恋が絡むなら仕方ない

「さとちゃん、ちょっといいかな」

「はい、紗希先輩どうかしましたか?」

「学祭の次の週、大体の大学さんの学祭があるでしょ?」

「そうですね。ウチと青敬さん以外ですね」

「向島さんにお礼と差し入れを兼ねて何か渡したいんだけど、良かったらさとちゃんにクッキーを焼いて欲しいなと思って」

「そんなことだったらいくらでも焼きますよ」


 ウチの学祭の準備は滞りなく進んでいた。ステージの内容も道具類も順調。それから喫茶の方もこれ以上ないほど順調な進み具合。さとちゃんの衣装も完璧。だから徹夜をする必要もなかったし、無理のない感じで活動出来ていて。

 だけど、それはそ向島の2年生の子たちがこっちの作業を手伝ってくれたからというのもある。自分達の大学でも学祭の準備はあるだろうに、こっちを優先してくれてたような感じで。

 植物園のときもそうだったし、あんまり毎回向島さんの手を借りすぎるのも、と思ってはいた。Kちゃんは使える手はどんな手でも使って計画通りに物事を進めるのに重きを置いている。それを悪いとは言わないけど、思うところはある。

 3人借りることで向島さんの準備が止まってしまっては本末転倒だし、こないだあの子たちが来てくれた時に聞こえたことによれば、向島さんの準備は菜月ちゃんが孤軍奮闘していて怒りが限界に来ていると。ウチの責任もあるから、向島さんにはせめてものお詫びとお礼をしなくちゃいけない。


「定例会でヒビキが聞いた感じだと、菜月ちゃんが本当に怒ってるみたくて。ウチに対してとかじゃなくてあくまで向島の子たちに対して怒ってたみたいだったけど、それってウチの所為だから」

「そうですよね」

「菜月ちゃんに直接謝っても性格上青女の所為じゃないって言いそうだけど、せめてね」

「紗希先輩の考えには同意します。直クンも向島さんに手伝ってもらってばかりで自分たちは何もしてあげられていないって心苦しそうでしたし」

「そう、それなんだよね。向島さんにはもらってばっかりでウチからお返しも何もしてないのも問題なの」

「3人はウチの学祭当日にも来てくれるって言ってたんで、せめて専用のケーキでも用意しておきますか?」

「そうしよう。1日限定数に入れないケーキ。さとちゃん、重ね重ねごめんね」


 結果、さとちゃんにも甘えっぱなしになっちゃってるんだけど。ホント、どうしよう。この問題ってそうそう簡単に解決出来ないと思うんだよね。ただ、アタシ個人としては、青女と向島さんのギブ&テイク量をイーブンに戻したい。

 ……となると、Kちゃんに進捗に対する考え方をちょっとでも軟化させてもらうのが根本的な解決法になるのかなと思う。向島さんとの窓口は大体Kちゃんが担ってるような感じだから。来年のことも考えると、ね。


「ここだけの話なんですけど、ヒロくんがKちゃんのことを好きみたくて、それで毎回お手伝いをしてくれてるそうなんです」

「あっ、そうなの!?」

「そんなことは微塵も見向きもしないでKちゃんは手伝ってくれるなら使おうっていう考えなので……」

「あー……なるほど。良くも悪くも管理職なんだね。じゃあ、その恋愛事情に動きがない限りそうそう今の感じが変わることはないのかな?」

「――じゃないかなってあたしと直クンは思ってて」

「恋が絡むなら仕方ないね」

「恋が絡むなら仕方ないです。だけど、同じ事情で野坂くんには向島さんの準備をさせてあげたいです」

「だよねえ。恋が絡むだけに」

「好きな人に怒られっぱなしなのもしんどいと思いますよ」


 そうなると、Kちゃんのことよりも野坂くんの心配を始めちゃうよね。野坂くんの片想いはインターフェイスでもみんな知ってることだから。常識過ぎて今更言うことでもないって扱いだしみんな応援してるから表立って冷やかしたりしないけど。

 定例会でのヒビキ情報でも、菜月ちゃんは野坂くんに対してすごく怒ってるみたいだったし、本当に向島さんの準備に専念させてあげたい。それで、菜月ちゃんからの信頼を取り戻して欲しいなって。……高崎クン派のヒメちゃんには内緒で!


「さとちゃん、確か野坂くんて土曜日に昼放送の収録してるんだったっけ」

「――って言ってました、確か」

「仮に土曜日に来てくれたとしても、菜月ちゃんのところに行かせてあげないと」

「そうですね」

「それで、一応予備のケーキ1つ増やしてもらってもいい? テイクアウトの箱と保冷剤。あっ、フォークもつけなきゃ」

「菜月先輩用ですね」

「うん。重ね重ねごめんね」

「3つよりも4つの方が増やしやすいんで大丈夫ですよ」


 自分たちの準備じゃなくてこういう計画を立てることが出来るのも、準備が滞りなく進んでいるおかげ。せめてもの気持ちを乗せてご挨拶に行こう。恋が絡むから面白がってるとかでは決してなくて。

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