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「はあ……お腹が空いた」


 火曜日の昼は昼放送のオンエアだ。先の土曜日に収録した物を、学食で昼の12時20分から50分までの30分間流させてもらっている。俺は事務所の中で機材を見ていて、菜月先輩は事務所の外の通路でお昼ご飯をうまうまされるというのがいつもの光景。

 菜月先輩の今日のランチはサンドイッチだ。いつもは購買で買ったパンのことが多い。ウインナーロールがお好きでいらっしゃるのか、それとも火曜日のルーティンなのか。たまにおにぎりやサンドイッチを作って持参されることがあるのだけど、今日のサンドイッチは恐らく自作だろう。


「どうしたんだノサカ」

「はっ。大変申し訳ございません。そんなに俺は物欲しそうな顔をしてしまっていたでしょうか」

「物欲しそうかどうかは知らないけど、ボーっとしたような感じだったぞ」

「大変みっともない話なのですが、とてつもなくお腹が空いてしまいまして」

「まあ、昼だもんな。仕方ない。と言うか、お前いつもはお昼どうしてたんだ? 3限も授業あるんだったら食べる暇ないんじゃないか」


 昼放送のペアを決めるときに考慮されるのが昼食の時間でもあった。アナウンサーさんは今の菜月先輩のように通路で食べれば全然オッケーだけど、ミキサーはさすがにそういうワケにはいかない。有事に対応出来るよう、機材の側にいるのが基本。

 律やこーたは2限か3限のどっちかがなかったりして昼を食べる時間的余裕があるんだけど、如何せん理系の1・2年というのは履修もキツキツなので昼のことは自分で何とかしてくれと圭斗先輩からもお達しがありましたよね!


「火曜2限の授業というのがですね、授業の前半が講義で、後半が課題をやる時間になっていまして。その課題が割と簡単なのでサッとやって退出して、食べてから来ていました」

「今日の課題は難しかったのか? いや、ヘンクツに限ってそれはない」

「ええ、今日はヒロに捕まってしまいまして。今日はこれまでの課題がきちんと提出されているかのチェック日だったので」

「それまでの課題を手伝えとかナントカって言って来たのか」

「そのようなことです」


 そんなこんなでヒロに捕まっていると、気付けば授業は限りなく終わりに近付いていたじゃないか。これはいけないと猛ダッシュして昼放送のオンエアには間に合ったワケだけど、腹の虫が全然間に合わなかったワケで。3限も4限もあるのにこれでは死んでしまう。


「ノサカ、機材はいいからちょっと出て来い」

「しかし」

「いいから。よっぽどのことがなければ大丈夫だろ」


 言われるがままに通路に出て、菜月先輩の前に立つ。ちょっと待ってろ、とカバンをごそごそと漁っていらっしゃるけれど、一体何が出て来ると言うんだ。


「はい。雑なサンドイッチだけど、食べたらいい」

「えっ! そんな、菜月先輩のお昼ご飯をいただけません!」


 差し出されたのは、スライスチーズとハムのサンドイッチ。ラップにくるまれたそれを、とても素直には受け取れなかった。いや、お腹は空いている。だけど菜月先輩も3限には授業があって、そのための昼食であることはよくわかっているからだ。


「多めに持って来てたんだ、4つ。授業が終わってから装飾の作業をするつもりで、おやつか晩ご飯的な」

「それでしたら尚更受け取れません」

「おやつは授業が終わってからまた買いに行けばいいだけの話だ」

「……それでは、お言葉に甘えていただきます」

「ああ。食べる物を食べないと体は動かないからな」


 菜月先輩の手作りサンドイッチは、チーズとハムの味だ。それはもう余計なことは何もしていない、パンとチーズとハム、それからうっすらとマヨネーズの味がするくらいで。だけど、菜月先輩が作ったという事実だけでこうも幸せな気分が満ち溢れるものかと。

 そんなことより、菜月先輩は今日も授業の後から装飾の作業をされるということだ。日曜日にも作業をされていたようだし、圭斗先輩からのメールのこともある。確かにMMPの準備はほとんど手伝えていないし、菜月先輩にばかり負担がかかっているのは見るからに明らかで。


「あの、菜月先輩。何か、お力になれることはありませんか」

「突然どうしたんだ」

「いえ、今日も装飾の作業をされるのですよね」

「ああ。やれるときにやらないと終わらないからな」

「俺は絵心もなく装飾の仕事は正直苦手です。青女でも葉っぱを3枚塗ってへこたれました。ですが、何か出来ることはないかと。菜月先輩のお手伝いをしたく」

「……そうだな、そしたらオブジェを作るのを手伝ってもらおう。詳しいことは4限後に説明するから」

「ありがとうございます!」


 菜月先輩から装飾関係のお仕事も貰えたし、サンドイッチで空腹も満たせた。めちゃくちゃテンションが上がってますよね。今なら何だって出来そうな気がしてくるから不思議だ。とりあえず、作業中につまむおやつは俺が買っていくことにしよう。サンドイッチをいただいてしまったことだし。


「それでは俺は機材の前に戻ります」

「ああ、頼んだ」

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