become more friendly or open

「しかし、その場の勢いでなく前日のうちから僕に連絡をしてくるなんて何があったんだい?」

「美奈が後押ししてくれたからな」


 昨日、菜月さんから「明日ラーメンでも食べに行かないか」とお誘いがあったので、断る理由もその時点ではなかったのでお誘いに乗ることにした。その少し後に僕が今アタックをしている女の子から連絡があったのだけど、そこは先約を優先することに。

 オープンキャンパスを1週間前にして菜月さんがこっちに戻って来た。何でも、僕にもお土産があるとかないとか。軽くない物だから持ち歩くのはしんどいぞ、と車を出せと重ねて念を押される。菜月さんと2人で行くのは、野菜炒めの乗ったラーメンが看板メニューである店であることがほとんどだ。


「美奈と会ってたのかい?」

「金曜日に帰って来て、星港で美奈と合流してそのままうちでお泊りを」

「へえ、いいね」


 菜月さんと美奈はとても仲がいい。インターフェイスどうこうを抜きにしても互いに友人としての最上位クラスにいるんじゃないかと傍から見ていて思う。あれだけ友情だの何だのを信じない菜月さんが、美奈は大事な友達だと何を淀むでもなく言うという時点で相当だ。

 美奈は美奈で、菜月さんといるのはとても居心地がいいし何より菜月さんが可愛くて可愛くて、というようなことを言っていた。恋バナもするし、ダーツやビリヤードをやったりするそうだ。僕がダーツで菜月さんに勝てないのはコーチがいい所為だね、間違いない。


「あっ、そうだ圭斗お土産兼誕プレ」

「ありがとうございます」

「まあ、美味しい飲み方とかは勝手に調べて勝手にこだわってくれ」

「そうさせていただきます」


 そう、何を隠そう今日は僕の誕生日なのだ。菜月さんからのお土産兼誕プレは彼女の地元、緑風エリアで作っている梅酒と日本酒セット。確かにこれは持ち歩くには向かない土産物だし、とてもありがたいですね。何より僕の好みをわかってるところがね。


「でも、結構いい物なんじゃないのかい? 菜月さんにしては大層奮発したんじゃ」

「お前が思ってる程じゃないぞ。後はアレだ、盆にオードブルの盛り付けのバイトしてたからその分ちょっと余裕がある」

「へえ、菜月さんがバイトを」

「その分で今してるウエストポーチも買った」

「ん、綺麗な柄だね。でも、菜月さんが花柄というイメージもないね」

「可愛かったし、美奈も同じの持ってるって言ってた」

「お揃いか。菜月さんの可愛らしい一面が垣間見えるね。でも美奈にウエストポーチこそイメージにないな」

「柄が可愛かったから衝動買いしてしまったって言ってた。使い道はこれから考えるって」

「それはいいんだけど、金銭的に余裕があるなら滞納しているサークル費も払ってくれないかい?」

「あ、それ滞納してる光熱費に消える予定なんだ」

「何をやってるんだ」


 それからは、美奈とのお泊りデートでどんなことをしてどんなことを喋ったのかを差支えのない範囲で僕にも話してくれた。それはもう某バカップルにも引けを取らないほどの惚気っぷり。どこかの犬にはお前も頑張れと思わずにはいられない。

 ランチはお好み焼きを食べて、それからは買い物。美奈が得意な化粧品の分野では、ずぼらな菜月さんにも使いやすいすっぴん風に見える美肌パウダーを教えてくれたそうだ。今もそれを薄く塗っているそうで、クレンジングが要らなくて楽なんだ! と嬉しそうにしている。

 菜月さんの部屋に来てからは、美奈が作ってくれた煮込みハンバーグを食べながら少しお酒を飲んでいたそうだ。そして、男女年齢問わず客人にベッドを使わせないことで有名な菜月さんが、何と美奈にはベッドを勧めたとか。革命だ!


「美奈に雑魚寝なんかさせられじゃないか、いくらゼミ室で慣れてるって言っても」

「菜月さん自身はどうしたんだい?」

「美奈がうちに雑魚寝はさせられないって言うから、間を採って一緒に寝た」

「斬新な間の取り方だね」

「それで昨日起きて、そういや明日圭斗の誕生日だけどお土産取りに来てもらうアポ取ってないなー、でも連絡するのハードル高いなーって言ってたんだよ。そしたら美奈が、「女の子からの誘いに嫌な顔をするようならその圭斗は偽物だから思い切って送るといい」って言ってくれて」

「ん、美奈は僕を何だと思っているのかな? まあ、余程でない限り嫌がりませんけどね!」

「で、現在に至る」


 今日に至るまでにそんなことがあったのかと納得したところで、美奈が菜月さんを後押ししたセリフがちょっと引っかかる。僕にも一応選ぶ権利があるんだけどな。でも、菜月さんからの誘いは嫌ではないので安心してもらって。都合で断ることがあるかもしれないとはお伝えしなければならないけれども。


「ところで、地元でも野菜炒めの乗ったラーメンは食べていたと思うけど、今日もいつもの店に行くのかい?」

「もちろん。チャーシュー丼は向こうにはないからな」

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