猿も木から落ちる4

 瑠璃の案内の元、階段を降りていく。彼女の持つたいまつと備え付けの燭台に照らされるそこは慎一郎達がここに来る途中に通ってきたらせん階段によく似ている。


「地下牢はここを降りてすぐそこよ。ほら」

 果たして瑠璃の言うとおり、階段を降りて角を曲がった先には通路の左右に鉄格子が嵌められた小さな部屋が並んでいた。


「慎一郎!」

 仲間達は男女に分けて牢に入れられていた。瑠璃の指示によりサルの眷属達が牢の鍵を開けて彼らを解放する。部員達は救助に駆けつけた慎一郎の所に駆け寄ってきた。


「心配したぞ。今までどうし……おい、その美人誰だよ!」

 慎一郎への心配もそこそこに、徹が慎一郎の隣に立つ女の子――瑠璃を見て慎一郎に詰め寄った。


「あ、えっと、こいつは……」

 “こいつ”という紹介に徹の後ろに立っていた結希奈がむっとし、楓が悲しそうな顔をした。それを目ざとく見つけた瑠璃がにやりと笑う。


「あたしは松坂瑠璃。この人とはふかぁ~い関係なの。ひとつになろうとした仲よ。ね、あ・な・た♡」

 そう言って慎一郎の左手にぴとっと抱きついた。


「なっ……!」

「…………!!」「えっ!?」

 慎一郎が驚き、結希奈と楓の感情が高ぶるのが瑠璃には手に取るようにわかった。


「ちょ、おい、離れろ。瑠璃!」

「瑠璃って、名前で呼ぶんですね。私は呼んでくれないのに……」

「いや、違うんだ、今井さん。こいつは……」

「ちゃんと説明してくれるんでしょうね、あ・さ・む・ら?」

 楓にうろたえ、結希奈に怯える慎一郎。それに対して、

「オレはこよりさん一筋ですから。安心してください!」

「あ、うん。ありがとう。あはははは……」

 こよりと斉彬はいつも通りだった。




「“さる”の〈守護聖獣〉ねぇ……」

 事情を聞いた徹が瑠璃をまじまじと見る。


「うーん、かわいいからオッケー!」

「いや、かわいくてもサルだぞ?」

「サルだけどかわいいじゃん」

「サルとか言うな! あたしはハーフだっての」

 徹と斉彬のサル談義を瑠璃がぴしゃりと一喝した。


「あたしは信用できない。慎一郎の身体を乗っ取ろうとした女よ」

 厳しい結希奈の意見に楓もこくこく頷いている。


「それについては謝るわよ。だって、こんなに乗っ取りやすそうな身体があったら誰でもふらふら~って行きたくなるでしょ?」

「でしょ、って言われてもねぇ……」

 突然話を振られたこよりが苦笑する。


「最近、お肌が荒れてきちゃって」

 自分の頬に手を当てて肌荒れを気にする瑠璃に徹が「十分綺麗だよ、瑠璃ちゃん!」などとフォローするが、全く相手にされていない。


 そんな悲しそうな瑠璃にこよりが「あ」と手を叩いた。

「錬金術で何とかなるかも。最近、錬金術で再生医療とか発達してきてるし……」


「なにそれ!? 詳しく教えて!」

 こよりの話に驚くほどの食いつきぶりを見せる瑠璃。あまりの食いつきっぷりにこよりが引くほどである。


「なあ、盛り上がってるところ悪いんだが」

 そこに割って入ったのは斉彬だ。こよりが困っているから助け船を出したというわけではないようだ。


「ここの牢に入れられてるときから時々、何かの叫び声が聞こえてくるんだが」

「そうそう。あれ、大丈夫なの? なにかヤバいペットでも飼ってるんじゃないの?」


 斉彬と結希奈の説明によると、今はおさまっているものの、叫び声のほかに何かがぶつかるような大きな音と振動が断続的に起こっているようだ。

 と、言っている間にも――


 ――クエェェェェェェェェェェェー!


「ほら、あれ!」

 と指摘する結希奈には楓がしがみついて震えている。

 しかし、瑠璃はその声にも涼しい顔だ。


「ああ、あれ? “とり”の〈守護聖獣〉よ。なんか突然おかしくなって暴れ出したから、とっ捕まえてこの奥の牢屋に閉じ込めてるの」

「大丈夫なのか?」

「あーら、大丈夫よ、ダーリン。いざとなったらあたしが守ってあげるから♡」

「だ……!!」「ダーリン……!?」

 瑠璃の甘い声に結希奈と楓がピクリと身体を震わせる。


 などと言っている間にズシン、ズシンと腹に響く振動が数回起こった。“酉”の〈守護聖獣〉が暴れているのだろう。


「お、おい……。大丈夫なのか?」

 心配そうな表情の徹を瑠璃は一瞥した。


「大丈夫だってば。ここの地下牢、頑丈だし、いざとなればあたしの眷属が――」

 言い終わらないうちに一際大きな振動と轟音とともに、通路の奥の暗がりにかすか見える壁を校正している石が派手に吹き飛んだ。


「大丈夫じゃねーじゃねぇか!」

 徹の叫び声もむなしく、巨大なニワトリのモンスター――“酉”の〈守護聖獣〉が通路の奥に姿を現した。


 ――コケェェェェェェェェェェェ……ッ!!

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