♯287 真理の3
白い世界は崩れ去り、フィオナとソフィアが着ていたヴェインスのドレスも、すべてが雪のように散って幻と消えた。
変移するプリズムの空間で、フィオナがつぶやく。
「……わたしたちがあの世界でしたことは、何か、意味があったのかな?」
「ん。シャーレ様も言ってたよ。私たちのしたことは現実に影響を及ぼさないけど、現実たり得るものだって。エステルちゃんの――あの世界の皆の笑顔は、本物だったよ」
そう言ってソフィアは微笑み、フィオナの手を握った。
「さぁ、次が最後の
「ソフィアちゃん……うん、そうだね」
手を取り合う二人をまぶしい光が包み込み――目を開ければ、元の神域に戻ってきていた。
聖女ミレーニアと女神シャーレのステンドグラスから、淡い光が室内に差し込む。
神域の神殿。あの教会の中に立っていた。
「戻ってきた……みたい。最後は確か、『愛』の真理……だよね……」
辺りを見回すフィオナ。先ほど消えてしまった女神はまだ姿を見せず、何も説明をしてくれない。ドレスの代わりに、今はまた白いワンピース姿に戻っている。『月の杖』も復活していた。
「そういえば、前にミスティオラの花園でローザさんからも愛の試練を受けたっけ。なんだか懐かしいけど、やっぱり、あのときとは違うんだろうな。ソフィアちゃんにも、前に話したことがあったよね」
そう言って、手を繋ぐ隣のソフィアを見やったフィオナは固まった。
「……え?」
自分が手を繋いでいたのは、妹ではなかった。
無言でじっとフィオナを見つめているのは、顔のない木偶。
「――きゃっ!」
思わず手を離したフィオナ。
その人形には顔がないのに、間違いなく自分を見ているとフィオナは確信した。
「――真理の3」
声のした方へバッと顔を向けるフィオナ。
「あっ……シャ、シャーレ様! あの、ソフィアちゃんはどこへ、それにこの人形は――」
頭上に浮かぶ女神シャーレがつぶやく。
「『愛』とは絶対であり、完全なるもの」
「……え?」と戸惑うフィオナの問いは無視して、シャーレは続けて話した。
「それは、永遠に、悠久に残される唯一の証。世界の真理。完全なる愛は決して揺るぐことはない。そして、己の愛を証明出来る者は己だけである。ゆえに、お前は証明しなくてはならない」
「しょう……めい……」
「人形は依り代。人の姿を写し、人の魂を遷し取る鏡。魂の欠片から抽出した記憶は感情を宿し、本物に成る。すなわちその人形は、お前の
「――っ!」
フィオナはぞくっとした気配に素早く人形の方を振り返った。
そこに――もう一人の
「聖女フィオナ。お前の『愛』は、お前を超えられる?」
それだけ告げて、女神シャーレは再び消えた。
フィオナが、もう一人のフィオナを見つめる。
もう一人のフィオナもまた、その星輝く瞳でフィオナをじっと見つめていた。
『……わたし、なんですね?』
声を失うフィオナに対して、もう一人のフィオナが静かにそう尋ねた。
フィオナは息を呑む。
銀色の髪。
自分を見つめる瞳。
その声。姿。魔力の質や流れまでも、すべてが同じ。違いは何一つない。
鏡の中の自分よりもなお完璧に、双子よりも完全に、魂さえ己と同一の存在である。それが解ったから、フィオナは何も応えられなかった。戸惑いと恐ろしさ、そして
それでも、お互いにお互いのことを正しく理解していた。
もう一人のフィオナが、『月の杖』を両手で握りしめながら言う。
『わたしたちは、どちらも本物。どちらもが本物のフィオナ。けれど、クレスさんの元へ帰ることが出来るのは、一人だけ……』
彼女の瞳は、揺らがない。
『なら、わたしは
頭部にクインフォの耳が出現し、全身の魔力が青白い炎のオーラに変貌する。
その覚悟の早さに、フィオナは先手を取られた。
戦わなければならない。
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