガンを天井に向けて撃ちまくる。
「ウルサイわね、何ごと?」
「待て、今は出てくるな!」
騒動に桃が姿を現したのをマリアが止めるが、もう遅い。
「死ね!」
「キャッ!」
ショットガンを放ったが桃が慌てて壁に隠れ狙いを外した。
「どいつもこいつも避けやがって、素直に撃たれろ!」
ショットガンの弾を装填していたら、後ろからジンに羽交い絞めにされた。
「ジン離せ! お前もぶっ殺すぞ!!」
ジンに向かって怒鳴るが、それでもジンは必死に俺を押さえようとした。
「レイ、少し落ち着け! 確かにこちらも態度が悪かったが、いくら何でもそれはない」
マリアの抗議に顔をしかめる。
「態度が悪い? 自覚してたんだったら、最初から客に媚びやがれ!!」
ジン羽交い絞めにされたまま、再び天井に向けてショットガンを放つ!
「オイ、マリア! アイツは頭がおかしいのか?」
カウンターに隠れたルイーダが大声で叫ぶ。
「前にジョーディーから聞いた事がある。アイツは普段は大人しいが、一度切れると人格がぶっ壊れて容赦なく相手を潰すらしい。しかも完膚なきまでにだ!!」
「何て変人だ!」
マリアとルイーダが囁いているけど丸聞こえだ。
「聞こえてるぞ、スリー変態モンキーズ! 脅えたメス猿みたいにコソコソと喋ってんじゃねえ。おしおきしてやるから、姿を現せ!!」
「待って、本当にこっちが悪かったわ。全面的に謝罪するからその武器をしまって!」
銃をぶっ放し大声で叫んでいたら、壁の奥で桃が白旗を振り手を上げた。
「あ? 謝罪だ? ……まあ、いい、受け入れてやるよ。だけど、その前に……テメエ邪魔なんだよ!」
「……!!」
羽交い絞めを無理やり振りほどくと、ジンの頭をぶん殴って腹を蹴飛ばし壁に叩きつける。その様子に『ヨツシー』の三人が驚き顔を青くした。
ショットガンを背中にしまって、桃を手招きする。
「何もしねえから来いよ……」
ジンを殴ったのを見た桃が、脅えて近寄ろうとしない……。
「来いって言ってるんだ、ケツを蹴っ飛ばすぞ!」
大声を出すと、桃が縮こまりながらやって来た。
「ほら、仲直りの握手だ」
片手を前に出して桃を待つ。
「?」
桃が近寄ると……。
「はーー!」
殴る振りをした。
「キャッ!」
「どうだ? ひっかかったな」
怯える桃を見てゲラゲラ笑う。
「な、何するのよ、面白いと思っているの?」
桃の抗議に対して、床につばを吐いた。
「アホか俺は面白くねえ! クソなだけだ! 俺はな……子供の頃、色々あった。それが今も続いている。
何だがな……何だが余裕がねえんだよ! これ以上人生のケツに火がついている奴をおちょくると何をするか分からねえからな、二度とするんじゃねえぞ!」
そう叫ぶと、この場に居る全員がガクガクと首を縦に動かした。
「少し、外に出て気分を落ち着かせてくる」
店の外に出ようとしたが、店内の騒動を聞きつけて多くの野次馬が店の外で中の様子を伺っていた。
「どけ! テメエらもケツに弾をぶち込むぞ!」
大声で怒鳴ると、全員が蜂の巣をつついたように逃げていった。
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