攻めずに落ちる城はない

「すみません麻里さん、突然お誘いしまして」

「圭斗さんがお酒と角煮を用意してくれるってことは……何かあるんでしょ?」

「さすが麻里さん、察しがいい。それはそうと、乾杯しましょうか」

「マーさん、ご飯ある?」

「あるある」


 さて、やってきました村井おじちゃん宅。僕は角煮の鍋と簡単なお酒を携えて。これから始まるのは緊急会議ですよね。ちなみに家主の村井おじちゃんは何でもない飲みだと思ってますよね現段階では。

 僕が麻里さんと話し合いたいのは他でもない、菜月さんのこと。バイト中に仕入れた情報によれば、それらしい女の子がタンデムで朝帰りしてきたとのこと。いや、何かもう気になってバイトだのサークルどころじゃなかったですよ。


「――で、圭斗さんは何をアタシに確認しようとしてるの?」

「麻里さんが契約している隣のマンションの駐車場に火曜朝、白いビッグスクーターに乗った男女が朝帰りしてきたと」

「あ、知ってたんだ」

「とある筋からの情報です。ゴミ捨てをしにきたお姉さんがその男女に挨拶をしているようだったとも聞きましたので」

「そういうのをどこから仕入れて来るのかな、圭斗さん。まさか本人が、よりによって圭斗さんには喋らなさそうなのに」

「おいおい、俺を置いてけぼりにするんじゃないよお前ら」

「村井サンは角煮でも食べててください。僕は今、麻里さんと大事な話をしてるので」

「いや、ここは俺ン家だぞ!」

「だから角煮食ってろっつってんだろ!」

「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」

「圭斗マーさんうるさい」


 すみませんでした、と男2人の声が揃う。まあ、村井サンの部屋だけ借りてるのに置いてけぼりにするのは確かに扱いが雑ではあるけれども、村井おじちゃんだったら聞いてるうちに全てを察すると思うので最初から説明するのは省くことに。

 僕が掴んでいるのが例の件であると麻里さんにも伝わったところで、お麻里様は日本酒を一口、ちびりと。しかしながら稀に見る、困ったような表情だ。それをつつけば、どうやら彼女たちと約束をしていたらしい。


「正直に話せば圭斗さんとマーさんと共有することはしないって約束したからさあ」

「でも僕にはもう伝わってるので正直その約束にほぼほぼ意味はなくなりましたよね」

「まあね」


 ……となると、角煮で黙々と白いご飯を食べている村井おじちゃんになる。


「なんだよお前ら。お前らにジッと見られるとか怖すぎんよ。あと、麻里の契約してる駐車場っつか菜月ン家に白のビッグスクーターの時点で大体察したからな?」

「さぁっすがマーさん話が早い!」

「さすが、下世話な話になると嗅覚が鋭い!」

「誰にも喋んないから続けてどうぞ。俺は飯食ってるから」


 さて、気を取り直して本題に入ることに。村井おじちゃんは漫画のような山盛りのごはんを黙々と食べている。僕の角煮はご飯が進むから山盛りにするくらいでちょうどいいね。なんてったって昨日から準備してたんだから。


「こほん。何か、相当いい雰囲気だったとか」

「いい雰囲気だねー、初夜を越えたような恥じらいがあって」

「ブホォッ」

「マーさん汚い!」

「村井サン、自分で片付けてくださいね」

「げほっげほっ、マジ噎せた。ナニ、アイツらそんな段階行った?」

「付き合ってはないよ。でもカウントダウンが始まったくらいの感じ」

「はえ~、そうかいそうかい。続けて」


 村井サンが噴き出してしまったご飯を片付けながら、僕も麻里さんから詳しい話を聞いて行く。如何せん星羅の話では断片的だったから。噎せたご飯が入ってはいけないところに行ってしまったのか、時折村井サンの咳も混ざる。


「普通にシャワーとかお風呂も使うし、髪の乾かし合いっことかするんだってー、可愛いよねー。ちなみに菜月さん彼シャツがデフォ」

「他には」

「対面座位でいちゃいちゃしたり」

「ほう」

「菜月が高崎の部屋でお泊りするときは大体一緒にベッドで寝るでしょ?」

「へ、へー……」

「高崎が腕枕してくれるんだってねー。それでこう、抱き合いながら鼻を擦り合って」

「えーと……所謂エスキモーキスでよろしいですか?」

「あっ、それそれ! 聞いた時何だっけなーって名前が思い出せなくってさ! はーすっきりした。さすが圭斗さん」

「何だアイツら! それでよく付き合ってないとか言えたな!? つかヤるだろそんだけ条件揃えば! アイツEDか!?」

「圭斗よく言った」

「さすが圭斗さん」


 と言うか、お麻里様のよく言う「高崎(と野坂)が手を出さないから菜月さんが危機感を持たない」説を僕は今よぉ~……く! 理解したところだよ。唇にキスをしないだけで、やってることが十分に恋人たちのそれじゃないか。


「村井サン、ご飯ください」

「おっ圭斗、食うのか」

「何か、そんな話を聞かされると食わないとやってられませんよね。くっつくならさっさとくっつけ! ったく、どっちも受け身だと進まなくて面白くないね!」


 うん、さすが僕だ。角煮が美味しい。そして僕はおじちゃんではないのでご飯を勢いよく食べても噎せはしない。


「……麻里、何で圭斗はここまでキレてんだ? 野坂派だからみたいなことか?」

「ううん、圭斗さんがガツガツ攻める派だから、受け身の人間が理解出来ないの」

「ああ、なるほど。価値観の違いね」

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