虚影 part.3

「応答って……ええ……?」


訳が分からず思わず口に出して呟く。

頭の中の声は、そこでガガ……とノイズのような音を発した後、淡々と続けた。


<応答を確認。システム起動までの残エネルギー三十二パーセント。緊急拘束規定により、パターン二十から四十五を省略。当システムは当該受信者をオペレーターと認定し、システムの起動を開始します>


ブゥゥゥン……と、そこで劇場の壁全体が揺れた。

まるで高周波でも走ったかのように、周囲の空気が震える。


「これは……」


グスタフがその空気の振動を感じて、競りに上げていた手を止める。

そして青くなる。


「何だ……あの鉄鋼兵装、まだ生きてるのか! 起動してるぞ!」


彼がそう言った途端、舞台上の青い玉の表面がさざなみがたったかのように揺らめいた。

そして玉の中から、凄まじい勢いでコードや歯車などの機械類が噴出し始めた。

それらが編み上がるように何かの形を形成し始める。


「ウソだろ……!」


グスタフはそう言って、騒然とし始めた客席を蹴立てて立ち上がった。

そしてシュルディアの手を掴み、アルズの方を見る。


「逃げるぞ! あの兵器はまだ電源が入ってる!」

「兵器……?」


呆然としたシュルディアの目に、客席の人々が同様にバラバラと逃げ出して行くのが見える。

舞台の上では、絡み合った機械類が全長六メートル程の、片膝をついた姿勢の人型を形成していくのが分かる。

ロボット。

それも、巨大な。


〈当該オペレーターに搭乗を要請します〉


また耳元で女性の声がして、シュルディアは慌てて周りを見回した。


「グスタフさん! 頭の中で声がする……!」


訴えると、グスタフは混乱の最中にある劇場と、舞台で銀色の装甲を光らせて形成を完了させた機械兵器を見た。


「まさか……お前、『受信』したのか?」

「さっきから女の人が頭の中で、応答しろって……」

「そんな……だが、これは好機かもしれん」


グスタフは少し考え込み、出入り口に殺到する人波からシュルディア達を庇うように守りながら続けた。


「シュルディア、あの鉄鋼兵装はお前に反応したんだ。脳波の波長が合致したんだろう。応答して、動かすことはできるか?」

「う、動かす……? 私が?」


素っ頓狂な声を上げた彼女に、真面目な顔でグスタフは頷いた。

舞台上もパニックになっていて、片膝をついて前傾姿勢になっているロボットを前に、警備員達が右往左往している。


「動かすってどうやれば……」

「鉄鋼兵装はオペレーターの脳波を感知して動く。まずは強く念じて立たせてみろ」


グスタフが言う。

シュルディアは言われたとおりに目を閉じ、頭の中に言葉を思い浮かべた。


(た……立ち上がれますか?)

<肯定。駆動系出力七十五パーセントダウン状態です。冷却ジェネレーターのエアガス入れ替え。油圧正常。駆動を開始します>


女性の声が応え、舞台上の鉄鋼兵装が両手を動かして体をゆっくりと起こした。

頭にあたる部分に二つの緑色のカメラアイがついている。

マネキン人形のような……言うなれば、前に遭遇した防衛機構を巨大化させたようなシルエットをしていた。

違ったのは、後頭部に髪の毛のようにコード類がついて、床に引きずるくらい伸びていたことだった。

頭で劇場の天井を削りながら鉄鋼兵装が立ち上がる。

その重量で舞台の床に亀裂が走った。


(あのロボット……私を見てる……)

<肯定。あなたの脳波周波数と、私の起動チャンネルが一致しました。当機は、以降あなたをオペレーターとして再登録、稼働をします>

「たまげたな……まさかシュルディアにオペレーターの素質があるとは……」


グスタフはそう言って、ニヤリと小さく笑った。


「よし、このままアレをいただく。シュルディア、動かして俺達を運ばせてくれ」

「え……ええ……?」


戸惑いながら、シュルディアは頭の裏に言葉を念じた。


(あの……)

<GGHT8号機。コードネーム「サラバトーレ」とお呼びください>

(サラバトーレさん? 私達をここから安全な場所に連れ出すことは出来ますか?)

〈承知しました〉

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