♯311 幸せ家族計画Ⅱ


◇◆◇◆◇◆◇



 魔王メルティルが喰うだけ喰って帰った後、クレスとフィオナ、そしてレナを含めた三人でテーブルを囲んだ話し合いが行われた。


「お見送りも済んだところで……それでは家族会議を始めます!」


 フィオナが元気よくそう宣言して、クレスとレナが「おお~」と拍手をする。

 家族それぞれがやりたいことだったり進路だったりを発表、相談する転機の場としてもはや恒例になりつつあるこのクレス家の家族会議。取り仕切るのは基本的にはフィオナだ。テーブルに並ぶ紅茶が良い香りを漂わせる。


「ええと、ちょっとごたごたが続いていたから、ずっとどうしようかなって思っていたんですが……そろそろ、具体的にお店をスタートする時期を決めたいなって思います!」


 また「おお~」と二人が手を叩く。それには肯定の意味があった。


「えへへ、ありがとうございます。先ほどのメルティルさんとのお話で、将来に安心することが出来たので、タイミングとしてもちょうどよいかなと。それで、お店を開くに当たって仕入れ先の方とお話を詰めたり、わたしたちだけでどこまで出来るのかなって考えたりも必要かなと……」

「うん、そうだね。より安定した収入のためにも、しっかり準備をしておこう」


 うなずくクレス。続けてレナが手を挙げた。


「ハイ」

「レナちゃんどうぞ」


 フィオナが発言権を与えると、レナは立ち上がって言う。


「お店はいいんだけど、それより、まずはせつめい」

「え?」

「今日までどこでなにしてたのか、なにがあったのか、ちゃんとレナにもおしえて。あのヘンなお客さんが寿命がどうとかもいってたけど、どういうこと?」

「あ、そ、そうだよね。ごめんねレナちゃん。えっと、どこから説明しようかな……」


 レナにどう話すべきかで頭を悩ませつつも、フィオナはキチンと腰を据えて、出来る限りわかりやすく、過不足のないようにこれまでのことを説明した。それにクレスが補足を入れる。

 レナは何度も驚いていたし、まだ幼い身でよくわからない事情もあっただろうが、それでも二人の身に起きたことを一所懸命に理解しようとしてくれた。しかし、やはり情報量が多かったらしく困惑することは避けられない。


「うーん……神さまのせかいとか、フィオナママが聖女さまと姉妹とか、寿命をのばす薬とか、なんか、ちょっとびっくりしすぎてよくわかんない……」

「そ、そうだよね。うう~、急にあれこれ話して混乱しちゃったよね。ごめんね」

「正直なところ、俺も未だに理解が追いついていないくらいだ。頭で考えるよりも、そういうものだと現実を受け止めるしかないというか。レナもあまり難しく考えすぎる必要はないよ」

「ん。レナからおねがいしたんだし、いいよ。でも、おしえてほしかった。レナだって『夢魔』だから、もしかしたら、フィオナママの夢にはいってお手伝いとかできたかも、だし。やり方はわかんないけど……」

「レナちゃん……」


 レナが、両手でクレスとフィオナの手をそれぞれ握った。


「……まぁ、ちゃんと話してくれたから、いいよ。それなら、信じるし」


 そう言って二人の顔を見上げ、すぐ照れたように顔をそらすレナ。クレスとフィオナは穏やかに笑い合い、それからフィオナがまたレナに抱きついて頭を撫でたり頬ずりして愛情を伝えた。レナはちょっと鬱陶しそうな顔をしたが、それでも逃げたりはしない。


 レナは呼吸を整えて言った。


「でもさ、フィオナママが長生きできるならよかったね。あとはお店がうまくいったらかんぺきじゃん」

「ふふ、そうだねレナちゃん。フィオナママ、がんばるぞ~!」

「じゃあ、あとは子作りもがんばらなきゃだね」

「へっ?」


 不意の発言に固まるフィオナ。レナはニマニマしていた。


「レナもお店手伝ってあげるから、気にしないで子どもつくっちゃっていいよ。レナもはやく妹ほしいし。あ、子作りするところって見ててもいい?」

「ふぇっ!? そ、そそそれは困っちゃうかもというかあの、そのっ、そ、そっちもがんばりたいけど今はまずお店のことかなってわたし」

「レナはお店より子どものほうが大事だとおもう。家族がいちばんでしょ。若いうちに産んだほうがいいってモニカ先生がいってたし。あと、フィオナママは安産型だから安心ねって言ってた」

「ああああ安産型!? モニカ先生そんなこと……そ、そそそうなんだね! えーとえーと、じゃ、じゃあフィオナママがんばります!」

「その意気だよ」

「フィオナの方が説得されている……!」


 やる気を見せつつ紅潮するフィオナと、親指を立てるレナ。そんなやりとりにクレスが感心しつつ、一拍を置いて尋ねた。


「ああ、そういえば俺も気になっていたんだが……魔王の言うとおり、フィオナの寿命は薬の効果で本当に延びているんだろうか」


 その質問に、フィオナは「あっ」と落ち着きを取り戻す。


「そ、そう、ですね。たぶん、それは本当だと思います。あの薬はセシリアさんのお墨付きでもありましたし、ソフィアちゃんに飲んでもらおうと口にしたとき、すごく、胸の辺りが温かくなったんです。わたしが飲んだ分は少しでしたが、それでも、効果はあったと思います。そう、信じたいです」

「そうだね。実は俺も感じたんだ。フィオナと繋がっているこの魂が、あのとき、熱くなったこと。だからきっと、本当なのだろう。君が長く生きてくれるのなら、俺もそれ以上に嬉しいことはないな」

「クレスさん……えへへ。わたしも同じ気持ち、です……」


 お互いに手を絡めて、視線を合わせる。なんだか良い感じの雰囲気になって、自然にお互いの唇が近づき…………レナがじ~~~っとそれを見ていることに気付いたフィオナがハッとして身を引いた。


「あ、やめちゃった。チューするとこ見たかったのに」

「レ、レナちゃんっ。それはさすがにはずか――」


 とフィオナが躊躇しているところで、フィオナの頬にクレスが軽い口づけをした。

レナが「おお~」と目を見開き、フィオナはぽかーんと呆ける。


 クレスが言う。


「たまには男から強引にするのも女性は喜ぶと、前にヴァーンが言っていたんだ。……少し、強引すぎたかな?」


 そんな発言に、レナの方が「いやいや」と言いたげに首を振り、フィオナを指さす。


「……えへ。クレスさんから……えへへへ~」


 フィオナは頬に手を当てながら、へにゃ~と緩みきった顔でニヤニヤしていた。クレスがフィオナの顔の前で手を振ってみても、へにゃへにゃは収まらない。


 へにゃへにゃフィオナにレナが言う。


「じゃあ、次は子作りみたいな」

「えへへへ……いいよぉ……」

「やった」

「いいのか……」


 言質を取ったレナが喜び、意外な展開になってしまったクレスの方が困惑する。そして思考回路が乙女な色に染まって適当な返事をしてしまったフィオナは、その後でまた困ったことになってしまうのであった。

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