2章 アサシンと海に咲く赤い薔薇
第1話 『What?』
ゲームは俺が回復してからさらに一日経過して、ようやく再開のめどが立ったらしい。
運営側から発表された三日間のメンテナンスの内容によると、ゲーム中に体調不良者が出て緊急調査を行ったと公式HPに書かれてあった。
俺もゲーム中に死に掛けたから本当だったらゲーム会社に報告するべきだけど、下手なパッチが当たって病気が治らないなんて結末はゴメンだし、危険だからとアカウントを消されるのも嫌だから秘密にしている。
俺がゲームで死んだら運営会社もマスコミに叩かれると思うが、その時は俺の道連れとして社会的に死んでくれ。
さて、今までは姉さんに誘われたから、義兄さん達と一緒にゲームで遊んでいた。
だけど、今回からは現実の病気の治療にゲーム内で薬を探すという、ファンタジックな目的ができた。
『投稿者: XX [2014年 12月 04日 16時 27分] ―――― 男性
悪い点
いきなりファンタジーをねじ込んで来て失望しました。
それとも、ゲームと現実がリンクするストーリー上の科学的根拠があるんですか?』
上みたいに意識高い系のクソ野郎から突っ込まれそうだけど、俺だって知らねえよ。
いきなりファンタジーをするなというなら、ゆっくりファンタジーでもやりますか? だけど『ゆっくりファンタジー』って言葉にして考えると面白い。戦闘なしでエンディングを迎えそうだけど……まあ、古いネタだけど、ゆっくりしていってね。
さて、アホな考えはこれぐらいにして。ゲーム内で薬を探す訳だけど、今までと違って気を付けなきゃいけない事も当然ある。
まず一番注意しなければいけないのは、ゲームの死亡が現実の死亡に直結する事だろう。ある意味『俺だけログアウト可能なデスゲーム』という嫌な新ジャンルを築いたのだが、こいつはデメリットしかない訳で、当人の俺から言わせたら超迷惑なジャンルだと思う。
それに、今までも運良く死ななかっただけで、デスゲームは始まっていた。おぉぅ……思い出すと鳥肌が立ってきた。4mの高さからダイブとか俺って馬鹿だろ。一体、何処のシェ〇ン・マクマホンだ?
今後は他のプレイヤーのみたく無茶はできないし、戦闘力が低い俺だと雑魚敵でも危険極まりない。
「オレにやらせてくれ。ここらでお遊びはいいかげんにしろってとこを見せてやりたい」
なんて余裕ぶっこいていたら、サイバイ○ンに自爆されて殺されるヤ○チャになる。
ゴミクズのような最後は嫌だから、戦闘では極力前に出ることは控えよう……あれ? 今までと同じじゃね?
そして、死ぬ事以外にも問題はある。
前回、瀕死になった時に心拍数低下でICUに運ばれたけど、さすがに何度もICUにぶっ込まれたら内藤さんもブチ切れて筋肉を見せつけながらゲームを没収すると思う。
筋肉は余計だけど愛読書が『筋肉○ン』の究極超人内藤さんなら、絶対見せびらかすに決まっている。
だから体内にある管理チップを弄っちゃった♪
実際にクラックしたのは管理チップじゃなくて、管理チップを管理しているアプリケーションサーバーの方。ハッキング? クラッキング? ずっと前に何故か姉さんが、この病院のサーバーで使われているIDとパスワード、おまけにサーバーへの侵入ルートを俺に教えてくれたけど、どうやって姉さんが入手したのかは不明。逆に知るのが怖い。
だけど使えるものはぶっ壊れるまで使う主義なので、管理サーバ経由でアプリケーションサーバーに侵入。俺の管理チップの設定を変更なしの固定値にする。
管理チップは分単位で固定値から前後0~2数値を変動するように乱数起動のパッチを作成して……最後にログイン経歴も……はい、これで消えた。これでしばらくは平気だろう。
ゲームの第一目的として、ハイポーションを探して飲む。
妖怪ババア、改め、俺に毒を教えた婆さん曰く、ポーションが改良されてハイポーションができたとか言っていたから、存在するのは間違いない。だけど、どこにあるかは不明。
アース国では姉さんが暴走した結果、調合ギルドが閉鎖中だからレシピも薬も入手は不可能。となると婆さんに聞くのが一番早いか?
だけど、コトカからアーケインに戻るのも面倒くさいし手紙に事情を書いて教えてもらう……って婆さんの名前と正確な住所を知らねえよ……やっぱりババアの名前を聞いておけばよかった、コンチクショウ!!
いや、待て。婆さんは素材屋の常連だから、そこに手紙を書けばきっと渡してくれるはず。うん、そうしよう。
ハイポーション以上の薬を探す。
正直言うと、ハイポーションで俺の病気が治るとは思ってない。
普通のRPGゲームで例えたらハイポーションって中盤ぐらいの街で売ってそうだし、それで治ってエンディングとか俺がそんなゲームをプレイしていたら、あれ? もう終わりか? 金を返せって思う。
俺の人生はそんなに甘くない。だから、エリクサーとか賢者の石とか最後辺りで出てくる存在していそうな薬について調べる予定だ。
でも、病気の治療だから万能薬の方が良いのか? ゲーム的には、そっちの方が早く見つかりそうだ。
とにかく薬については色々と調べる価値はあると思う。そう考えると調合師のスキルを取っていて正解だった。
以上、まとめてみたけど、正直に言えば、ぐだぐだ考えずに気楽にやろうと思う。
ゲームも小説も、そして人生だって堅苦しいのより楽しい方が面白い。
今後の計画とかサーバを弄っていたらメンテナンスが終了したけど、義兄さんからの呼び出しはまだ来なかった。
前回のログインした時は疲れていた事もあって俺だけ先にログアウトしたから、先にログインしてコトカの町を観光しようと思う。
ついでに雑貨屋や素材屋の場所も調べて、何時でも調合できるようにしときたい。
俺は何時ものように病院のVRからログインして、ゲームの世界へとダイブした。
宿泊部屋を出て一階に降りると、宿のゲイ店主が掃除をしていた。
この宿は店主が一人で切り盛りしているらしい。ゲイが雇い主とか、俺なら面接で見た瞬間に逃げる。
「あら? 久しぶりね」
ゲイが俺に気が付き挨拶をする。俺は吐き気がする。
今日も青髭が絶好調だ。きちんと剃れと思ったが、後で話を聞くと丁寧に剃っても30分で青髭が生えるらしい。育毛剤要らずの化け物がここに居る。ただし、生える場所を指定できないのが残念。
「久しぶり。俺達がログアウトしてどれぐらい日数が経ってる?」
「そうねぇ……4日ってとこかしら。皆が急に消えちゃったから、町の人達も不安だったわ」
「そうか、ありがとう」
「うふ♪ どういたしまして」
おえっ。ゲイのウインクで吐きそうになった。
どうやら、メンテナンス中はゲームの時間も止まっていたらしい。もし時間が経過していたらアルサの放置プレイが悲惨な事になっていたから、時間が止まっていて良かったと思う。
何となくそれはそれで、あの腐女子が感染した美少女が「放置? 放置プレイ!」と喜び新たなステージに入っていそうな気もするが、変態が移りそうだからアイツの事は忘れる事にした。
皆が来る前に町を散策しようと港の方へと足を運ぶ。
コトカは港町だけあって海上貿易が盛んらしい。大勢の活気溢れるNPC達が船からの荷物を運搬して働いていた。
ちなみに、船乗りのNPCに聞いたら、アースという国は北の方にある半島にあるけど、大陸に伸びている土地は山脈に覆われて陸の孤島と化しているらしい。
主な貿易はこのコトカの港町を通じて、南の国や西の国と行っているとのこと。
盗賊ギルドのマスターは海賊が蔓延っていると言っていたけど、見る限りでは特にその様子はなかった。一応、国の窓口でもあるわけだし、それなりに国が管理しているのだろう。
もし海賊が支配しているとしたらコトカの裏の顔だと思う。だけど普通に行動している分には関わる事はないはず……いや、この考えは止めようフラグが立つ。
他にも海の近くでは魚市場があった。魚市場の周辺では海産物以外も売り買いしているマーケットが開かれて、アーケインとは別の賑やかさがあった。
マーケットの店員にリンゴっぽい果物を購入する代わりに、雑貨屋と素材屋、ついでに調合ができる場所を聞き出した。
やはり調合ギルドは閉鎖されていたが、素材屋でわずかな金銭を払えば利用できると聞いて安心した。
まずは雑貨屋に足を運ぶ、店に入った瞬間……。
「らっしゃーー!!」
暑苦しく若い店員に大声で叫ばれた。「らっしゃーー!!」って何だよ、木村か?
俺も昔のプロレス動画で「アニキ~」と叫んでいるのを辛うじて知っているぐらいで、普通の人じゃもう知る人居ないと思う。
アーケインに居たのんびり店主とは逆の威勢の良い十五、六歳ぐらいの兄ちゃんだけど、何でそんなに元気なんだ? 雑貨屋で新鮮をアピールしてどうする? 雑貨に鮮度なんて関係ない。
俺が色々と物色していると、こっちをジロジロ見るから覗くだけだと何となく気まずくなった。
仕方がないのでサバイバルマッチと調合用の錬金瓶をいくつか購入する。
「ありゃりゃしたーー!!」
必要時以外は行くのは止めよう。そう思いながら店を後にする。
次に素材屋に向かう。向かうと言っても雑貨屋の正面だけどね。
店の中に入ると誰も居なかった。ありゃ? 店はオープンだったよな。
「……いらっしゃいませ」
「ファッ!!」
薄暗い店の中で陳列している商品を見ていると背後から小声で声を掛けられ、ビックリして飛び跳ねる。
幽霊かと思いきや、振り返ると俺と同じか下ぐらいの少女姿の店員が低い声で声を掛けていた。
長髪だけど前髪が目を覆い隠して顔の表情は伺えない。生存術スキルですら反応がないって怖えぇよ。
「ここで調合作業も可能と聞いたけどできる?」
「……はい、奥でできます。一時間2sです」
「了解、また今度来るよ」
「……お待ちしています」
幽霊ちゃんに礼を言ってから暗い店を出る。中が薄暗くてお化け屋敷っぽかったから外が暑く感じた。
薬を作っている最中に呪われそうだけど、既に俺はデスゲームで呪われているみたいなものだから、既に俺は開き直っている。いつでもバッチコーイ……嘘です、勘弁してください。
他の場所も観光して、時間は少し早いけど昼食を取るために飯屋を探すことにした。やっぱり海の近くだから海産物がメインなのか?
ヨーロッパ風の町並みだから海鮮丼は出ないと思うけど、このゲームの中でまだ米を食べてないからたまには食べたい。
プラプラ歩いて適当な飯屋を見つけて中に入ると……。
「触らないでよ!!」
いきなり女の叫び声がした。犬も歩けばトラブルに当たる。面倒だからそういったのはベイブさんに振って出番を与えて欲しい。
恐る恐る様子を伺うと、少女と少年が海の荒くれ者っぽい三人の男達に絡まれていた。
先ほどの叫び声は、どうやら取り囲んでいる男達に向けられていたらしい。飯屋でもキャバクラでも最低限のマナーは守れ。
囲まれている二人を見ると、少女は小麦色の肌をして、少年は逆に雪のような白い肌をしていた。
男達は二人を取り囲んで薄ら笑いを浮かべているが、その様子は集団レ○プエロ動画に出演している男優陣。
もう海賊との遭遇なのか? フラグ回収が早えよ。ついさっき立てたばかりじゃねぇか、テンポは良いけど直撃弾食らう俺の身にもなってみろ。
店の店員はオロオロして全く役に立たないし、他の客も係わりたくないのか傍観を決めているらしい。
面白そうではあるが当事者にはなりたくない。俺も出来るだけ関わらず、射精エキストラの一人になろうと決める。
そっと店の外に出……ドンッ! 外に出ようとした途端に誰かとぶつかった。
「あ、すいま……グハッ!!」
謝って顔を上げ……誰かに思いっきり顔を殴られて、店の中に吹っ飛ばされた。
店のテーブルに背中から倒れると、騒音と共に空いていた椅子とテーブルに埋もれる。ついでに頭の上にパンが乗る。こんな状況でも笑いを取ろうとする天然の俺が嫌になる。
店の中に居た店員や他の客が「キャーー!!」と叫び声を上げ、一気に店の中が騒がしくなった。
え? なんなのこれ? いきなり殴られる射精エキストラとかわけ分からん。
こいつはエキストラじゃなくスタントマンになると思うんだけど、ギャラは高くなるのか?
「「「アニキ!」」」
中に居た男達が俺を殴った男に向かって声を掛ける。どうやら俺を殴ったのはコイツ等のアニキらしい。
アニキは義兄さんと同じぐらいの背丈だが、倍ぐらいの筋肉に覆われていた。そしてハゲ。毛根も見当たらないからおしゃれハゲ? ハゲは石鹸で体を洗うついでに頭も洗えるから安上がりだ。
まあ毛根の話は悲しくなる人が居るから置いといて、誰も助けてくれないから、頭の上にパンを乗せたまま気絶した振りをして様子を伺うことにした。
囲まれてる少女は新たな敵が増えて泣きそうだったけど、気丈に我慢して男達をにらみ付けていた。逆に元から脅えて後ろに隠れていた少年は、震えて泣き始めた。
こんなプルプル震えている少年を見たら、ジョーディーさんが「推しが尊い」と叫んで、上と下からヨダレを垂らす。あのチビが居なくて良かった。
「それでコイツがそうか?」
「はい、これからラチるところでして……」
アニキと呼ばれたハゲからの質問に手下の一人が応じると、その途端に殴られていた。手の早いハゲだな。
「拉致とか言うんじゃねぇ。守衛への印象が悪くなるだろうが! 俺達は善良な船乗りだ。同行させると言え、この馬鹿が!」
どこが善良だハゲ。それに、拉致もむりやり同行も同じだろうが!
「なあ、そろそろ俺達にその小僧を渡そうぜ。痛い目には遭いたくないだろ」
「うるさい! リックは渡さない。目の前から失せろ!!」
手下の一人が話し掛けるのを少女が拒絶する。
それを見た手下達がにやにや笑いながら少女に一歩近づいた。
「アニキ、こいつ犯ちゃってイイっすか? 性格はきつそうだけど、顔はそこそこいけるし楽しめると思うんで」
「構わねえ。用があるのは奥で震えてるションベン臭せえガキだけだ、好きにしな」
「へへへ、あざーす」
ハゲの許可を得た手下達がさらに一歩近づいて、少女が身構える。
「じゃあ、とっとと連れて行きますか」
「先にやらせろよ」
「俺はあっちのガキがタイプなんだけどな、まあいいか」
一人ショタ好きのホモが居るぞ。
「来るな!!」
少女の訴えを無視して手下の一人が少女の腕を無理やり掴む。
「嫌! 止めろ! 離せ!!」
「お姉ちゃん!!」
叫ぶ少女を手下が捕まえて引きずり出そうとする。後ろの少年は手下の一人に捕まって、少女から引き離された。エロ動画的なシチュエーションが興奮する。
だけど、そろそろ助けようと思う。実際は一発殴られたから十倍にして殴り返すついでに助けるが正解。
何故なら、やられたからにはやり返さないと、例え体が無事でも魂が死んじまう。そんな事を銀色の魂をもった万屋の兄ちゃんが言っていた。
ステルスを起動して静かに立ち上がると、横に転がっていた椅子を掴んでまだ無事なテーブルの上に飛び乗った。
「アニキ! 毛根の神様がサヨナラを告げてるぜ!!」
「何!?」
俺の言葉にハゲが振り返る。
振り向くのと同時に、テーブルから一気に飛んでハゲの脳天目掛けて椅子をガン!! と叩きつけた。
「ぐはっ!」
頭をぶん殴ると椅子が砕けてハゲの脳天からプシューッと血が噴き出た。その様子はチ○コから吹き出る血尿。
直ぐに壊れた椅子を捨てると、無防備になっているハゲの股間をノーリアクションで蹴り上げる。
「ぐげ!」
前屈みになったハゲにクルリと回って背面を向ける。そして、相手の顎を自分の肩口に固定してから尻餅を付いた。
スタナー
かつてリングやそれ以外でも暴虐の限りを尽くした、ビールが大好きな男が得意としていた技だ。
落下時の衝撃で肩に乗せた顎と首にダメージを与え、脳震盪も引き起こす。
そして、地面の強度次第では俺のプリティーなケツもダメージを受ける諸刃の剣だった。
俺が尻餅をつくのと同時にハゲが衝撃で跳ね上がって、そのまま仰向けに倒れて気絶していた。
ハゲを倒してから直ぐに起き上がる。
全員が驚いて場が動かない間に腰のスティレットを抜くと、少女を捕まえている奥の手下の方へとぶん投げた。
俺の投げたスティレットは、手下の間を抜けて少女の横の壁に突き刺さる。
「犯られたくないなら戦え!」
俺の声に少女が一瞬だけ躊躇したが、頷くとスティレットを抜いて手下と戦い始めた。それと同時に、手下の一人が曲刃を鞘から抜いて俺に切り掛かってきた。
アシッドより遅せえ。
攻撃を素早く避けると、先ほどのアニキと同じく股間を蹴り上げる。
股間を押さえて呻いているところにスタナーをぶち込んだ……地面が石床だから尻が痛い。
起き上がって少年を掴んでいた男の前に立つ。俺が近づくと手下が少年の首元に刃物を押し付けた。
「な? ちょっと待ってくれ?」
「What?」
首を傾げてスタナーを使っていたレスラーと同じセリフを吐く。
「なあ、アンタには関係ないだろ。金をやるから許してくれないか?」
「What?」
「だから……」
「What?」
「お……」
「What? 金をやる?
What? 助けろ?
What? What? What? What?
うるせえ、テメエにかける言葉はただ一つ」
両手の中指を突き立てて前に出す。
「”Hell Yeah!”」
同時に手下に捕まっていた少年が勇気を振り絞って、刃物を持った腕に噛みついた。
「痛てぇ、このクソガキ!!」
少年が逃げる間に、クコの実グミを口に入れて攻撃スキルの『目くらまし』を発動。
喉を抑えて毒霧を手下の目に向けて噴き掛けた。ちなみに、喉を抑えたのは演出だから意味はない。
「ギャーー! 目が、目があああぁ!!」
目を押さえた手下の股間を蹴飛ばし、止めのスタナーをぶち込む。もう無理、ケツが痛いナリ。
倒して少女の方を見ると、彼女は手下に追いやられて壁際まで下がっていた。
立ち上がりながら少年の頭をぐりぐりと撫でて安心させると、手下に向けて走って一気に迫る。
足音に気付いた手下が振り向くのと同時に、相手の首に腕を絡ませながら飛びつく。
そして、空中で俺の肩に相手の顎を乗せた状態のまま床に背中から落ちた。
俺のダイヤモンド・カッターを喰らった手下は顎を押さえながら床に転がる。
とどめに股間を踏みつけると、悶絶して気絶した。
そして、戦い終わってからふと気付く。俺は何で全員の股間を蹴ったんだ?
まあ、未成年を犯そうとしていたやつ等だし、お仕置きとしては相応しいと思うことにした。
突然現れて海賊を全員倒した俺を店内に居る全員がポカーンと見ている中、ハゲから噴き出る血を指先に付けて、ハゲの額に「血尿ブシャー」と書いていたら外が騒がしくなった。
「衛兵だ!!」
店の客か店員か知らないが、誰かが叫んで衛兵の存在を思い出した。。
うむ、このまま外に出たら確実に捕まる。義兄さん達がログインしたら「檻の中です」はチョイと恥ずかしい。この場は逃げるか……。
「こっちから逃げな」
俺が逃げ道を探していたら、店の客の一人で赤い髪をした美人が裏口を指さしていた。
「お、サンキュー」
「面白いのを見せてくれたお礼だよ」
美人の姉さんは「ふふっ」と笑う。色っぽいね。痴女っぽいともいう。
「行くぞ!」
姉さんに軽く頭を下げると、少年の手を引っ張っぱって少女と一緒に裏口から脱出すると、その直後、店の中から騒音が聞こえた。
店の外に出たが町に詳しくないから何処へ逃げれば良いのか分からねぇ。
「お前、土地勘はあるか?」
「さっき通ったから分かるわ。こっちよ!」
後ろを振り向いて少女に尋ねると、彼女は先頭を切って走り出した。それに続いて俺が少年の手を握り後を追い駆ける。
後ろから俺達を探す声が聞こえたがそれを無視して走っていると、少年の呼吸が荒くなった。どうやら体力が限界らしい。仕方がないから脇に抱えてスタコラ走る。
そして、探す声が次第に大きくなりそろそろマズイと考えていたら、走る先に脇道が見えた。
速度を上げて少女に追いつくと、少年を抱える逆の手で少女の腕を掴み脇道へと引っ張る。
「キャッ! 何?」
少女の叫び声を無視して、少年を脇道に置いてある木製のゴミ箱の裏に隠す。
続いてマントを脱いで裏地の黒を表にしてから、少年の上に被せて見えない様にした。
素顔を晒した俺の顔に驚いてる少女を抱きしめると、腰に手を添える。
「ちょっ! 何を……」
「静かに! 恋人の振りをするんだ」
抱きしめながら少女の耳元でささやく。それで俺のやりたいことを理解したのか、少女も黙って俺に抱き着いた。
お、着痩せするタイプじゃん。子供なのに意外と胸がある。ショートカットで隠れ巨乳系……アリだと思います。
俺達がイチャコラの演技をし始めたタイミングで、表通りの衛兵が通り過ぎて行く……。
「おい!」
通り過ぎる衛兵の最後の一人が俺達に気が付いて、声を掛けてきたので気怠そうに振り向いた。
「え? 今イイとこなんだけど……何か用?」
我ながらムカつく演技だと思う。
「……今ここで三人のガキが来なかったか?」
「はぁ? 見てねえし。お前は見たか?」
「み……見てないわ」
演技が下手、ガチガチじゃん。もうちょっと恋人の振りしないとバレるぞ。
「分かった。それと、昼からいちゃついてんじゃねぇぞ」
そう言い残して衛兵も先に進んだ同僚の後を追った。
衛兵が去った後を見送ると、俺と少女が同時に溜息を吐いた。
「あっ!」
少女は抱き合っている状態を思い出して急に恥ずかしくなったのか、俺を突き飛ばして離れる。そのしぐさが逆にそそる。
「何とか撒いたな」
被せていたマントを取って、少年の頭をぐりぐり撫でる。
「よくじっとしていたな、偉いぞ」
少年は撫でられても嫌がる様子はなく、世界中の女を骨抜きにするショタの笑顔を俺に向けた。思わずスクリーンショットを撮る。後で腐女子、貴腐人に売りさばこう。
「その、ありがとう」
少女が照れながら礼を言って、借りていたスティレットを返した。
「気にするな。あのハゲをぶん殴りたかっただけだし、あんた等を助けたのはおまけだよ」
フードを羽織って立ち去ろうとしたら、そのフードが引っ張られる。
「ん?」
振り返ると、少年が俺のマントを掴んでいた。
「何?」
「……助けて」
What?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます