北高竜王部4

「部員一人につき1票って言ってたよな」

 生徒会室を出たところで徹が切り出した。


「言ってたな。部員が多い方が当選しやすいらしい」

 慎一郎が頷く。

「くそっ、慌てて出てきたから当選確率がどれくらいか聞いてこなかったぞ」

「けど、部員数二人じゃ不利なのは間違いないぞ」


『足りないのなら人を増やせば良かろう?』

「増やすって……どうやって?」

『地下迷宮にともに行く仲間を募集すれば良いではないか。嘘をつく必要もあるまい』


「無茶だー!」

 メリュジーヌの素直すぎる提案に頭をかきむしる徹。もともと本当の目的をカモフラージュする目的で設立しようとしているのが〈竜王部〉である。


「ねえ」

「表向きの活動をしつつ、おれたちはこっそり地下迷宮に行くっていうのは?」

「部長がこっそりは無理があるだろう……」


「ねえってば」

「あ、部長はおれだったっけ」

「しっかりしてくれよ、慎一郎……」


「あのさ、そこどいてくれない? 邪魔なんだけど!」

「うわっ!」


 突然――少なくとも慎一郎達にはそう感じられた――背後から声を掛けられ、慌てた様子で後ろを振り向くと、いつの間にか――少なくとも慎一郎達にはそう感じられた――そこには女子生徒が立っていた。


 短く切りそろえた髪につり上がった瞳が気の強さを感じさせる、そんな女子だ。


「あれ? えっと……高橋さん……だっけ?」

「あら? 浅村君?」

 そこにいたのは一昨日、チンピラに絡まれていた高橋結希奈だった。


「あれ? 結希奈じゃない? どうしたの?」

 徹は嬉しそうだ。女子を前にした徹のいつもの表情とも言える。

「だーかーら、馴れ馴れしく呼ばないでって言ってるでしょ!」


「俺たちになんの用? デートならいつでもオッケーさ!」

「んなワケないでしょ。あたし、生徒会室に用があるんだけど、そこどいてくれない?」


「……?」

 背後を振り返る。そこには生徒会室の扉があった。今まで生徒会室の前で〈竜王部〉について協議していたのをすっかり忘れていた。


「あっ、どうぞどう――」

「高橋さんは何しに来たの?」

 徹が言われるままにそこをどこうとしたのを遮るように慎一郎が聞いた。


「え……? 部活申請書を出そうと思って……」

 慎一郎と徹は思わず顔を見合わせた。


「ちょ、ちょっとこっち来て!」

「えっ……きゃあ!」

 そのまま結希奈を階段近くまで引っ張ってくる。


「な、何するの!? あたし、これを出さなきゃ行けないんだけど……!」

「高橋さん!」

 有無を言わさず慎一郎が結希奈に言う。

「は、はい!」


「高橋さんが作ろうとしている部って、どういうの?」

「え……? どうしてそんなこと教えなきゃいけないのよ……」

「いいから教えて!」


「ひっ……! わ、わかったわよ。言えばいいんでしょ?言えば」

 どうやらこの女子生徒、押しに弱いようである。


「とある作業を校内でするのに、部活動申請してくれって言われたから、それで申請するのよ。別にたいしたことじゃないわ」


「とある作業って、高橋さん一人で?」

「ええ、そうよ」


「つまりそれって、今から作る部は高橋さん一人の部って事?」

「おい、慎一郎。一体何を……」

「悪い、徹。少し黙ってて」

『むふー。怒られたのぉ』

「メリュジーヌも静かにしててくれ」

「お前もな、ジーヌ」

『むぅぅ……』


「で、どうなの? 部員は高橋さんだけ?」

「そうよ。何か問題でも? 校則では――」

「そうじゃなくって、実はおれ達も部活を作ろうと思ってたんだけど、どう? 一緒に作らない?」


「おい、徹!」

『ほほう! これは予想外の展開じゃ。まさかシンイチロウが女子をナンパするとは!』


 話に首を突っ込んでくるメリュジーヌと徹を睨みつけて、再び黙らせる。

「ひっ……!」

『おぉ、怖い。触らぬ何とかじゃ』


「いや、あたしは別に……。校内で活動ができれば何だっていいんだけど……」

「なら、一緒にやろうよ!」


「おい、慎一郎! どういうことだよ! さっき適当に部員を増やすのはまずいって……」

「適当じゃないさ。高橋さんはおれ達の〈竜王部〉に適任の人なんだ。今話を聞いて確信したよ」

『ほう……。話を聞こうか』


「まず、高橋さんは今まさに新しい部を作ろうとしていたこと。新しい部を作ればそれは部室をゲットする上でライバルだけど、同じ部に入れればそれだけ部室ゲットの確率が高まる」

『単純計算でも1.5倍になるな』


「次に、高橋さんには部活動の他にすべきことがある。これはおれ達と一緒だ。つまり、本目的そっちのけで活動していても何の問題もない」


「なるほど……。確かに一理ある。ここで張ってて新しい部を作りに来る奴を片っ端から勧誘すれば、それだけ部員も増えるって事になるな!」

『それは良いアイデアじゃ!』

「いや、さすがにそれはやりすぎだと思うけど……」


 その会話の中に結希奈が入ってきた。

「で? 内緒話は終わった? ま、ほとんど全部聞こえてたけど」


「ははは……で、どうかな? おれ達の〈竜王部〉、入ってくれないかな?」

「あたしは校内で活動する大義名分が欲しいだけで、部の名前にはこだわらないし、部室があってもなくても、どっちでもいいんだけど……どうしよっかなぁ……」


「お願い、この通り!」

 と、慎一郎が頭を下げる。

「頼む! 今度デートしてやるから!」

 これは徹。

『わしの学友になれるのじゃ。ありがたく思え』

 メリュジーヌの声は結希奈には届いていなかった。


「……ま、いいわよ。浅村君にはあのとき助けて貰った借りもあるしね。あ、あとデートはお断り」

「……! やったぁ!」

「ちぇーっ、なんでだよ」

 慎一郎は喜び、徹はがっかりした。




「それじゃ、ここに名前を書いて……。ありがとう」

「どういたしまして」

 そう言ってにこりと微笑む結希奈。今まできつい印象があったが、こうしてみると意外に女の子らしい柔らかい笑顔を見せる。


「それじゃ、これから申請書出してくるよ」

「よろしくね。あ、これからの連絡だけど、〈念話番号〉、交換しておこうか」


 結希奈の提案にいち早く答えたのは慎一郎だ。

「オッケーっ! 俺の〈念話番号〉は女子専用だぜー!」

「あ、栗山くんのはお断りで」


「ふっ、照れてるんだね、かわいい子猫ちゃん」

「あたし、入部するのやめようかなー」

「ごめんなさいごめんなさい。もうしませんから!」

 そんなやりとりを挟みつつも二人は結希奈と〈念話番号〉を交換した。


「改めてよろしく。おれは浅村慎一郎。一応、この部の部長って事になってる」

「俺は栗山徹! これから仲良くしようぜ!」

「あたしは高橋結希奈。……ってもう知ってるかもだけど。よろしく。えーっと……浅村に、栗山!」


『わしは竜王メリュジーヌじゃ、よろしくな!』

「わっ、どうしたの、お嬢ちゃん。ここは高校だよ。迷子になったのかな? お母さんはどこ?」

『むきーっ! わしを子供扱いするな! わしこそが竜の王、メリュジーヌじゃ!』




「廊下ではお静かに!」


 ……などと生徒会室の近くで騒いでいたら、生徒会室から出てきたイブリースに怒られてしまった。


「すみません……」

 素直に頭を下げる慎一郎。


「それで? もうすぐ下校時間ですけど、申請はどうしますか?」

「はいはいー、すぐ出します! おい、慎一郎!」

「ああ、わかった!」


 こうして、〈竜王部〉は晴れて生徒三人と竜王一柱で活動を開始したのである。

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