BATTLE SIDE
Level 18
「バトルモードに入ったら、もうダメです」
BATTLE SIDE
level 18
あの日から2ヶ月あまり…
11月28日。
今日、わたしは18歳になった。
「凛子ちゃん、誕生日おめでとう」
ホテルの部屋の窓辺にたたずみ、外の景色を見ているわたしを後ろから抱きしめ、ヨシキさんが耳元でささやく。
つきあいはじめて3ヶ月と少し。
もうすっかり慣れたはずだけど、こうしてヨシキさんとくっついてると、やっぱり恥ずかしいし、照れくさい。
「ありがとうございます」
窓の向こうに広がる芦ノ湖と、紅く彩られた山並みの向こうに、黄昏に
「ヨシキさんと泊まりで旅行するのって、これで二回目ですね」
「そうだな。前は夏休み最後の日。山口の西長門リゾートだったな」
「ええ。あのときはなにもかもが初めてで、緊張しっぱなしでした」
「二日目は雨が降って、あまり泳げなくて… 一日中エッチばかりしてた気がする」
「もうっ。ヨシキさんったら」
「はは。あれからいろいろあったな」
「こうして、ヨシキさんと旅行に行くことはもうないと、思ったこともありました」
「そうだな。今日はケンカ、すまいな」
「そうですね」
「愛してるよ、凛子ちゃん」
優しくささやくと、ヨシキさんはわたしのうなじに唇を這わした。
柔らかなヨシキさんの唇が触れるたび、痺れるような甘い電流が、からだの芯を伝っていく。
そう、、、
もう2ヶ月以上も前になる。
『リア恋plus』の合わせ撮影が終わったあと、ヨシキさんの女性関係が原因で、激しく言い合ったのは。
ケンカして、勢いで別れて、翌週のイベントでは彼の頬を思いっきりぶった。
その夜に仲直りに来てくれたヨシキさんと、また激しいケンカをして、それでもなんとなく元の鞘に納まって、挙げ句の果ては大胆にも、神社の境内でエッチして、、、
あれからわたしたち、何度そういうのを繰り返してきただろう。
ケンカの原因はたいてい、ヨシキさんの女性関係だった。
一応、ヨシキさんは、女の人と撮影に出かけるときは、ひとこと断ってくれるようにはなった。
だけど、束縛されるのが嫌いで、わたしにいちいち気兼ねせず、女友達とも自由に会いたいっていうヨシキさんが、外でなにをやってるのか、わたしにはまるでわからない。
『信じてほしい』と、ヨシキさんは言うけど、こっちの身にもなってほしい。
ヨシキさんの言う『女友達』って、どこが境界線?
恋子さんと泊まりがけで(本人は否定してるけど)、新島に撮影に行ったり。
わたしとつきあいはじめたのとほとんど同じ頃に、美咲麗奈ともエッチして、そのあとしばらくセフレの仲だったり。
彼の場合、エッチしても恋愛感情がなければ、『友達』、なんだろうか?
いつだったか、イベントのアフターで、たくさんのヨシキさんの取り巻きの女性たちと、同席したことがあった。
いろいろ観察していて、その時は、居合わせた女の子たちはみな、『ヨシキさんの恋人じゃない』との結論に達したが、それは間違いだったかもしれない。
ヨシキさんなら、二股や三股かけてたってことも、十分考えられる。
百合花さんや魔夢さんとだって、深い仲だったかもしれないし、兄の恋人の優花さんとだって、はずみでエッチすることくらい、あるかもしれない。
あの、地味でおとなしい桃李さんですら、掲示板ではヨシキさんの『性奴隷』だなんて言われてる。
少なくとも、桃李さんがヨシキさんのことを好きなのは、確かだ。
ずるい。
『
もしかして今でも、自分の気に入った子とは、わたしに内緒で会って撮影して、エッチしてるんじゃないだろうか。
『今はわたしだけ』と本人は否定してるけど、ヨシキさんにとってわたしは、会ってる『今』この瞬間だけの、刹那の恋人かもしれない。
他にも、突っつけばネタには困らないだろう。
送り主のわからない、おそらく美咲麗奈からの陰険メールで、わたしはネットの巨大匿名掲示板を見せられ、そんな噂話や誹謗中傷がヨシキさんの周りに渦巻いていることを知った。
そもそも、そんな悪意のこもったメールがわたしのところに来ること自体、ヨシキさんが今現在、ドロドロした関係の渦中にいるって証拠。
正直言って、腹が立つ。
ささいなきっかけで、わたしはヨシキさんにケンカをふっかけ、彼も正面からわたしに
ふたりとも強情で負けず嫌いだから、ケンカも半端じゃなくて、携帯で夜遅くまで罵りあったり、デートの最中に罵倒しあったり。
ヨシキさんをぶったことだって、一度や二度じゃない。
もっともヨシキさんは、わたしに手を上げる様なことは、絶対しない。
その分、倍返しでメンタルを攻撃してくる。
わたしはヨシキさんのことを愛しているし、彼だってわたしを心から愛し慈しんでくれてるのは、切ないほど伝わってくる。
だけど、一旦バトルモードに入ったら、もうダメ。
自分でもわけがわからないくらい、憎しみの感情が心の奥底からグツグツと沸き上がってくる。
まるで、嫉妬の火口から這い出してくる、巨大で醜悪なモンスターみたいな感情。
ヨシキさんのやることなすこと、すべてが気に入らない。
そんなわたしの怒りに引きずられるように、ヨシキさんも感情をヒートアップさせる。
バトルモードのふたりは、本気で相手のことを憎み、HPがなくなるまで叩きのめそうとするのだ。
つづく
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