「わたし、ヨシキさんのなんなのですか?!」
“RRRRR RRRRR RRR…”
数回のコールで、ヨシキさんは電話に出た。
「凛子ちゃん? こんな夜遅くにどうしたんだ? もしかして、速報の催促?!
悪りぃ。バタバタしててまだセレクト終わってなくてさ。もう少し待っ…」
「そんなんじゃないです!」
彼の言葉を遮り、詰問するように、わたしは口調を荒げた。
「訊きたいことがあるんです。正直に話して下さい」
「どうしたんだ? 殺気立っちゃって」
「変なメールが来たんです」
「変なメール?」
「その…」
一瞬、内容を言うのを
だけど、元をただせば、ヨシキさんの異性関係の乱れからはじまったんだ。
わたしに手を出しておきながら、桃李さんや美咲麗奈と噂を立てられたり、恋子さんとも新島に行ったりするからだ。
そんなことで、わたしまでトバッチリを受けるなんて、、、
どうしてわたしが、ヨシキさんのやりたい放題のせいで、あんな卑劣なメールを送りつけられなきゃいけないの!
…だんだん腹が立ってくる。
ヨシキさんへの口調も、突っけんどんになってくる。
「ヨシキさんは… 『悪魔カメコ夜死期の悪行を晒すスレ』って、知っていますか?」
「……知ってるよ」
一瞬沈黙して、ヨシキさんは肯定し、続けて言った。
「もしかして凛子ちゃん、、、 見たとか?」
「全部読みました」
「そうか…」
「いえ。読まされたんです。その、変なメールを送りつけてきた人から」
「送りつけてきた?」
「だれだと思います? そんな陰険なことをする人は」
「…さあ」
「さあ、じゃないです! とぼけないで下さい! ヨシキさんなら思い当たるフシががあるはずです!」
「…」
「美咲さんですか? 恋子さんですか?」
「恋子ちゃんは違うだろな。そういう、裏から手を回すような事をするタイプじゃないから」
「よくご存知なんですね。恋子さんのこと」
「それほどでもないけど」
「嘘!」
「…」
「恋子さんと新島に行って、水着撮影したでしょ? わたしにないしょで」
「…」
「いつ行ったんですか?!」
「…」
「本当のこと教えて下さい! いつですか?」
「ん~、、、 8月下旬、だったかな」
「8月下旬?! 山口にバカンスに行く直前ですか? 『仕事を片づけとかないといけないから、しばらく会えない』って言っていた」
「ああ。そのときだよ」
「仕事って、恋子さんと新島に行くことですか?!」
「…それも含まれてる」
「『含まれてる』って… よくそんなサラっと言えますね。悪びれもせずに!」
「悪びれるって、、、 オレはなにも悪いことはしてないから」
「開き直らないで下さい! わたしに黙って恋子さんと新島なんかに行って、水着撮影するなんて!」
「いちいち了解とらなきゃいけないのか? 凛子ちゃんの」
「なにそれ? 信じられない! わたし、ヨシキさんのなんなんですかっ?!」
「カノジョ」
「だったら、他の女の人と撮影に行くとき、ひとことでいいから言ってほしいです! でないと、やましいことしているのじゃないかと、疑ってしまいます!」
「そんなこと、してないよ」
「でも、恋子さんと泊まったんでしょ? 新島に」
「泊まったりしてないよ」
「嘘っ! この前ヨシキさんは『新島は泊まりじゃないと日程組みにくい』って言っていたじゃないですか!」
「調べたら、調布から飛行機が出てたんだよ。それだと撮影だけなら日帰りでもなんとかできるし」
「ほんとうに、撮影だけですか?」
「オレのこと信じられない? まあ、あの
「どうしてそんな、人ごとみたいに言うんです? あれを見たわたしが、いったいどんな気持ちになったか、ヨシキさんはわかりますか?!」
「イヤ~な気持ちになっただろ。オレだっていい気持ちしないもん」
「そんな… ヨシキさんは平気なんですか? 就職先のことや人間関係や、プライベートなことまで全部晒されて、罵詈雑言浴びせられて、好き勝手なこと書かれて」
「しかたないよ。『有名税』って思うことにしてるよ」
「それで本当に納得しているんですか?!」
「できなくてもするしかないだろ。オレは敵が多いし、あることないこと晒されるし」
「『あることないこと』って、ほんとうのことも書いてあるんですね。やっぱり」
「オレのこと、ほんとにあのスレのとおりだって思ってるの?
凛子ちゃん、オレのこと信じてないの?
オレがほんとに好きなのは、今は凛子ちゃんただひとりだってのに」
「『今は』って。なんですか?」
「ん~、、 とにかくオレのこと、信じてほしいってこと」
「…そりゃ、信じたいけど、、、 なんだかわからなくなってきました」
「…」
「ヨシキさん… わたし以外にも、今つきあっている人、いるんじゃないですか?」
「…はぁ、、、、、、、、、」
携帯の向こうで、深いため息が漏れる。
長い沈黙のあと、冷めた口調でヨシキさんは言った。
つづく
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