「それが超絶美少女なお姫さまの生き方です」

「準備の方はいかがですか? そろそろお式のはじまる時間です」


にこやかに微笑むアテンドさんに『了解〜っす』と応え、ヨシキさんは両手でわたしたちを寄せるゼスチャーをしながら、カメラを構えた。


「よしっ。式の前のド緊張した四人のオフショ、撮っとこうぜ」

「え~? 緊張なんかしてないですよ~。凛子ちゃん桃李ちゃん恋子ちゃん、写真撮ろ!」


屈託なく笑いながら、優花さんはわたしたちを手招いた。

桃李さんは満面の微笑みを浮かべて、優花さんの腕をギュッと抱きしめる。


「やったぁ。桃李嬉しいですぅ。

麗しい花嫁さんと撮って頂けるなんて (/д\*))((*/Д\)キャッ

このお写真は一生の宝物にしまっす °˖✧◝(・∀・)◜✧˖

花嫁さんに悪さする悪魔はみんな、桃李が囮になって引き受けますので、優花さんはどうか幸せになってくださ~い ヾ(*´∀`*)ノ」


わたしも優花さんの横に立って、彼女に言った。


「優花さん、幸せになって下さい。そして、兄を幸せにしてあげて下さい」

「あははは。任せといてよ」

「あたしも、幸せのおこぼれに預からせてもらうわ。みぃ~んなで幸せになろっ!」


そう言った恋子さんが、みんなの肩を抱く。

純白のウエディングドレス姿の優花さんを真ん中にして、わたしたちは顔を寄せ合い、レンズに向かってピースをした。


「じゃあ撮るぞ。今日の合い言葉は『ハッピー』で。いいか、みんなで!」

「ハッピー」「ハッピー」「ハッピー」


“カシャカシャ!”


片手でピースサインを送りながら、ヨシキさんはシャッターを切った。

中腰の姿勢で構えるそのポーズは、相変わらずカッコいい。スーツ姿のヨシキさんは、いつにも増して素敵に見える。

この9ヶ月ほどの出来事が、頭のなかを駆け巡ってくる。

今、やっとヨシキさんのことを、肯定的に捉えることができる気がする。

わたし、この人と恋愛できて、本当によかった。

そりゃ、モヤモヤすることもムカつくこともあったけど、今思い返すと、初めて経験する刺激的で新鮮な出来事ばかりで、楽しいことや幸せなこともたくさんあって、わたしの人生の糧になった気がする。




 両開きの重々しい扉の向こうから、荘厳な賛美歌が漏れてくる。

花嫁は今、チャペルの入口で父と腕を組み、入場の時を待っている。

そのうしろには、長いウエディングドレスのトレーンの裾を持った桃李さんがいて、結婚のサインボードを持った恋子さんが続き、わたしは一番うしろで、リングピローを両手に掲げていた。


「やだ、、、わたし。脚が震えてきた」


ぽつりと優花さんがこぼした。桃李さんや恋子さんも、さっきまでの屈託無い微笑みが消えていて、心なしか肩が震えている。

優花さんの言葉で、わたしの心臓も、いっきに鼓動が増してきた。

リングピローを持つ手に汗が滲み、頬が火照ってくる。

自分のことじゃないとはいえ、一生一度の晴れ舞台で、緊張しないわけがない。


「凛子ちゃん、、、」


そんなわたしの不安を、いつになく真面目な表情で撮影していたヨシキさんが、目ざとく察し、小声で話しかけてきた。


「コスプレして、オレとつきあって、なにか変わった?」

「こ、こんなときになんですか?」

「いや。急に訊きたくなってさ」

「…」


しばらく沈黙したわたしは、ヨシキさんを見つめ、おもむろに答えた。


「よく、わかりました」

「なにが?」

「無理に変わろうとする必要は、なかったかなって」

「へえ」

「人は変わっていくものだって。去年の夏からわたし、とっても貴重な経験をしました。ヨシキさんと」

「そうだな」

「そしてヨシキさんは、わたしにとって、大切な、恋の、、、 出発点でした」

「、、、」

「今までありがとうございました」

「はは。凛子ちゃんのそういうとこ、惚れ直すよ。やっぱりオレは『手の届かない高嶺の花』に恋するのが好きみたいだな」

「ええ。いつまでもわたしのこと、好きでいて下さいね」


そう言って、わたしはニッコリ微笑んだ。

そのとき、チャペルの扉が開き、神々しい光が、部屋いっぱいに溢れてきた。

まぶしい扉の向こうに向かって、花嫁とその父は、ヴァージンロードへと踏み出してゆく。

続いて桃李さんが、レースのトレーンをうやうやしく掲げ、歩いていく。

恋子さんが、参列者に軽く手を振り、最後にわたしも、エンゲージリングを乗せたリングピローを手にして、新たな一歩を踏み出した。


“カシャカシャカシャカシャ!”


そんなわたしたちの後ろ姿を連写したヨシキさんは、風のように素早くみんなの横をすり抜け、あらゆるアングルからわたしたちを写していく。

花嫁のあとについて、わたしも純白のヴァージンロードを踏みしめる。

正面の祭壇には、兄が真っ白なタキシード姿で立っていた。

いつもとは違う優花さんの綺麗なウエディングドレス姿に、感動のあまり、頬を紅潮させているようだ。


いつかはこの道を、わたしもヒロインとして歩くかもしれない。

そのとき、わたしの隣にいるのは、もちろんヨシキさんじゃないだろう。

だいたいこのわたしが、あいつに惚れるわけが…


ううん。


そんな強がりはもう、やめよう。

素直に認めよう。

やっぱりわたしは、ヨシキさんに惚れていた。


桃李さん風に言うならば、一生一度の、はじめての、究極にして至高、最愛の恋だった。

たとえそれが終わったものでも、そんな恋に巡り会えた幸せを、わたしは一生大事にしたい。


それがわたしの、

才色兼備で文武両道、薩摩島津家の末裔にして超絶美少女のお姫さま。

島津凛子の生き方だからだ。


END

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