家畜泥棒を追え!
家畜泥棒を追え!1
聖歴2026年8月11日(火)
北高の校則――『封印後に追加された項目は“規約”であり、校則とは異なる』とは、風紀委員会の見解だ――はあくまで校則であり、破った際の罰則などは規定されていない。
かといって、罰がないわけではない。
普段なら教師による叱責。重い場合は停学や、最悪の場合は退学などである。
しかし、今の北高には教員はいない。いや、いるにはいるが彼女――辻綾子は一切の責任を生徒会に丸投げしてしまったので、結局生徒達で決めるしかない。
先日の〈竜王部〉による夜中のプール侵入事件で彼らには“執行猶予”が下された。無罪放免ではなく、時期を見計らってなんらかのペナルティが科されるということだ。
生徒が生徒に罰を与えるべきではないという生徒会長側と、罪には罰をと主張する風紀委員側の妥協の産物である。
そんな〈竜王部〉に、風紀委員長の岡田遙佳がやってきた。夕方、ちょうどその日の探索を終えて部室に戻ってきたタイミングだった。おそらくこのタイミングを狙ってきたのだろう。全員で風紀委員長を出迎える形となった。
「それで……ご用件は?」
やってくるなり、出されたお茶にも手をつけず、むっつりと黙り込んだ遙佳に慎一郎が一同を代表して訊いた。
(この人、苦手なんだよなぁ)
とは、メリュジーヌを除く全員の心情だったが、口に出す者はいない。目の前の小柄でくせっ毛の(そして胸が大きい)、全身黒ずくめの軍服も似た制服を着る風紀委員長からはえもいわれぬ迫力あるオーラが出ているように感じられた。
よほど言いたくないのだろう。しばらくの沈黙ののち、遙佳は絞り出すようにその言葉を出した。
「お前達に……協力を頼みたい」
「!?」
およそ、誰かを信用するという所からもっとも縁遠いと思われていた風紀委員長からのまさかの言葉に全員が息をのみ、お互いの顔を見合わせる。
顔を見合わせたことによってそれが単なる聞き間違いでないことを確認した。
「詳しく……話を聞かせてもらえませんか?」
数秒かかってようやく衝撃も収まり、慎一郎はどうにかそれだけを小柄な上級生に聞くことができた。遙佳はぽつり、ぽつりと顛末を話し始めた。
「通報があったのは、先ほど……つい一時間ほど前のことだ」
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