「たくさんの男を知っていいのですか?」

「いいんですか? わたしがほんとうにトップモデルになっても。競争率、激しくなりますよ」


はだかでひとつのシーツにくるまりながら、わたしは少し意地悪く、ヨシキさんに言った。

撮影のあと、スタジオを出たわたしたちは、ヨシキさんの部屋に行き、あとはいつものパターン。

鼻先でせせら笑い、ヨシキさんは自信満々に答えた。


「競争率? オレがだれに負けるんだ? たくさんの男を知れば知るほど、逆にオレのよさがわかるよ。だから凛子ちゃんにはぜひ、トップモデルになって、他の男とオレを較べてもらいたいな」

「すごいです、その自信。ある意味尊敬します」

「明後日から、みっこさんとレッスンか… 凛子ちゃん、大丈夫?」

「もちろんです。わたし今、燃えていますから」

「それにしても… 縁かな」


ポツリと言ったヨシキさんは、顔を上げて、窓の外に目をやった。


「縁?」

「…」


わたしの問いには答えず、夕闇があおく広がり、街の灯がまたたきはじめた都会の景色を、ヨシキさんはじっと見つめている。

さっきまでの自信満々の笑顔に、少しかげが差している。


「ヨシキさん?」

「…」

「どうかしましたか?」

「…まあ、いいや。とにかく凛子ちゃんは、頑張れよ。オレもできるところは協力するからさ」

「え? ええ。ありがとうございます」


心の翳りを吹っ切るように、ヨシキさんは明るく言う。


「あの時の凛子ちゃん、カッコよかったよ。みっこさんに喰い下がったとき、野獣みたいな目をしてたな」

「え? そ、そうですか?」

「ああ。『なにがなんでもモデルになってみせる』って気迫が、ビシバシ伝わってきたよ」

「わたし、負けず嫌いなんです。ああまで言われておめおめ引き下がるなんて、絶対できません」

「はは。凛子ちゃんらしいよ」

「それに… 本当に好きになってきました。モデルってお仕事が」

「へえ~」

「見られるのが嬉しいというか、いろいろな自分を見てもらえる充実感や快感。いろいろな自分に変身できるのも、刺激的でとっても楽しいし」

「『変わりたい』って言ってたもんな。モデルは凛子ちゃんの、天職かもしれないな」

「モデルがわたしの、天職…」


反芻はんすうする。

わたしはモデルになりたい。

今日、はじめて気がついた。


わたしはモデルが好き。

コスプレしているときも漠然と思っていたけど、自分を表現することに、生き甲斐みたいなものを感じる。

なんだか、一気に目の前のかすみが晴れて、自分が行きたい場所が見えた気分。

ゴールは果てしない先で、道のりは険しいけど、そこへ向かってさえいけば、辿り着けないことはないはず。


もう迷わない!


「モデルになったら、オレがガンガン撮ってやるからな」

「撮られてあげても、いいですよ」

「はは。プライドだけはもう、トップモデル並だな」

「ふふ」

「送るよ。そろそろ服着ようぜ」


そう言ってベッドから出ようとしたヨシキさんを、わたしはうしろから抱きしめ、耳にキスをする。


「まだ、門限まで時間あります。もうちょっとこうしていたいです」

「可愛いこと言ってくれるじゃん。オレも復活してきたよ」


からだをこちらに向けたヨシキさんは、わたしをベッドに優しく横たえ、欲情を誘うような濃いキスをしてくる。


「あ… ヨシキさん…」


首筋から胸元へ、ゆっくりと降りていく暖かな快感。

ふくらみのいただきにある小さな果実を口に含んで舌で転がしながら、もう片方の胸を、大きな手でゆっくりと揉み上げる。

そのリズムが心地いい。

そしてわたしたちはひとつに繋がり、悦楽へととけていく。


「凛子ちゃんのなか、すごくあったかくて、気持ちいいよ」

「ふ… ああ。いぃ… ヨシキさん」

「ヒクヒクしてて、オレのをなかへと、引き込んでいくみたいだ」

「いや。ヨシキさん…」

「ずっとずっと、繋がっていような」

「繋がって、いたい…」

「好きだよ凛子ちゃん。だれよりも」

「わたしも…」


撮影のあとの、心地よい気だるさの漂う魔が刻。

なにかに魅入られたように、わたしたちはまったりとむつみあった。


つづく

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