「夏の海は女の子に魔法をかけます」

「凛子ちゃんどうした? 恥ずかしいのか?」


目をそらしたわたしを、ヨシキさんは茶化す。


「…ちょっと」

「ふふ。早く脱げよ。凛子ちゃんの水着姿、見せてくれよ」

「もう… 意地の悪いこと、言わないでください」


そう言いながらわたしは、水着の上に羽織っていたサンドレスの前ボタンを、ひとつずつはずしていく。

胸の鼓動が速くなり、わずかに指が震える。

水着姿をヨシキさんに見られるなんて。


「おぉ~~っ。すげ~っ!!」


サンドレスを脱いだわたしを見て、ヨシキさんは嬉しそうに声を上げた。

こんなに布の少ない水着なんて、生まれてはじめて着たんだから。


薄いラベンダーピンクにドット柄のビキニ。

三角ブラは胸のホールド感がないし、ローライズのひもショーツはようやくお尻に引っかかっているだけで、ずり落ちてしまいそうで、危なっかしい。

思わず脱いだワンピースで、胸元を隠す。


「おっ、おかしくないですか?」

「いい! すごくいい!

凛子ちゃんってバストトップの位置が高いから、三角ブラでもすっごい似合うのな。

ローライズビキニなんて、凛子ちゃんみたいに腰が高くて脚が長くないと、そんなにカッコよく穿きこなせないよ。

ウエストも細くてスラリとくびれてて、おへそも綺麗に縦に割れてて、腰骨がめっちゃ尖ってセクシーで、もうパーフェクト!」

「はっ、恥ずかしいです。いちいち解説しないで下さい」

「照れることないよ。もっと堂々としなよ。そっちの方が綺麗に見える。それにしても、大胆な水着だな」

「ヨシキさんが、『エロい水着』ってリクエストするから」

「ははは。凛子ちゃんって素直だな。はははは」

「もう… 笑い過ぎです」


むくれたわたしの肩を抱いて、ヨシキさんは自分の方へ引き寄せ、真顔に戻っておでこをくっつけて言った。


「すっごく嬉しいよ。凛子ちゃんはまぶしくて、キラキラ光ってるよ。まだまだ原石だけど、その分磨き甲斐がある。オレがもっと輝かせてやるよ」


まったくキザなんだから。

でも、ヨシキさんが言うと、それが実現するような気がする。


「さ、ここに寝て。夏の終わりとはいえ、すぐに真っ黒になるからな」


そう言ってヨシキさんは、波打ち際のビーチチェアにわたしをうつ伏せに寝かせ、日焼け止めクリームを手に取り、背中に塗りはじめた。

男の人からクリームを塗ってもらうなんて、はじめての経験。

大きな手がわたしの肩や背中をなぞっていくのが、恥ずかしいけど気持ちいい。

こうして夏の太陽の下ではだかでいると、もっと大胆になれる気がする。


「次はわたしに塗らせて下さい」

「お。嬉しいな」


ひととおり塗ってもらったあと、今度はわたしが日焼け止めを手にして、ヨシキさんを寝かせた。

両手にクリームをとって、広い背中に伸ばしていく。

ゴツゴツとした筋肉の感触。

ヨシキさんの肩や二の腕は、見た目よりずっと固くて太い。

やっぱり男の人は違う。

この太い腕に、わたしは抱かれてるんだな。

そう思うと、なんだかドキドキする。



 日が傾くまで、わたしたちは海で遊んだり、プールで泳いだりして過ごした。

もちろん、写真もたくさん撮ったのは言うまでもない。

水着で撮られるときの緊張感は、今までの撮影とはまったく違っていた。


「もっと胸を張って。そう! 腰をぐっとひねって!」


からだのラインが強調されるようなポーズを要求する、ヨシキさん。

彼自身も水着姿で、砂浜に寝そべりながらわたしを見上げたり、なぎさに横たわるわたしを、真上から見下ろしたりして撮っている。

カメラを操作する度に、腕の筋肉や腹筋がググッと盛り上がるのが、なんだかセクシー。

水しぶきを上げて、波打ち際を駆けるわたしを、いっしょになって追いかけながら写真を撮ったりするところも、アグレッシブでカッコいい。


大きなレンズ越しに、ヨシキさんがわたしを見つめる。

熱い視線を感じる。

胸や腰やお尻からつま先まで、はだかのわたしをじっと見つめられる。

その視線が、妙に心地いい。

緊張が、次第に開放感へと変わっていく。

からだの奥底がジンジンしてきて、熱いものが溢れ出してくる。

もっともっと、わたしをさらけ出したい。

この熱い想いを、知ってほしい。

わたし、ヨシキさんに見られるのが、好き。


もっと見てほしい。

わたしのすべてを。


手足を伸ばし、からだをひねり、胸を張って、ヨシキさんの求めるままに、わたしはポーズをとった。

シャッター音が機関銃のように唸り、わたしはヨシキさんの視線に貫かれる。

どんな要求にも応えたい。

もっと大胆なポーズを求めてほしい。

もっと淫らにしてほしい。


夏の海は、女の子に大胆な魔法をかける。

それともこの魔法は、ヨシキさんだけが使えるもの?


つづく

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