安パイを選ぶ

「おはようございます雄介さん」

「スタッフでない者が何故センターにいる」


 林原さんのこれも、すでに挨拶代わりになっている。秋学期から、情報センターには新しいスタッフとして烏丸さんが加入した。そして、自称研修生として演劇部の看板女優さんである綾瀬香菜子さんがやってきたんだけど……。

 カナコさんがセンターにやってきたのは何か訳ありのようだった。話せば長くなるそうだけど、春山さんが組んだバンドの関係で知り合って、カナコさんが春山さんと林原さんに懐いてしまったとかそんな感じなんだって。

 春山さんはいいじゃねーかとカナコさんの研修生発言にも寛容だけど、林原さんが頑なに認めようとしないでいる。まあ、バイトリーダーの春山さんがカナコさんの味方だということで、気付いたらカナコさんも馴染みつつありましたよね。


「リン、いい加減受け入れてやれよ。こんなかわい子ちゃんがお前を慕ってんだぞ」

「露出性癖の上、罵られることに快感を覚える変態に慕われたくありませんが」

「ンだとてめえ! 私に謝れ!」

「何故アンタに謝らねばならん」


 カナコさんは演劇部の看板女優さんだけあって本当に美人で、受付席に座っているとどこのセンターだろうっていう錯覚を覚える。別に普段の受付が怖いとかそんなことはちっともありませんけど! でもカナコさんの受付は本当に華があるよねって。

 ……でも、林原さんの言ってることが本当だから人って見た目によらないと言うか、情報センターが本当に変わった人の集まる場所なんだなあって思いますよね。林原さんに懐いてるのもその口の悪さに快感が背筋を突き抜けたから、だそうですし。


「カナコの乳は今日も張りがあって揉みがいがあるというのに」

「もー、春山さんたらぁ」

「春山さんばっかりズルい! 俺もカナコちゃんのおっぱいを触りたいです!」

「いいかダイチー、冴だから乳を触るのが許されるんであって、他の女にやるともれなくムショ行きだ。間をとってリンの乳でも触るといい」

「わかりまし……いたぁい! ユースケ痛いー!」

「覚えておけ、烏丸。男だろうと女だろうと合意無く触ろうとすればこうなる」

「リンテメーこの野郎! ダイチが手首痛がってるじゃねーか!」

「フン。この程度で諦めるヤツではあるまい。それよりアンタは何を代替案としている」


 こうだもんなあ。今日もセンターは平和ですよね。冴さん(今はB番中)は安定の堂々たる着替えっぷりだし、春山さんの癒しになってる冴さんの胸を烏丸さんまで触り始めたんだもんなあ。烏丸さんてどこか変わった人だなあと思う。なんだろう、倫理観が欠けてるのかなあ。

 そして林原さんが実は武闘派だったということを知ったのも烏丸さんの加入後ですよね。烏丸さんは隙あらば林原さんの生殖細胞(!?)を狙ってるんだけど、それを振り払うのに容赦がない。こないだは足払いでひっくり返してた。今の、手首をひねる程度ではかわいいですよね。


「そんなに乳を触りたいなら春山さんのでも触っておけ」

「だってー、春山さんのはおっぱいって感じじゃないんだもん」

「そーそー私はまな板でなーって言わすな!」

「それならばオレを触ろうとする理由もなかろう」

「え、ユースケもとい雄個体、もといユースケの乳首の存在意義を研究するのは俺の使命だし」

「何度も言い直すことか」

「リン、お前1回ダイチの前ですっぽんぽんになってマグロってやれよ」

「マグロの前にまな板を用意するべきでしょう。アンタがまずはそのまな板を烏丸に提供してやればどうですか」

「ンだとリンテメーケツ出せやコラァ」


 俺は林原さんの助言に従ってこのテの話には出来るだけ巻き込まれないように振る舞ってるから平気なんだけど、一応カナコさんがいても関係ないみたいですね! でも不思議といやらしい感じには聞こえないのはノリの所為なのかなあ。それとも俺が麻痺してるのか。


「カナコさーん……こんなセンターですけど本当に自称研修生で行くんですかー?」

「私ね、林原さんに認められるまで頑張るって決めてきてるんだ」

「一番分厚い壁じゃないですか」

「一番難しくないと意味はないからね」


 カナコさんの精神が眩しい…! この混沌とした事務所に降り立った女神みたいだ! それに、飽くなき向上心ってこういうことなんだなーって。さすが、2年生にして演劇部の看板女優さんだけあるなーって。


「あ~! カナコー! ぱふぱふさせてくれー!」

「先輩にもされたことないのに! 仕方ないですねー、はい春山さーん」

「えーズルいズルい! 俺もしたい~!」

「お前には冴パイがあるだろ!」

「おっぱいの良さを検証するにはいろんな個体を比較しないといけなくって~」

「烏丸、そこに春山さんというまな板が」

「春山さんはいいんだってば」

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