♯162 フィオナママ(本物)の胸キュン♥フィオナクイズ
祈りが通じたのだろうか。
次にフィオナが目を開けたとき、そこは古びて朽ちたかつての我が家だった。今にも崩れそうな床に座りこんでいたフィオナの前で、崩壊した天井から差し込む太陽の光が真っ白な手紙を差し、すぐそばには母親の『嫁入り道具セット』もあった。
ゆっくりと顔を上げるフィオナ。
そこに、会いたかった愛おしい人の姿があった。
「……!」
一目で解る。
間違いない。現実世界に戻ってきた。
嬉しさのあまり、フィオナの瞳がじわりと潤んだ。
「クレ――」
フィオナはすぐに彼の名前を呼ぼうとして、しかし声が止まってしまった。
彼の前に、もう一人の存在があった。
クレスとその人物は互いに正座をし、真剣な顔で向かい合う。張り詰めた空気が流れていた。
『――ここまで続きましたママチェック、『胸キュン♥フィオナクイズ』ですが、いよいよ次が最終問題となります。クレスさん、心の準備はよろしいですね』
クレスがうなずく。
そして向かい合う女性がゆっくりと息を吸い、言った。
『デデーデンッ! それでは25問目。フィオナの身体にはある一カ所の部分に可愛いほくろがあります。さて、それはどこにあるでしょう~かっ!』
「――右胸の下に一つッ!」
『せいかぁ~~~~~~い!!!!』
女性が嬉しそうにパチパチと拍手をする。クレスは正座のまま両手を挙げてガッツポーズを取った。
フィオナは――ぽかーんと口を半開きにしたまま目を点にした。
女性がテンション高くクレスの両手をがしっと握る。
『クレスさんすごいわぁ~! 25問中24問正解なんてびっくり! 大記録です! 最後のだって結構な難問だったはずですよ! それに、今のわたしですら知らないあの子のスリーサイズを即答したときなんてすごく驚いちゃった! あれイジワル問題だったんですよ? どうしてわかったんですか!?』
「フィオナの身体には毎日この手で触れていますから、身体的特徴は完全に把握しているつもりです。目を閉じれば今も彼女の姿が……」
『いやぁ~~~んめっちゃラブラブなのねいいわいいわ~~~! はぁ、なんかすっごい安心しちゃった。クレスさんにならあの子をお任せできます!』
「ありがとうございます。しかし、一問を間違えてしまったのが悔やまれるところです。まさか、フィオナが現聖女様と実の姉妹だったとは……それは知りませんでした」
『あはは、フィオナだって知らないことなんだから無理ないですよぅ。そもそも、あの問題だけは今の段階じゃ絶対に答えられない問題にしておいたんですからね』
「そ、そうだったんですか。しかし、なぜそんな問題を?」
『だってだって、最愛の娘を奪っていく相手に全問答えられちゃうなんて悔しいんだもん! 最後の砦たる母親としては、こういうところでお婿さんに示しを付けておかないと! 母強し、ということをね! ま、でもクレスさんは実質全問正解ですよ。お見事!』
「なるほど……そういうことでしたか。いや、大変勉強になりました。フィオナのことがより深く知れて嬉しかったです。イリアさん、厳しい『ママチェック』をありがとうございました」
『クレスさんてば真面目だな~。でもそういうところも好きっ! うんうん文句なく合格だよ! ホント良い男の子だねぇ! ふつつかな娘ですが、どうぞ末永くよろしくお願い致します』
「いえ、こちらこそ。不出来な夫で申し訳ありません。よろしくお願い致します」
謎のクイズに熱狂していた二人はそれぞれ正座したまま神妙に頭を下げ合う。なんだか良い感じのほっこりした空気が流れていた。
いよいよいたたまれなくなったフィオナが声を上げた。
「――な、な、なっ! ななっ!! なにをやっているんですかぁぁぁぁーーーーっ!?」
うわずったその声に、クレスとイリアが揃って顔を上げた。
「フィオナっ!? い、いつの間に! だが良かった! 無事に帰ってこられたんだな!」
「あ、は、はいっ。ご心配かけてすみまふぁっ」
「本当に良かった! おかえり……フィオナ!」
真っ先に立ち上がってフィオナの元へやってきたクレス。そのまま彼に抱きしめられたことで緊張がスッと解けたのか、フィオナは穏やかに気の抜けた表情を浮かべてクレスの背中に手を回した。そんな二人を見つめてイリアがニマニマとする。
が、フィオナはすぐにハッとしてクレスと身を離し、口を開く。
「あのっ! クレスさんに会えてすごく嬉しいしもっと抱き合っていたいのですけど今は他にいろいろとツッコみたいところが多くてですねっ! さ、さっきのクイズなんなんですか!? スリーサイズってなんですか! なんでわたしのほくろの場所とかクイズにしてるんですか! ていうかものすっごく重要なことサラッとクイズにしてませんでした!? わたしとソフィアちゃんが姉妹っていうくだりとか!」
「ああ、それは俺も驚いたんだ」
「ですよね!? そ、そもそもなんでママがここにいるの~~~~!?」
指を差しながらそちらを向くフィオナ。
ママと呼ばれた女性はひらひらと手を振った。
『やっほー。大きくなったねぇフィオナ。胸もちゃんと成長してて良かったなぁ。けどまさかもう90突破してるとは思わなかったわね……恐るべしわたしの遺伝子!』
「やっほーじゃないよ!? なんでそんなに落ち着いてるのっ! わ、わたし過去の記憶で若いときのママを見て、もうきっと会えないんだろうなって思ってすごくしんみりしていて! さ、さっきだってお墓の前で必死に涙こらえてたのに! 胸を凝視しないでっ! もうなにがどうなってるの!? 全部説明してーーーーっ!』
さすがに混乱しているのか、普段の落ち着きぶりはどこへやら、早口で疑問を投げまくるフィオナ。
もう亡くなったはずの母親と再会を果たすという、本来ならお涙必須な感動シーンにでもなるべき流れであったが、この状況ではそうもいかなかったようである。クレスも呆然としていた。
だが、そんなフィオナとは違ってイリアの方はケラケラと愉しそうに笑う。
『元気そうで何より! というか……すごい格好してるわねぇ。クレスさんの前なんだから、ちゃんと女の子らしい慎みを持った言動をとらなきゃ嫌われちゃうわよ~?』
「へっ? ――わ、わぁ~忘れてたぁ! クレスさんごめんなさいあんまり見ないでくださぁい!」
「わ、わかったすまない! ものすごく気になるがそれは後にして、とりあえず俺の服を着てくれ!」
濡れた服を抱えたまましゃがみ込むフィオナ。クレスは慌てて自分の着ていた上着のシャツを脱ぎ、フィオナの肩へ掛けた。
そんな二人をずっと愉しそうに観察していたイリアが言う。
「おかえりフィオナ。あっちでいろいろ見てこられた?』
「えっ? あ、えっと、えっと…………う、うん。ただいま……。いろいろ……みました……」
『そう、良かった。『時の魔術』なんて扱い難しいからねー。アイ叔母ちゃんに教わっておいてよかったわよぅ。ていうか、まさか
落ち着いた口調で話しかけられたからか、はたまた微笑みかけられたからなのか。狼狽していたフィオナも次第に呼吸を整えることが出来た。
『そろそろ落ち着いた? 質問あれば答えたげるよ』
そう言ったイリアはフィオナの方から言葉を引き出そうとしているのか、静かに待っている。
おかげでゆっくり考えを巡らせられたフィオナは、最も訊きたいことを尋ねた。
「……お母さん。あの……あの世界は、わたしが見てきたものは、やっぱり、過去の記憶……なの?」
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