the biggest reason

「それではみんな、機材等の撤収が無事済んだところで」


 各々のトレーを前に、全員で手を合わせる。圭斗先輩の号令で、一斉に「いただきます」の挨拶を。

 今日は向島大学のオープンキャンパスだ。ちなみに今現在も体験講義などの行事は行われている。俺たちMMPは昼食時の学食で2時間ほど公開生放送をさせてもらっていた。それが終わって一段落。みんな昼食はまだだったのだ。


「ところで菜月先輩、そろそろ教えていただいてもよろしいでしょうか」

「ん、そうだね。そろそろいい頃合いじゃないかい?」

「人が物を食べてる時に喋らせるな。まったく、空気を読めない奴らだ」


 菜月先輩は安定の塩ラーメン。と言うか毎日同じ塩ラーメンを食べているような気がするけど、よく飽きないな。でも、意外にきっちりきっかりしているところのある菜月先輩だ。昼は塩ラーメンというのが一種のルーティンなのかもしれない。

 それで、菜月先輩が俺たちに何を内緒にしているのかという話だ。それは、番組をやる順番だ。30分番組を掛けることの4ペアで2時間やっていたワケだけど、その順番の決め方もまたMMPらしいぐだぐだっぷりでしたよね。


「そんなに正午の枠に菜月さんとりっちゃんのペアを入れたのを根に持ってるのか?」

「一番多く人の入る正午からの枠に一番実力のある菜月先輩を持ってくるという圭斗先輩の判断は何ら間違ってはいないかと」

「だよな」

「ですが、他の枠を菜月先輩がわーっと埋められたのに果たして根拠はあったのかという話で」

「僕の予定では、僕は1時からの枠でゆったりとトリを務める予定だったのにな。ミキサーも奈々だし」


 ちなみに、11時半からのトップバッターがヒロと俺のペア、正午からが菜月先輩と律、12時半からは圭斗先輩と奈々。そしてトリの1時からの枠は三井先輩とこーたのペアという感じで行われていました。

 菜月先輩が塩ラーメンをうまうまされている間、俺たちみんなでやっていたのは「菜月先輩が圭斗先輩を12時半の枠に入れた理由」がお題のラブピ大喜利……もとい、推測と言うか、最早邪推だな。圭斗先輩の機嫌を損ねないといいが。いや、手遅れか。

 食べているときはただただ黙って咀嚼される菜月先輩なので、それを聞いてはいるものの、正解不正解というようなことは示してくれない。基本的に俺たち2年がぎゃあぎゃあと盛り上がるためだけのトークテーマと化していた。


「うまーでした」

「完食かい」

「散々好き放題言ってたけど、12時半の枠に圭斗を入れた理由をそんなに聞きたいか」

「人の多い時間帯なんだから、三井でも入れれば良かったんじゃないのかい? 目立つのが好きなんだし」

「あっ。デザートを食べてない」

「この期に及んでまだ食べるのか」

「せっかく一仕事終えた後のご褒美じゃないか」


 そう言って、菜月先輩は席を立たれた。ここからでも菜月先輩の動きは見えるけど、パックの牛乳やプリンとかゼリーの陳列棚の前でどれにしようかなと悩まれているようだ。まあでもここは菜月先輩だし、安定のプリンだろう。

 プリンをうまうまされているのをお邪魔するのは非常に申し訳ないので、しばしの休憩時間。律とこーたは相変わらず大喜利……と言うか、律のボケに対してこーたがツッコミを入れまくる組手をやっている。


「うまーでした」

「これで忘れ物はないね、菜月さん」

「まあ、単刀直入に言えば、顔だな」

「はい?」

「圭斗は世間一般にはイケメンだの何だのと言われる風貌だから? 来年以降の布石としてだな」

「もしや、菜月さんはまだゲッティングガールを諦めていなかったのかい?」

「当たり前だろう! 仮にうちが4年になって遊びに来たときに、女の子が増えてなかったらこれ以上の悲しみはないぞ!」

「……菜月先輩!」


 圭斗先輩を人の多い時間帯に入れた理由が顔だとわかったところで、俺は菜月先輩に一言言っておかなくてはならない。急に大きな声をあげた俺に、先輩方がお前はどうしたと驚いたような目を向ける。


「何だ、また説教か」

「いえ、12時半の枠の使い方に関して言えば、至極正しかったと思います」

「おっ。そうだろうノサカ、お前はわかってくれると思っていたぞ」

「ゲッティングガールは別にどうでもいいですが、MMPにもこんなイケメンがいるんだ! どや! そう高校生たちにも発信できたのではないでしょうか」


 今は少し夏の疲れを引き摺られていらっしゃるようだけど、それでも圭斗先輩の美貌が陰ることはないし、むしろそれすらアンニュイな雰囲気を醸して非常に素敵だとは言っておかねばなるまい。


「……しょーもな」

「やァー、しょーもないからこそのMMPですぜ、圭斗先輩」

「ん、知ってるよ。誰が代表だと思ってるんだい?」

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