第26話 予算不足のドラゴンさん

「また罠よ!」


 先頭で罠を探していたステラが大声で皆に伝える。

 パズルの部屋を抜けた先の通路は、大量の罠が張り巡らされた危険地帯だった。


 100mも進まないうちに、今見つけた罠で八つ目だから、狭い範囲でかなりの数が仕掛けられている。ダンジョンも罠作成の匠を呼んで、本格的に侵入者を殺しに来たらしい。


 ステラが皆に分かるように、罠がある箇所を白いチョークで丸く描き、危険を知らせる。

 先ほどからその行動を見ているが、チョークで罠を知らせる方法は便利で発想も素晴らしいと思う。特に誰かが罠に引っかかっても、自分の責任ではないと断言できる証拠を残せるのが素晴らしい。

 俺もコトカに帰ったらブロックの店でチョークを買って、同じように使おう。ちなみに、買う際にブロックが惚気話を始めたら、チョークスリーパーの餌食にする予定。誰が上手い事を言えと言った?


「お、ドアがあるな」


 シャムロックさんの声で視線を前に戻すと、進む通路の先に扉があった。

 ステラが慎重に調べて罠がない事を確認して、扉の開錠に取り掛かる。

 ここまで罠が大量に仕掛けられていたのに、扉にだけ罠がないのも何か変な気がしたけど、まあ良いか……今はステラが活躍しているのだから俺が口を挟むべきではないだろう。


「レイが開けた方が早くね?」


 ブラッドが進言するけど、それは一生懸命頑張っている彼女に対して失礼だと思うから首を横に振る。


「ステラのスキルも上がるし、少しはメンバーを信用してやれよ」

「ありがとう」


 ステラが俺に礼を言ってから再び開錠に取り掛かる。その一言で俺の株が上がった。イェイ。

 そして、ブラッドの株は今の一言でストップ安。株と信用は迂闊な発言が命取り。




 最後尾で背後を警戒しながら待っていると、俺が立っている横の壁から微かな風の音が聞こえた。

 少し皆と離れて調べると、壁の隙間から風が流れている。隠し通路か?


「レイ、何をしているんだ。入るぞ」


 壁を調べようとしたら、何時の間にかステラが扉の開錠に成功していたらしい。

 既に全員が部屋の中に入って、最後に残った義兄さんが俺を呼んでいた。


「あ、待っ……」


 呼び止めようとしたが、義兄さんが部屋の中に入ると同時に扉が閉まった。

 走って近づき扉を開けようとしたら、部屋の中から叫び声が聞こえた。これは、もしかして部屋自体が罠なのか?

 扉を……ってまた鍵が掛かっているし、扉を挟んで部屋の中からは叫び声とか、ギャン泣きしているクララの声が聞えるから、正直扉を開けるのが怖い。

 だけど、開けないと皆が危険だし俺だけ生き残っても仕方がないから、ロックピックを取り出して開錠を始めた。


 鍵穴にロックピックを差して弄るが……ふむ。ステラが手こずったのも分かる。

 難しい構造だ……何となく、ワザと開けさせないような仕組みな感じがする。


 これは、もしかして先ほど見つけた隠し扉の方が正解かもしれない。そうなると部屋の中は……嫌な予感がする……ああ、嫌だ、嫌だ。


 カチャ。


 複雑なドアロックに少々手こずったが、1分以内に開錠に成功した。我ながら変態レベルの才能だと思う。




 扉を開けて部屋を覗くと、中は何十体というゾンビで溢れ返っていた。

 ここまで漂う腐敗臭とクララのギャン泣きが部屋に響く中、義兄さん達が後衛を守るように固まって必死にゾンビと戦っていた。

 開けた扉の反対側を見ればノブが付いていなかった。そして、鍵も自動で掛かっていたから逃げれなかったという訳か……。


「おーい! 大丈夫~?」


 目の前に居た姉さんの肩をポンと叩いてそっと声を掛けると、振り向いた姉さんが俺を見てギョッとしていた。

 どうやら、姉さんは俺も一緒に部屋の中に居たと思っていたらしい。俺が扉を開けた事に驚いている様子だった。


「皆、レイちゃんが扉を開けてくれたわ。逃げましょう!!」


 姉さんが大声で知らせると、全員が一斉に走り出して部屋の外へと雪崩込んだ。

 全員が出たのを確認してから扉を閉めると、扉からカチャリと音がして再び鍵が掛かる。

 扉から叩く音や引っ掻く音がしたけど、頑丈な扉だから破壊される事はないだろう。

 だけど、ゾンビさん達も長い間閉じ込められて、やっと出られたと思ったらまた閉じ込められるとか、正直そんな人生は嫌だと思う。

 ああ、ゾンビは既に死んでいるから、人生も終わっているのか?




「助かった~」


 ステラが床に手を付いて息切れしていた。他の皆も似たような様子で疲れている様子。


「それで部屋の中はどうだった?」


 何となく予想はついてるけど、聞くのがマナーだと思って声を掛けた。


「ドアが閉まると同時に壁からゾンビが溢れて来て大変だった。しかも、ゾンビの攻撃に強力な毒があって、体力回復と解毒の繰り返しでMPが切れそうだったし……」


 俺の質問にジョーディーさんが息も絶え絶え教えてくれる。


「毒消しあるけど欲しい人~」


 ヒーラーの二人が辛そうだったから声を掛けると、前衛の全員が手を上げた。

 こりゃ酷いな。必要分だけ毒消しを鞄から出して皆に投げ渡す。ついでに、後衛にマナポーションを渡した。


「えーん、えーん、えーん、ママーー!」


 クララは怖かったのかリックがあやしても泣き止まず、通路にギャン泣きの声が響いていた。だけど、ここでクララを置いて行くわけにもいかないし、本当に困った幼女だ。


「クララ、おっかないお化けは消えちゃったから、もう大丈夫だよ」

「ぐしゅ、本当でしゅか?」


 フードを脱いでクララの頭を撫でると、幼女はぐずりながら俺の顔をじっと見て鳴きやみ、にぱーっと笑った……チャーム成功。


「うん。皆、あの扉から出てこられないから、もう安心だよ」

「フードのお兄ちゃんがドアを開けてくれたんでしゅか?」

「そうだよ」

「ぐしゅ。ありがとうでしゅ」


 目を真っ赤にしたクララが俺を見て笑っている。

 素晴らしい! 笑った時に揺れるぷにぷにほっぺに触りたい。いや、触るだけじゃ足りない、思いっきりぺろぺろしたい!!

 今、無料おっぱい揉み放題チケットを美女があげると言っても、そいつに向かって中指立てて、目の前で破り捨てるだけの価値が目の前にある!

 シリウスさんが悔しそうに俺を見ているけど、ロリコンは幼女専門エロ漫画でも見てシコッてろ。


「ところでレイ。何で遅れたんだ?」


 空気を読まない義兄さんが、俺とクララたんの交流を引き裂いた。マジ空気嫁。


「ステラが開錠している間に別の通路らしいのを見つけてね。皆に知らせようとしたら、既に皆が部屋の中に入っていたんだけど……」

「そうなのか?」

「そうなのだ。ほら、あそこ」


 俺が指した場所を義兄さん達が調べると、床の近くにスイッチらしき物が見つかった。罠の様子もないのでポチッと押すと、壁が開いて新たな通路が現れた。


「さすがレイちゃん、よく見つけたわね」

「んーー通路に罠が大量にあったのに扉だけに罠がなかったのは変だったし、偶然見つけただけ」


 姉さんが褒めるが、見つけたのは本当に偶然。

 もし一緒に入っていたら、俺はゾンビに殺されていたのか?


「いや、それでも助かったのは事実だ。ありがとう」

「まあ、皆と違って俺は死活問題だからね」


 ヨシュアさんにはそう答えたけど、俺の命もNPCと同じ立場か……。


「……そうだったな。どうやら私達は財宝に目が眩んで行動が軽薄だったらしい。改めて気を付けることにしよう」


 性格が真面目なヨシュアさんが身を引き締めるように反省する。

 本当に彼女の顔は美人系なのに男らしいのが残念だ。もしかしたら彼女の下半身にはバナナが生えているんじゃないかと思う。


「俺もそうだけど、リックが死んだら財宝も手に入らないし、それで良いと思うよ」


 他のメンバーも俺に謝罪をした後、改めて見つけた隠し通路を進む事にした。




 横道に入ると、交代してデモリッションズが後に下がり、俺を先頭にニルヴァーナが前になって移動していた。


 生存術と危険感知のスキルは罠やモンスターを発見するのには便利だけど、隠し通路などは見つけることができない。

 だったら、先ほどのパズルの時の罠は何で見つからなかったのか? 多分だけど、危険感知が反応するほどの危険じゃなかったからじゃね? ご都合主義とも言えるけど、スキルも万能じゃないってことだ。


 レベルも何時の間にか15を超えて、新たなスキルを五つ追加で覚えることができるようになった。

 町に帰ったら探索系のスキルで便利なのを取るのもアリかと思う。だけど、常駐スキルがパンパンだから、何か攻撃系のスキルを捨てる必要があるし、これまた微妙。




 今度の通路は先程違って罠がなく、曲がりくねった道が続いていた。

 もう島のどこを歩いているのか見当つかねえ。これって財宝を見つけた後、船に帰れるのか?


 通路を歩いていると、体育館の様な広い部屋に入った。

 全員が入ると同時に、部屋の壁に掛かっていた松明に火がともる。

 今度はなんだ? オート照明とかリフォームの匠、いい仕事するじゃねぇか!

 だけど、そろそろ財宝の手がかりの一つでも出て来んかい! なんて思っていたら、部屋の中央にドラゴンが居た。


 さっきまで出落ちスケルトンとか、パズルとか、ハズレ部屋のゾンビさんだったのが、いきなりドラゴン? そんな強いのを義兄さん達が見たら……。


「皆、警戒しろ、ドラゴンだ!!」


 突然、俺の後ろから義兄さんが叫んだ。予想通り、コイツ等、既に殺る気だ!

 ドラゴンの全長は20m以上、首を伸ばせば高さも7.8m程はあるだろう。

 そして、他のドラゴンと異なり石の様な肌をして頑丈だと思われる。他のドラゴンなんて見た事ないから知らんけど。


「グギャーー!!」


 脳筋の叫び声が聞えたのか、俺達を見てドラゴンが叫んだ。俺も口には出さないが心の中で思いっきり悲鳴を上げる。

 この脳筋、大声で叫んで敵に見つかってどうするつもりだ? 突っ込むのか? 突っ込むんだろうな。偵察している俺の気持ちも少しは考えろ!

 突入する前に弱点を探そうにも、いきなり存在をばらしてどうするんだよ……もう知らねえ、そのまま突っ込んで死ね!


「レイは危ない、下がってろ。ヨシュア、行くぞ!」

「ああ!」


 危なくしたのはテメエだ。俺の心の叫びなど脳筋男には当然届かず、義兄さんとヨシュアさんはドラゴンの正面に向かって走り出し、俺は後ろへ下がって溜息を吐いた。


 ベイブさん達、前衛アタッカーは横から回り込むように移動して、後衛職の皆は非戦闘職のNPCと一緒にドラゴンから距離を取る。

 義兄さんがバフ魔法を唱え始めると、ドラゴンの右腕が上がって横殴りの攻撃が彼に襲い掛かった。

 義兄さんがとっさに詠唱を止めて盾を構えたが、体ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。


「カートさん!」


 ヨシュアさんが叫ぶが、その間にドラゴンが息を吸い込み始める。


「ヨシュア、ブレスが来るよ!」


 ローラさんの叫びにヨシュアさんがハッと気が付き、盾を前に突出して体を隠しブレスに備えた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 炎のブレスを喰らったヨシュアさんの口から悲鳴が上がる。

 ブレス攻撃は相当のダメージを与えたらしく、ブレスが終わるとヨシュアさんは膝を地面に着いて苦痛で顔を歪めていた。


「駄目だ、攻撃が全然効かない!」

「魔法もです!」


 ドラゴンの横からベイブさんが、後方からはシリウスさんが叫ぶ。

 物理も魔法も効かないって、どうすれば良いんだ?

 ローラさんとジョーディーさんがタンクの二人を回復させて、何とか立て直しを図るが状況は悪くなる一方だった。




 ドラゴンは俺達をあざ笑うかの様に、微動にせずブレスと噛みつき、右手による横殴りの攻撃だけで、義兄さんとヨシュアさんを軽々と地に叩き伏せていた。

 アタッカーとヌーカーの攻撃も歯が立たず、最大の攻撃力を持つ姉さんの『アイスバレッド』ですら弾かれて、ダメージを与えることができなかった。


 このままだと全滅だってあり得る。それに、全滅する事は俺が死ぬと同じ意味だからマジでやばい。

 ドラゴンと戦って死ぬとかちょっとだけ格好良いかもと思ったけど、やっぱり死にたくないから、勝つ方法がないかとドラゴンを観察することにした。


 ドラゴンの肌が石化しているから、石化を解除すればダメージが通る? 石化を解除する方法は……今のところ何もない。

 だったら攻撃力を落とす方法は……毒を使えば弱められるか? だけど、どうやって飲ませる?

 「ドラゴンさん、お茶の一杯でもいかが?」と言って近寄った処で、お礼のブレスで黒こげになるのは間違いない。心のこもっていないおもてなしは時に反感を生む。


 もし、このままドラゴンが本気を出して動いたのなら……いや待てよ。

 このドラゴン、最初に見た時から動かないんだけど……もしかして、動かないんじゃなくて動けないのか?

 それに、相手のレベルが高いからよく分からなかったけど、改めてドラゴンをじっくり観察すると、危険感知スキルが首から上と、何故か右腕の二カ所で反応していた。何で二つもある?

 もし、ドラゴンが単体なら危険感知は一つしか現れないはず。それに、体の部分に危険感知の反応が現れないのも何かがおかしい。

 おまけに、生存術の反応もないから、このドラゴンは生命でもない?


 だとすると……これって、もしかしたらドラゴン型のゴーレムだけど、作成費をケチって顔と右腕だけ作り、残りはただの石像じゃね?

 続けて観察すれば、左腕は地面に手を付けて体を支えているけど、何か丸い物が地面に埋もれていた……もしかしてあれが竜の玉?


「皆、下がれ! こいつは動かないただの石像だ!!」


 俺が大声で叫ぶと、全員が俺を変な目で見ていた。

 その目で見られるのは慣れているけど、少しは信用して欲しい。


「今逃げたら背後から狙われるぞ!」

「こいつは首から上と右腕しか動かせない、後はただの石像だ!」

『……何!?』


 義兄さんの怒鳴り声にドラゴンの正体について叫び返すと、全員が驚いていた。


「ステラも見ろ。こいつの危険感知が頭と右腕の二カ所ある! それに、生存術も反応していないから、此奴はただの石像にゴーレムを付けているだけだ!!」

「本当か!?」

「……レイの言っている通りだわ。相手のレベルが高くてじっくり見ないと分からなかったけど、確かに危険反応が二つあるわ。それに、生存術に何も反応がない……これドラゴンじゃなくてただのゴーレムよ!!」


 ヨシュアさんの確認に、ステラもスキルで確認して俺の発言を保証した。


「分かった! 皆、下がれ。俺が殿になる!!」


 どうやら、俺よりもステラの方が信用性があるらしい。地味に酷いと思う。


 義兄さんがドラゴンの攻撃を防いでいる間に、全員が入口まで戻る。

 最後にボロボロになった義兄さんが戻ると、ドラゴンは先程までの激しい攻撃が嘘のように動かなくなり、部屋に静寂が戻った。




「それでどうするんだ?」


 俺が渡したポーションを飲みながら義兄さんが質問する。


「ドラゴンの左腕を見て欲しいんだけど、地面に玉が埋まっている。多分、あれが竜の玉だと思う」

『何だって!?』


 俺の話を聞いて、全員がドラゴンの左腕を遠くから凝視する。


「だけど、その前に言いたい事がある。なあ、義兄さん」

「何だ?」


 俺が話し掛けると、竜の玉を見ていた義兄さんが振り返って俺を見た。


「戦うのが好きなのは分かるけどさ、もうちょっとローグの仕事について理解するべきじゃないのか?」

「……うっ」

「俺が相手を偵察しようとした横から、いきなり大声を出して敵に見つかり、特攻されても困るんだよね」

「……すまん」

「スマンじゃねえよ」


 そう言って、義兄さんの脛を蹴飛ばす。


「本当に理解してるのか? お前が俺を殺し掛けたのはこれで二度目だぞ」


 一回目は最初のダンジョンで宝に目が眩んで俺を落とし穴に落とそうとした件。義兄さんは忘れているかもしれないが、俺は死ぬまで忘れるつもりはない。


「…………」

「一回目はまだいいよ。あの時は俺がゲームで死ぬなんて知らなかったし、だけど今のは何だ? アレがゴーレムだったから良かったものの、もし本当のドラゴンだったら全滅していたぞ。理解しているのか?」

「…………」

「……次はねえからな」


 姉さんも俺と同じ考えだったらしく、何も言わなかったが義兄さんを睨んでいた。

 そのせいで全員の空気がギクシャクしたけど、知るかボケ。




「それで、竜の玉は確認した?」


 俺の確認に皆が頷く。


「確かに何かが埋まっているね。だとすると、あれにリック君の血を垂らせば、ドラゴンも何か反応するかも」

「待ってよ! リックをあのドラゴンの所まで行かせる気? そんな無茶はさせないわよ!!」


 シリウスさんの話にフランがリックを守る様に自分の後ろへ隠した。

 その様子は不審人物から弟を守ろうとする姉の様。ハーレム持ちのチートタグなしって、もしかしてただのジゴロじゃね? リックを見てホントそう思うわ。


「いや、指輪には血を捧げろと描かれていたから、布か何かにリック君の血を浸して別の誰かが持って行けばいいと思うよ」


 フランに睨まれて、シリウスさんが慌てた様子で誤解を解く。だけど、お前はロリコンの疑惑を先に解いた方が良いと思う。


「それで、誰が行くの?」


 ジョーディーさんがローグの三人を見る。


「レイ、隠密スキルいくつ?」

「16」

「高!!」


 ステラの質問に答えると驚かれる。ゲーム開始から上げているんだ。年季が違うよ年季が……。


「でもアルサも同じぐらいじゃね?」

「レベルは同じだけど、私はアイテムがあるからもっと隠れることができるわよ」

「う、私ももう少しレベル上げよう……」


 俺達のスキルレベルを聞いて、ステラが落ち込む。


「だったらアルサが行くか?」

「女に行かせる気?」


 クソ! アルサが女専用の言論封殺技で俺の言葉を封じた。

 それにコイツもNPCだから死んだら終わり。立場が同じだから強くも言えない。


「じゃあ俺が行くよ」


 結局、俺が行くことになり、後は全体的な作戦を決める事にした。


「レイ一人だけで行かせるつもりはない、俺達がおとりになるからその間に行け」

「ただヒーラーだけじゃ回復が間に合わない。ポーションを他の誰かに渡してくれるとこちらも助かる」

「んじゃチンチラ。ポーションを渡すからサブでヒーラー頼むわ」

「うん」


 義兄さんとヨシュアさんの提案で予備にポーションを一つ残して、残りをチンチラに渡した。そして、鞄からナイフを取り出してリックに渡す。


「それじゃリック、布に血を浸してくれ」

「はい」


 ナイフを受け取ったリックが少し震えながら掌を切って、渡した布に血を浸す。


「リックしゃん、痛くないんでしゅか?」

「クララは優しいね。だけど大丈夫だよ」


 クララが心配してリックに尋ねると、彼女に心配かけさせまいとリックがにっこり笑い返す。あーー俺には無理な芸当だわ。どうせ俺はゲスでげす。


「これで大丈夫ですか?」


 リックが布が赤く染まるまで血を浸してから、俺に布を渡した。


「ああ、十分だと思う。後は実際にやってみるだけだ」


 リックの手から流れ落ちる血を見たローラさんが、スキンケアにリックにヒールをして手の傷を癒やした。そこの痴女、無駄にMP使ってんじゃねーよ。男好きが!


「それじゃ再チャレンジだ。皆、行くぞ!!」

『了解!』


 義兄さんの合図で、俺達は再びドラゴンに向かって突入した。

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