日常編Ⅰ

勇者の家捜しは法律で禁じられています。

 金曜に定時であがれると、なんだかものすごく得した気分になる。実際のところは得でもなんでもないのに。

 地元スーパー、通称遠鉄えんてつで夕飯を買って帰り、古アパートの鍵を開ける。ノブに手をかけ、ちょっと躊躇った。

 部屋には昨日のかっぱがいるはずだった。

 夢かと思ったけど、朝起きたら普通に台拭きにくるまれてすやすや眠っていて。酔いが覚めて見るとなんともシュールな光景だった。

 夢でほしかったと思いつつ恐る恐る揺り起こしたのに、ちっさい勇者は「あとごふん~」とか言ってさっぱり起きなかった。なんかイラッとしたのでそのまま放置して仕事へ出た。

 さて、どうなっただろうか。

 そーっと開けた扉の向こう、部屋の中は薄暗い。そして静かだった。

「――ただいまー……」

 応える声もない。台所にスーパーの袋を置き、奥の六畳間の明かりをつける。小テーブルの上にかっぱの姿は、ない。消えた? そもそもいなかった?

 もし自分の世界に帰れたのなら、それは良し。放っておかれたことに怒って出て行ったというのなら、……自己責任ということでいいだろうか。一応勇者なんだし。

 気にならないと言えばウソになるけれど、なんとなく狐に化かされた気分で部屋に背を向ける。とりあえずシャワーで汗流して買ってきたカツ食べよう。

 ガサガサっ。

 音がした。とっさにGあいつ軍曹そいつを連想するが、季節的に考えにくい。というか、あのかっぱじゃなかろうか。きょろきょろと音の出所を探る。

 ごそごそッ。

 タンスの裏側だ。なぜそんなところから。不審に思いつつ、そっとタンスをのぞき込む。

 ぼふんっ。

 なぜか勢いよく埃の大きな塊が飛び出してきた。危うく顔面にぶつかるところだった。

「お。お前、いたのか」

 そしてその後から、昨日のかっぱがごそごそと出てきた。左手には謎の光球、右手にはミニチュアみたいなほうきを握っている。

「??? え、え、なにしてんの?」

 光球はただの灯りだったらしい。かっぱこと彼方かなたはそれをシュッと消すと、箒で埃の塊を固め始めた。

「なにって。起きたらお前いないみたいだし。とりあえず付近の探索でもしておくかと思ったら……お前、埃溜めすぎだろ! ちゃんと掃除してんのか?」

 している。そりゃ完璧にとは言えないかもしれないが、男一人暮らしにしてはマメな方だと思う。でも配線の都合でできたタンスの裏の隙間とか、掃除機の先が入らないし。年一の大掃除でやるかやらないか、というかここ数年やってなかった。

「まったく。宝箱ひとつ落ちちゃいないし。とんだ探索だったぞ」

 こいつ人の家になにを期待してたんだ。

「まぁ、そこそこ収穫もなかったじゃないからいいけどな!」

 ドヤ顔の彼方かなた。うん、なにを見つけられたんだろう。とりあえず追求はしないでおこうと思う。

「ところで、俺、朝急いで出ちゃったからさ。お前、水とか飯とか、困らなかった?」

 気がかりではあったので聞いてみると、彼方かなたは満面の笑みで頷いた。

「おう、大丈夫だ。俺、野宿は慣れてるからな」

 さてはこいつ、うちの中でサバイバルしてたな。


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