「どうやってそれを乗り越えてきたんですか?」
「ターニングポイント。かぁ…」
「ターニングポイント?」
「恋愛ってそうやって、どこかでターニングポイントを迎えるものかもしれない。
リアルではそれがいつなのか、わからない。
だけど、時が経って振り返ってみれば、『あの時がそうだったのかもしれない』って気がつくの。そのときにはもう、ふたり別々の道を歩んでて、もとには戻れない。なんか、哀しいわね」
「…」
「ふふ。高校の頃、つきあってた彼の口癖だったのよ。それ」
「みっこさんの、高校時代の彼ですか」
「ごめんね。こんな運命論みたいな話ししちゃって。でも、今の凛子ちゃんって、高校生の頃のあたしみたいなんだもの。なんか、感情移入しちゃった」
「みっこさんも高校の頃は、恋愛や進路で悩んだりしたんですか?」
「もがき苦しんでたわよ」
そう言ってみっこさんは、ニッコリ微笑んだ。
こんな素敵に微笑む人でも、もがき苦しむような過去があるのか。
みっこさんはどうやって、それを乗り越えてきたんだろうか?
どうして、こんなにあっさりと、素敵な笑顔で、過去を笑い飛ばせるようになれるんだろうか?
知りたい!
「もっと聞かせて下さい!」
「ん? いいわよ」
身を乗り出して、わたしは聞いてみた。
嫌そうな顔ひとつせず、みっこさんはうなづく。
「あたしね。物心ついた頃からモデルやってて。ま、正確には親にやらされてたんだけど。
それでも子供時代はそれなりに実績積んで、みんなからも認められて、いっぱしのモデルになったつもりだったのよ。
だけど、高校の頃にモデルとしての壁に突き当たって、行き詰まっちゃって。親の敷いた生き方が押しつけがましく、うっとしく感じてきて、迷っちゃったの」
「モデルとしての壁?」
「子供モデルから大人モデルになるとき、乗り越えなきゃいけない壁みたいなものね。
ぶっちゃけ、あたしの身長は157cm。ステージモデルやるには、
「あっ」
「なのに、そのときつきあってた彼氏は、あたしの外見しか見てくれてなかった。
モデルとして、見栄えのいいあたししか愛してくれなくて、まるで彼のアクセサリーみたいに扱われたわ。
わたし、それにも反発して、今までとは全然違う生き方を求めて、『変わらなくっちゃ』って焦って、もがいてたのよ」
「わかります。その、『変わらなくっちゃ』って焦る気持ち。それに、彼氏のアクセサリーっていうのも。わたしもヨシキさんに、そんな風に思ってしまうこともあったんです」
「ね。似てるでしょ、今の凛子ちゃんに」
「それで… みっこさんはどうやって道を見つけたんですか?」
「ん…」
ひとこと答えると、みっこさんは手にしていたティーカップの紅茶をコクンと飲み干し、過去を追いかけるような遠い眼差しで、暖炉の炎を見つめた。
オレンジ色の炎が、彼女の頬を紅く染め、瞳のなかで揺らめいている。
しばらくそうしていた彼女は、わたしを見つめて、軽く微笑みながら言った。
「全部、リセットしちゃった」
「リセット?」
「親の猛反対を押し切って、家出同然に東京を離れて、モデルとはまったく関係のない、福岡の四年制の女子大に進んだの。
新しい世界に飛び込んだわたしは、友達も知り合いもいない全然知らない街で、ひとり暮らしをはじめたわ。それをきっかけに、モデルの仕事も全部やめちゃって、彼氏とも別れて。
今まで自分を取り囲んでた環境を、まとめて捨てちゃったのよ」
「なんか、、 ずいぶん思い切ったことされたんですね」
「今考えると、無謀だったかもね」
「それで、道が開けたんですか?」
「そんなことで、道なんて開けるはずないじゃない」
強く否定するような口調で言うと、紅茶をひとくち飲み、彼女は話を続けた。
「最初のうちは… 絶望しかなかったわ」
「絶望、、、」
「いったいあたしはなにをすればいいのか、なにができるのか、全然わかんなくて。
新しい環境になっても、なんにも期待できなくて。夢も希望もなくて」
「みっこさんみたいに綺麗で才能のある人でも、そんなに悩んでたんですか?!」
「ばかね。凛子ちゃんだってあたし以上に、綺麗で才能あるじゃない」
「…そんな」
みっこさんは茶化すように微笑む。
「ふふ。だれだってみんな、真っ暗な森のなかにいるようなものよ。
最初から、自分の進む道が見えてるわけじゃない。
迷いのなかで自分と向き合って、少しずつ、自分のほんとの気持ちに気がついていくものじゃない?」
「ほんとの、気持ち、、、」
「あたしの場合は、『やっぱりモデルがしたい』、、、だったかな」
「…モデルが、したい」
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます