Level 17

「負け犬になんか、なりたくないです」

     level 17


 日曜日。

わたしはやっぱり、イベント会場にいた。


 ヨシキさんと別れたあの夜から一週間。

彼からはまったく連絡がなかった。

一日だって、ヨシキさんのことを考えなかった日はないっていうのに・・・

寂しいのを通り過ぎて、腹が立ってくる。

ここでわたしがイベントに行かず、ヨシキさんだけがのうのうと他のレイヤーを撮ったりするのは、口惜しいしムカつく。

周りが敵だらけのイベント会場なんて、正直行くのはイヤだったけど、ここでわたしが引いてしまえば、メールを送りつけてきたヤツや、わたしのことをうとんでいる人たちの思うツボだ。


負け犬になんか、なりたくない。


あんな掲示板の事なんか気にもせず、他のレイヤーやカメコと楽しんでいる所を、悪口を書いている連中に、そしてなにより、あいつに見せつけてやりたい。

『オレがいなくても凛子ちゃんは平気なんだな』というのを、ヨシキさんに思い知らせてやるためにも、わたしはイベントに行かなきゃならない。



「美月姫~!!! ななななんとっ! 今日は『散華転生』の一番人気。『お市の方』コスではないですか~~~~っ  キャ━━━ヽ│*゚∀゚*│ノ━━━━!ッ!!

お市の方は細川ガラシャと並ぶ戦国一の美形で、聡明で勇ましくて、歴女の桃李のイチオシキャラです~ (≧Д≦)ゞ

美月姫はもうお市の方そのもので、ふっ、ふつくし過ぎますぅ~ (☆Д☆)

桃李、感動にあまり討ち死にしそうですぅ~~~っっっ (((o≧▽≦)o」


更衣室から出るとすぐに、わたしを見つけた桃李さんが、興奮した様に駆け寄ってきた。

そう。

この日のためにわたしは貯金をはたいて、『散華転生』の高価な衣装と装備を揃えたのだ。


『散華転生』は以前、桃李さんからゲームを借りてプレイして楽しかったし、キャラクターや衣装が素敵で、コスプレしてみたいなとも思っていた。

『リア恋plus』は、衣装といっても、いつも着ている学校の制服みたいで、『コスプレしている』という実感が乏しい。

だけどこの、歴史アクションロールプレイングゲームの『散華転生』は、キャラクターの衣装が豪華で、時代がかったコスチュームを着られるという、スペシャル感がある。

なかでも『お市の方』の衣装は、打ち掛けと甲冑かっちゅうがきらびやかで豪華絢爛。意匠を凝らしたコスチュームは、まさにコスプレの華で、変身願望を満足させてくれるものだった。

その分、値段も高く、高校生の自分には気軽に手が出せず、なかなか購入の踏ん切りがつかなかったけど、今回のことで意を決したのだ。

だいいち、いつも『江之宮憐花』のコスプレだけじゃ、みんなからバカにされるし、飽きられる。

みんなの注目を集めるにも、『散華転生』のコスプレは最適だった。


「桃李さん、どうですか?」


胸元の開いたコルセット風の和洋折衷の甲冑に、錦糸を織り込んだ潤色じゅんしょくな色打ち掛け。派手な装飾のついた薙刀をたずさえ、わたしは彼女の前でクルリと回ってみせた。

大振り袖が広がって、短い打ち掛けがフワリと舞い上がり、西洋風のクリノリンが裾からのぞく。


「もうっ! もうっ!! 素敵過ぎて言葉が出ませんっ Y(>_<、)Y

是非是非わたしに一番槍をお申しつけください!! わたしのこのキスデジちゃんで、美月姫の麗しいお姿を。見事お撮りさせていただきまするっっ (ж>▽<)y ☆」

「うむ、あいわかった。そなたに頼むとしんぜよう」

「ははぁっ。いざ!」


調子に乗って応えたわたしに、桃李さんも悪ノリしてくる。

いや。

彼女のことだから、天然なのかも、、


つづく

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