奪わんと欲すればまず与えよ
「そういえばさ、お前が倒した魔王ってどんなヤツだったの?」
今日の酒は、久しぶりに手に入れた藤居本家の船渡。肴は
旬の味に舌鼓を打ちながら好きな酒を飲むのは幸せだ。
「あ? なんだ突然だな」
ほくほく顔でたらの芽を食べていた
「いや、ふと気になって。最終決戦の話は聞いたけど、魔王自体についてはあんま聞いてなかったなと思って」
魔王を探すといっても、それがどんなものか分からないのではお話にならない。
「そういうことか」
船渡をちろりと舐めて旨いと笑う。
「俺の世界の魔王か。言うほど詳しい訳じゃないが」
別に友達でもないからな、と言う。まぁそうだろうね。別にそういうパーソナルな話が聞きたいわけではない。
「もともとは単なる小悪党だったはずなんだが。どうしたことか凶悪な力を手に入れててよ」
魔王軍を形成して侵掠しだしたのだという。その詳しい凶行については口を濁し、
「あいつと相対したとき、俺は思った。ああ、これが邪悪ってやつなんだな、と」
「ふうん、邪悪な力」
口に含んだ船渡が、すっきりほのかな酸味を残す。
「お前には話したっけな。魔王の背後には、異世界の黒幕がいるんじゃねぇかってハナシ」
記憶を遡らせてみる。初めて
「うん」
「その根拠と言うには心許ないが。あいつのあの力は、俺の世界のものじゃあないんじゃないか、と思ったんだ」
「……ん、つまり?」
酒を含んで少し考えてから、
「なんつーかな。あの力は強大で、
それは、さながら時限爆弾のように。
「でも、
「要するに、世界滅亡を狙う他の誰かがその魔王に力を貸し与えた、ってこと?」
「その可能性は十分ある。世界が一つ消滅すれば、放出される力は膨大だ。十分採算は取れるからな」
そういうものなのか。
「それに俺は、もしかすると、あの邪悪な力の源を見たかもしれん」
「
「うん。でも。『かも』とか『気がする』って、ずいぶんあやふやだなぁ」
まぁ、顔を合わせたのは魔王と勇者の最終決戦なのだから、細かいことに気を配っている余裕などなかったのだろうが。
「そうだなァ。こんなことならさっさと最終奥義ぶち込んだりしないで、ちゃんと口上を聞いてやるんだった」
秒で最終奥義をくらった結果、邪晶石らしきものは魔王と一緒に跡形もなく吹っ飛んだようだ。
うん。次の魔王戦では、是非とも慌てず口上ぐらいは聞いてあげてほしい。
「もしこの世界に魔王がいるとして、だ」
最後のたらの芽を食べながら
「この世界の人間には魔力もほぼねぇからな、隠れ潜まれたらなかなか一般人との区別は難しい。それでもその邪晶石が目印になる、とは思うんだが」
といって、まさか服の中を覗いて歩くわけにはいかないだろうし。
残念ながらあんまり目安にならないのだった。
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