咆哮 part.4

その謎の人影は、長い腕を上げてまた、チャイムのスイッチを押した。

そして、インターホンの向こうから、どこかノイズがかった、ハスキーな男性の声が流れ出す。


『……こんばンは……カルテノン警備隊の者デス』

「…………」

『警告シマす。六十秒以内にドアを開けテください。開けてモらエない場合、武力に依る制圧に移行シマす』


シュルディアが青くなって後退りする。

声の機械質な調子が、更に恐怖感を煽る。

サビは、しかし表情を変えずに右手を上げ、シェルターのドアに向けた。

そして腰を落として足を踏み固める。


『……気温は三十二度。今日ハ砂嵐の警報が出てイマす。火山活動がBエリアで活発化。避難勧告が……ザザ……』

「…………」

『熱感反応ヲ感知。数3。エグゼキューションアラートに従い、全ての生体反応を消去シマす。警戒レベルを引き上げマシた。停止要請は回線三十六G4からグ……ブブ……ザザ……』


ノイズ混じりの声が急に途絶えた。

次の瞬間、ドガァン! と、爆薬を炸裂させたかのような音と衝撃がシェルターを包んだ。

シュルディアとジンがビクッとして息を呑む。

もう一度、鼓膜を震わせる重低音が鳴り響き、シェルターのドアがグラグラと揺れた。

接続部が擦れているのか、奇妙な音を立てて火花が散っている。

モニターの向こう側で、銀色のマネキンのようなものが、再度腕を振り上げ、無造作に拳をドアに叩きつけた。

ドアが細かく振動し、何かが砕ける音が断続的にし始めた。


「破られる! バカ野郎、逃げるぞ!」


ジンが怒鳴る。

そこで、ドアの向こうから、金属板を擦り合わせたような高音の「何か」が鳴り響いた。

生物の威嚇。

それは叫び。

「咆哮」だ、とシュルディアは本能的な部分で察して震え上がり、硬直した。

さながら肉食獣が敵対生物と相対した時に放つそれに酷似しており。

何より。

凄まじい重量の怒り、憎しみ。

そして呪いを孕んだ絶叫だった。

幼い少女が動けなくなってもおかしくはなかった。

腰を抜かしてその場に転がるように倒れ込み、シュルディアが唖然とする。

ジンも動けなくなったらしかった。

彼は倒れ込みはしなかったが、ソファーの影に体を隠すので精一杯なようだった。

その体が、年甲斐もなくブルブルと震えている。

サビは一瞬だけ眉をひそめると、また重低音と共に揺れたドアの脇、そのインターホンに向けて声を張り上げた。


「威嚇行動をやめろ! こちらに敵対意思はない!」


絶叫が止まり、数秒間沈黙があたりを包んだ。

しかし、扉の向こうの何かは動きを止めたわけではなかったらしく、今度は押しているのか、ドアがガクガクと振動をはじめた。

そして接続部が砕け、厚さ十数センチもある鉄製のそれが、ひしゃげてウェハースのように握りつぶされる。

サビは殆ど反射的にといった動作で、冷静に右手を握った。

彼の腕がザワザワと微振動し、皮膚からせり上がるように、無数の錆びたネジが出現する。

それはたちまちのうちに数百、数千も渦を巻いて放出されると、まるで蜂の群れを連想とさせる動きで空中を吹き飛び、鉄製のドアを握って千切り取った「何か」に殺到した。

ソレは、襲いかかるネジの嵐に赤く光る瞳を向け、口を裂けそうな程に大きく開いた。

見た感じはマネキン人形だった。

つるつるの銀光りする、金属製のマネキンだ。

人間の顔面皮膚のようなものが顔の部分についていて、所々破れて中の機械がむき出しになっている。

丸い球体の眼球が発光している。

腕と足が妙に長かった。

その異常な化け物の姿を見て、シュルディアは「ヒッ……」と声を上げた。

生物に恐怖感を与える、無機質な外見をしていた。

銀色のマネキン人形が大きく開いた口。

その喉奥から、拳銃の銃口が競り上がった。

そして間髪をいれずに、火花を撒き散らしながら連続で銃弾を発射し始める。

機関銃の一斉掃射のような猛攻に、サビから発せられたネジの群れが相殺されて砕け散る。

それでも足りずに銃撃を続ける相手を見て、サビは舌打ちをして後ろに跳んだ。

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