23.ほまれ、さかえあらん(三)
フランス語で“ポーランド風”を意味するポロネーズは、ポーランド貴族に伝承された3拍子の舞踊曲だ。
このポロネーズ第3番には、対になる曲『ポロネーズ第4番ハ短調 Op.40-2』がある。
第3番・軍隊ポロネーズが明るい曲調なのに対して、第4番は悲壮感の漂う暗い曲調。
それを“ポーランドの栄光と悲劇の象徴”と表現した作曲家もいる。
ショパンの祖国であるポーランドは、ドイツとロシアという大国に挟まれているがゆえに、幾度も地図からその国名が消えてしまった歴史と関係しているのだろう。
第二次世界大戦でのドイツ軍のポーランド侵攻の際には、ドイツ軍に対抗するため、連日この『軍隊ポロネーズ』を国営ラジオで流し、国民は団結力を深めたという。
ポーランド人の愛国心を象徴し、未来まで親しまれている曲なのだ。
ショパンはポロネーズの他にも、ポーランドの庶民の間で伝承された舞踊曲マズルカも作曲している。
祖国への思い。
ショパンはそれを音楽にのせて表現したけれど、今を生きるわたしたち、誰にとっても特別なものなのだ。
「いやぁ、たまげた!これが西洋の音楽か!」
盛大な拍手。
「かれんさんのお蔭で気が晴れた。ありがとなし」
「少しでもお気持ちが軽くなったならよかったです」
「君を見てっと、妹を思い出すな」
「妹さんですか?」
「これがまた、きかねぇんだ…」
「きかねぇ、とは?」
「気が強いということです」
「女らしくはねぇんだけんじょ、自慢の妹だ」
「お会いしてみたいです」
「會津に戻った時には紹介すっからな」
「ぜひお願いします」
「ところで、君は稽古堂を知ってっか?」
「はい、保科時代に開かれた會津の学問所ですよね。武士も庶民も身分に関係なく誰もが学べて、藩のご家老方も受講されたとか」
「んだ、よく知ってんな。さすが慧姫だなし」
「身分を問わない学校は全国でもめずらしく、先駆けだったと聞きました」
わたしが通っていた小学校のすぐ近くのお寺がその場所だ。
稽古堂跡の石碑が立っている。
現代では、図書館などが入る市の生涯学習総合センターとして、會津稽古堂の名前が残る。
「ただな、
「女にはできない、必要ない、してはいけないと決めつけられるのがとても不満です」
「もうしばらく先の話になっと思うんだけんじょ、私は
「それは素晴らしいね、かれんさん!」
「はい!」
「君や妹のように、学びっちぃと思っている
「覚馬さんは常々、先進的なことを考えておられるのだよ」
「まずは手始めに学問所を開く。藩や身分を問わず、志のある者へ門戸を開く学問所だ」
「近藤さん、かれんの目が…」
「キラキラと輝いているね」
感動なんですけど…!
この人、ものすっごく尊敬する!
頑なで保守的な人が多い幕末の會津に、こんな考えを持つ人がいたなんて!
「あの、先生とお呼びしてもよろしゅうございますか?山本先生…」
「覚馬でいい、皆そう呼ぶからな」
「はい、覚馬先生!」
「やはりね、私の読みは間違っていませんでしたね」
「んだからよ~!」
「……………はい?それで?」
「うん?」
「え?話が終わってしまいましたが…」
「だから、何です?」
「いや、何もねぇけんじょ…」
局長と土方さんが覚馬先生の言葉の続きを待つ。
謎の空気が流れる。
「あ~!先生、アレです。“だから~”の後に続く言葉を待っているのです」
「ああ、アレか。んだな、江戸や京に来たっけ通じねくて驚いたもんだ」
「會津では“だから~“とか、“んだからよ”とか、“したがらよ”というのは同意の相づちなんです」
「もちろん接続詞としても使うんだけんじょ、今のは“そうだな~”っつう感じの相づちだな」
「ほう、そうなのですか」
現代でもよくあるやり取り。
会津あるあるだ。
岩手、宮城、新潟、沖縄でも同じように“だから”が使われているという証言がある。
「それにしても、かれんさんはあんまし訛ってねぇんだな」
「言われてみれば」
「そうでしょうか?」
後から聞いた話だと、暗殺された佐久間象山先生は西洋の学問や兵学を極め、大砲の鋳造、地震予知機、電気治療機器、電磁石、ガラス、カメラの製造、天然痘ウイルスの予防接種の開発、電信機通信などに成功していたようだ。
私塾を開くと、科学、数学、蘭学、兵学、砲術と幅広い分野を学びに、吉田松陰や勝海舟、坂本龍馬、橋本左内、河井
ただ、性格には難ありだったようだけれど。
日本にとって、ものすごい人を失ってしまったんじゃないかと思った。
でも、きっと象山先生の知識、技術、志を継いだ人が今後の近代化していく日本を背負って立つんだわ。
覚馬先生のような人たちが。
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