File28:いざ戦場へ
ローラ達が合流した日の翌日。夜になってからルーファス邸のインターホンが鳴った。応対に出たシグリッドがしばらくしてから、皆が集まっている応接間に戻って来た。因みに今夜は屋敷の主であるルーファス自身の姿もあった。ゾーイも勿論彼の事は知っていて、本人と間近で会えた事に大分緊張していたのは余談だ。
「……失礼致します。ブリジット・ラングトンという女性が来ています。例の……【
「ブリジットですって? あの映画女優の? 本人で間違いないの?」
何故かその名前にミラーカが一早く反応して確認する。シグリッドは首肯した。
「はい。以前ルーファス様の主催するパーティに来た事がありますので間違いありません」
「…………」
ミラーカが眉根を寄せる。ローラは彼女の様子に怪訝な目を向ける。
「ミラーカ? ブリジット・ラングトンって……確か、あの『シューティングスター』に狙われて生還した女優よね?」
「ええ、そうよ。そう言えばすっかり忘れていたけど、一つだけ皆に話していない事があったの」
ミラーカはそう前置きして、モンロビア・キャニオン・パークで戦闘開始前にブリジットと遭遇していた事を伝えた。
「……奴等が罠を張っていた場所に? 今奴等の使いで来た事も併せて考えると、偶然とは思えんな……」
ミラーカの話を聞いたセネムが難しい顔で腕組みする。
「敵の一味かも知れないって事? 女性を文字通り食い物にするあの魔物達に協力するような女性がいるかしら? 洗脳されてるような様子は無かったのよね?」
「ええ、少なくとも私の目には正常に見えたわ」
ローラの問いに頷くミラーカ。
「きっとそいつらの正体を知っちゃって脅されるか何かしたんじゃない?」
というゾーイの意見だが、やはり考えられるのはそんな所か。
「まあここであれこれ考えたって仕方ないだろ。あいつらの使いで来てるっていうんだし、とりあえず会って話を聞いてみようぜ」
ジェシカが手を叩いて提案する。確かにその通りだ。それに今の状況を考えると、どの道会わない訳にはいかない。屋敷の主であるルーファスが頷いた。
「まあ、俺も彼女とは面識があるから大丈夫さ。よし、じゃあ入ってもらうけどいいね?」
ルーファスの確認に皆が頷く。それを受けて彼がシグリッドに合図する。彼女は一礼してから再び玄関ホールへ向かった。
そして程なくして、1人の女性を伴って応接間に戻って来た。ローラも何度かTVや雑誌で見た事がある、それは間違いなくハリウッド女優のブリジット・ラングトン本人であった。
「……あの公園からよく逃げられたわね。殺されかけておきながら、またあの連中に関わっているなんて随分物好きなのね?」
ミラーカが視線を鋭くしてやや冷たい声で切り出す。するとブリジットはビクッと震える。
「ご、ご、ごめんなさい! あの時はああするしかなかったの! じ、実は……あの『シューティングスター』に襲われた時、ニックとあの仲間達に助けられたのよ。そこであいつらの正体を知ってしまって……。誰かに喋ったら殺すって言われて、仮に言った所で誰も信じるはずがないし、それからはずっとあいつらの奴隷だったのよ!」
涙声で境遇を訴えるブリジット。どうやら概ねゾーイの推測が当たっていたようだ。それに状況的にも不自然さはない。確かにニックがどうやって『シューティングスター』からブリジットを守ったのか疑問だったのだ。
ニックは「時間切れ」まで粘ったと言っていたが、あの『シューティングスター』はただの人間が逃げ続けられる程甘い相手ではない。実際にはニック以下【悪徳郷】の面々が関与していたのだ。
「まあ彼女には選択の余地がなかったようだし、ここで彼女を責めても始まるまい。それより今はもっと重要な話があるはずだな?」
ルーファスがミラーカ達を取り成してブリジットに向き直る。
「久しぶりだね、ブリジット。ゲストで出てた『ライジング・デッド』で、新シーズンのレギュラー入りが決まったそうじゃないか。撮影の方は順調かい?」
「え、ええ、ルーファスさん。お久しぶりです。そっちはまあ何とかという感じです」
大スターのルーファスの対してはややへりくだった態度のブリジット。同じ業界の超大物相手では致し方ない事だろうが。
「お互いこういう状況で会うとは思っていなかったが、君が件の怪物達と関りがあるように、俺も彼女達の……まあ一種の
ルーファスはそう前置きした上で本題に入る。
「それで……君が彼等の言う所の『招待状』という事でいいのかな?」
「え、ええ、そうです。マイクロバスを借り切ってここに来ています。ニック達の『招待』に応じる意思のある者はそのバスに乗るようにとの事です。因みに、もし日の出までに誰も来なければ、預かっている
「……っ」
客人、ディナーという単語にローラやジェシカ達が反応する。間違いなくヴェロニカやマリコ達、それに場合によってはクレアやナターシャの事も示唆している。ディナーとは文字通りの意味だろう。
解ってはいた事だが、やはり自分達に選択の余地はないらしい。ルーファスがローラ達を振り返った。
「と、いう訳だ。どうする? 本当に『招待』に応じるのか?」
「……勿論行くわ。ヴェロニカ達の事を考えたら他に選択肢はないわ。最初から覚悟は出来てる」
決意を込めたローラの言葉に仲間達も頷く。恐らく魔物との実戦は初めてだろうゾーイだけはややおっかなびっくりという感じではあったが。
「……そうか。もう何度も繰り返した問答だから、今更止めはしない。俺にできる事はシグリッドを応援に付ける事くらいだ」
「それだけで充分よ。ありがとう、ルーファス」
ローラは本心から礼を言う。因みに警察等には勿論報せない。まず信じてもらえないし、仮に信じたとしても無駄な犠牲が増えるだけになるからだ。
ローラは改めて仲間達を見渡した。やはり既に何度も同様のやり取りはしているが、今一度これだけは確認しておかねばならない。
「……皆、私はこれからクレア達を助ける為に、そしてジョンやニック達を倒してこの街を邪悪な魔物の脅威から解放する為に『招待』に応じるわ。でもミラーカが話してくれた通り敵は手強い。何が起きるか分からないし、厳しい戦いになる事だけは間違いない。正直命の保証は出来ない。それでも……私と共に戦ってくれる?」
真っ先に進み出たのはミラーカだ。
「勿論私は聞くまでもないわね? 奴等は私を狙っている。これは私の戦いでもあるの。何としても奴等を討伐してみせるわ」
他の面々も躊躇う事なく進み出てくる。
「アタシだってそうさ! エリオットの奴を倒してマリコを救い出すんだ! 勿論先輩や他の人達もな!」
「うむ、今更怖気づく者はおらん。皆、覚悟を決めている。邪悪な魔物共を討伐する為、私も全力を尽くそう」
「わ、私だって足手まといにはならないわよ? あのニックって人がメネスの〈従者〉の力を使っているなら放置する事は出来ないし」
「……ルーファス様の、そしてこの街の為です。皆様と共に戦わせて頂きます」
「み、皆、ありがとう……」
頼もしい仲間達の決意表明を聞いてローラは不覚にも涙ぐみそうになってしまう。しかし表情を引き締めてそれを堪えると、ブリジットの方に向き直った。
「……そういう訳で、私を含めてこの6人が『招待』に応じるわ」
「わ、解ったわ。じゃあ私は表に停めてあるバスで待っているから、準備が出来次第来て頂戴」
ブリジットは固い信頼で結ばれた様子のローラ達に何故か目を細めた後、それを誤魔化すように顔を逸らしてしまう。そしてそのまま踵を返すと部屋を出て玄関の方に歩き去っていった。
「とにかく皆無事で戻ってきてくれ。俺から言えるのはそれだけだ」
準備を整えた一行はルーファスに見送られながら、ブリジットが待っているバスに乗り込んでいく。
「……来たわね。それじゃ出発するわよ」
全員が乗り込んだ事を確認したブリジットが運転手役の〈信徒〉に合図する。〈信徒〉は頷いて静かにマイクロバスを発車させた。
そしてローラ達は決戦へと赴く。果たして夜が明ける時生き残っているのはだれか。夜空に輝く月だけがその生存競争の行く末を静かに見守っていた……
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