虚影 part.2

程なくして店を出て、ルサーニャに教えられた道を歩く。

あからさまに治安が悪そうな、薄汚い臭いが充満している劇場のような場所があった。

しかし高級車と思われるもので乗り付けている者も散見している。

入っていく客達は、一様に恰幅が良い裕福層だと分かる人間達だった。


「着いたが……」


グスタフは呟いて、劇場から少し離れた場所で足を止めた。

そしてアルズとシュルディアを見る。


「お前ら、飛空艇に戻れ。道は分かるな?」


言われてシュルディアは不満そうにグスタフを見上げた。


「飛空艇を買うんでしょう? 気になります。私も行きたいです」

「そうは言ってもな……」


ボリボリとスキンヘッドの頭を掻いて、グスタフは困ったように続けた。


「あまり子供に見せていいような場所でもない」

「私はもう大人です。大丈夫です!」


根拠のない自信を受けて、グスタフは息をついた。

シュルディアは傍らのアルズを見上げて、同意を求めた。


「ね、そうだよね?」

「……グスタフ、俺もいる。安全、大丈夫」


折れた形になったアルズが助け舟を出す。

グスタフは息をついてからポケットに入っていたタブレットを取り出した。


「仕方ない奴らだな。待ってろ。今お前らの入場券も買うから」

「やった!」


シュルディアが喜んだ表情でアルズの手を握る。

手を握られた少年は、僅かにハッとしたような顔になりそれを見ていた。


「カネ足りるかな……」


グスタフの呟きを聞いて、シュルディアは伺うように言った。


「あの……私、涙が出た時に出てきた宝石、貯めてるんです」

「何?」


グスタフはそれを聞いて、タブレットを操作する手を止めて少女を見下ろした。


「お前な……」

「持ってきてます。もし良かったら……」

「ダメだ」


グスタフはそう言って、慌ててシュルディアに覆いかぶさるようにしてしゃがみこんだ。


「お前のフリーク能力で生成した宝石は、カネとして使うな。約束しただろう?」

「でも……私達のことで、サビさんもグスタフさんも、お金をかなり使ってるみたいだから……」


グスタフの剣幕を見て、怯えたように少女が言う。

大男はため息をついてシュルディアのカバンを受け取った。


「この中に入ってるんだな?」


確認して、蓋を開けて中身を見る。

ビニール袋に詰め込まれたダイヤやらルビーやら、様々な宝石類が底の方に押し込まれていた。


「帰るまでこのカバンは預かる」

「ご、ごめんなさい……」

「子供はカネの心配はしなくていい。シュルディア。お前の宝石は、確かに宝石だが……」


そこまで言って、グスタフは思い直して言葉を止めた。

そしてシュルディアのカバンを肩にかけて歩き出す。


「……まぁ何とかなるさ。入るぞ」

「は……はい!」


頷いてシュルディアとアルズがグスタフの後を追う。

グスタフは入場システムと思われる端末にカードを差し込んで操作し、チケットを三枚取り出した。

そして


「失くすなよ」


と言って二人に渡す。

彼らは、暗い劇場の中に足を踏み入れた。



いわゆる、競りが行われていた。

劇場型になっているホールは、舞台のところに滑車に載せられた様々な品物が流れてくる。

客の中には、マスクをつけている者も多かった。

素性がバレると困る類なのだろう。

そうでなくても薄暗く、周りが確認しづらい状況にあった。

アルズに抱えられるようにグスタフの後を追い、劇場の出入り口近くの椅子に腰を下ろす。

そこでシュルディアは舞台を見て息を呑んだ。

首と腕、足に鎖をつけられた人間が数人立たされていたのだ。


『フリーク検体の女性三名! 衰弱していますが腐敗はしていません! まずは五十デジルから!』


マイク越しに舞台上の男が声を張り上げると、劇場の席に座っている客達が、次々に光る棒のようなものを頭の上に上げていった。


『八十……百二十の値段、倍、二百四十です! 二百四十八、三百がつきました!』

「な……何を……しているの……?」


唖然としてシュルデイアが呟く。

アルズはそれを聞いて、何でもないことのように答えた。


「人身売買。人の、オークション」

「ここは人攫いの温床だって言っただろう。ああいう風に、どこからか連れてこられた人間を買う人間が、ここには大勢いるんだ」

「買うって……同じ人間でしょう?」


シュルディアが詰め寄ると、グスタフは困ったように顔をしかめた。


「俺に言うな。ここはそういう街なんだよ」

「あの人達、助けなきゃ……」

「悪いがそんな余裕はない。それに、これ以上搭乗員を増やす予定もない」


グスタフは淡々と言ってタブレットを操作した。

商品情報が載っているらしく、周りの人間達もタブレットを見ている。

シュルディアは着ていたマントを手で掴んで俯いた。

結局、先程のフリーク三人は四百五十二の値段で落札された。

彼女達が舞台裏に消えていき、しばらく同じような競りが続く。

そしてしばらくして、人間ではなく立体映像の飛空艇が、舞台のスクリーンに映し出された。


『墜落したバンジバルの軍用艦を改修した品です! 動作は概ね良好、動力はアーキカーボナイト! 三連の受動エンジンを搭載しています!』

「来たか……」


グスタフは手に光る棒を準備しながら言った。


「あれをいただく」

『そしてこちらの品には、付属品がございます!』


壇上の男が指示すると、滑車に載せられた箱の上に、粗雑に置かれた丸い玉のようなものが運ばれてきた。

それを見た観客達にざわめきが広がる。


『艦の中から取り出された、鉄鋼兵装のコアです! 今は動作を停止していますが、コレクターの間では垂涎の逸品! 保存状態も良好です!』


一抱えほどの青白い玉だった。

そこから何本もコードが伸びて垂れ下がっている。


『八百三十五万からいきましょう!』


グスタフが光る棒を何本か上げる。


『九百万がつきました!』


ざわつきが広がったが、また別の所から光が上がる。


『九百五十! 千二百! 千二百八十!』


どんどん値段が上がっていく。

グスタフは舌打ちをして焦った様子で何度も棒を上げていた。

その時だった。

シュルディアの後頭部に、抉り込むような鋭い頭痛が走った。


「ん……!」


小さく呻いて体を丸める。

考える間もなく、耳元で「声」が聞こえた。


<適正個体を発見。全ての設定をニュートラルへ。認証条件クリア。緊急起動マニュアルに従い、当音声を受信したオペレーターに、全システム条件のクリアパーンデーショニックを要請します>

「え……?」


思わず声を上げて周りを見る。

女性の声だった。

しかし両隣にいるのはグスタフとアルズだ。

アルズは様子がおかしいシュルディアを見て、体を屈めて口を開いた。


「どうした?」

「アルズ君、何か言った?」

「何か?」


怪訝そうに首を傾げたアルズを見る。

そこでまた耳元で女性の声がした。


<当該電波を受信したオペレーター適正者に要請。応答をお願いします>

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