ちなみに世界史Aは 9 。先生が三国志しかやらなかった。

「この世界にはどのぐらいの数の国があるんだ?」

「え。」

 生ハムを抱え込むようにして食べてる異世界の勇者にそんな話を振られるとか、ちょっと人生イベントとして想定外だった。

 確かにRPGゲームとか小説では、異世界人の勇者とか読者とかにどんな世界だかレクチャーしてくれる親切なNPCがいるのが定番だ。が、実際にその役回りを割り振られると、これは辛い。どう説明しろというのだろう。

「ま、なんだ。成り行きとはいえ俺もこの世界を救うなんて啖呵きったけどよ、やっぱりこの世界のことが分からんことには、なにをどうしたらいいかも分かんねーからな」

 そりゃそうだろうけども。非常に残念なことにこの世界代表おれは社会科が苦手なのだ。

「あー。国はいっぱいあるよ。たぶん、数えたことはないけど、……50以上あるんじゃないか」

 自信はないけど。でも50以下ってことはない、だろう。だったら100も500も50以上には違いないんだから。うん、嘘じゃない。

「ふうん、そんなもんか。どんな国があるんだ? というか、ここはどんな世界なんだ?」

 どんな世界て、なにそのふわっふわした質問。考えたことないんですけど。

 そもそもの発端になったチリワインをちびちび飲みながら、さてもしここがゲーム世界だったらどんな説明になるだろうかと考える。RPGとかTRPGとか、中学生時分に結構はまってやってたわけだし。

「えーと、そうだな。言うなれば、この世界は、……“五つの大陸と七つの海でできた世界”?」

 予想以上にカッコいい感じのキャッチコピーが出てきた。うん、やればできるもんだな。彼方かなたも感心したようになるほど、と相づちを打つ。しかし追い打ちもかけてきた。

「その五つの大陸ってのは?」

 そうきたか。いやでも、さすがに五大陸ぐらい暗誦できますよ。

「……横長に大きいユーラシア大陸とそれにくっついてるアフリカ大陸、あと縦長のアメリカ大陸、それから……………南極大陸、は氷の大陸。と、グリーンランド……は冗談で、孤立したオーストラリア……だね」

「なるほどな。なんか知らんが、この世界じゃ長さが重要なんだな。だろ?」

 え、なぜ長さ? 彼方かなたの言ってる意味が分からない。が、面倒だったので曖昧に頷く。

「で、海か。七つの海だな。海多いな。どんな海だ?」

 なんか再放送でそういう古いアニメ見た記憶があるだけで、七つの海がどの海を指すのかとか、知らない。

「…………太平洋…………大西洋…………、…………日本海、東シナ海、…………南シナ海…………」

 がんばって五つまで出た。あと二つ。

「…………か、カスピ海…………バミューダトライアングル…………」

 というわけで、今日からこの世界の七つの海は、太平洋・大西洋・日本海・東シナ海・南シナ海・カスピ海・バミューダトライアングルです。

「ま、まぁ、七つの海って言っても、結局は全部つながってる大海だから、ね。どんなって言っても、ね」

「そりゃそうだ。海は海、だろうな」

 彼方かなたが生ハムの残り枚数を目で数えている。こっちがあたふたしている間に一人でかなり食べたな、こいつ。

「うん。あとどんな国があるとかは、おいおい話せばいいだろ? いっぺんじゃ、お前もわけわかんなくなるだろうし」

「お、そうだな。そうしてもらえると有難い」

 彼方かなたに負けじと生ハムをはがし取る。大きいそれを一口でいく。旨い。

「ん、でも一つだけ聞いていいか?」

「え、なに?」

「今俺たちのいるこの国ってのは、さっきの五つの大陸で言うとどこになるんだ?」

「ああ。ここは島だから、大陸じゃないよ。えっと一番大きいユーラシア大陸の東側にある、島国」

「へぇそうだったのか。で、ここは長いのか?」

「…………長い、ね」

 だから長いかどうかになんの意味があるのか。



 あとでこっそり七つの海をググったら。現代における七つの海は、北太平洋・南太平洋・北大西洋・南大西洋・インド洋・北極海・南極海になるとのこと。

 そんなんかよと思いました。


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