LOVE AND PIECES

 インターフェイスにおけるラジオの基本構成は、オープニング→M(曲)1→T(トーク)1→M2→T2→M3→エンディング……という感じだ。番組の個性はアナウンサーのトークで出していくイメージが強い。それがどうした。

 いきなり曲が始まったと思ったら自己紹介もそこそこにそれを聞かせに入っている。しかも初っ端から津軽海峡冬景色とか、季節感ガン無視もいいトコだ。しかも曲中に打ち合わせるどころかアナが頭の羽飾りを揺らして熱唱してやがる。


「面白いでしょでしょ~」

「あまり見ない感じの番組だね。緑ヶ丘さんと向島さんが多いから出来るのかな」

「それはそうと福島さん、今歌ってるアナウンサー青女だろ。いつもあんな感じなのか?」

「ユキちゃんは演歌が好きな子なんだよ。多分気分を上げるための選曲だったんじゃないかな」


 合宿最終日、モニター会の続きは4班の番組から始まった。前日の1~3班の番組がごく基本に忠実な構成の番組が多かったからか、4班がその基本を崩してきた瞬間どよめきが起こった。

 トークを聞いていくと4班のテーマは「全力で遊ぼう!」ということらしく、基本をぶっ壊したこの構成こそ連中が全力で遊んだ結果なのだろう。その言い出しっぺは菜月だと聞いている。高木とやるのに普通にやってても面白くないとか言って。

 構成を基本から大きく変えるときに問われるのはミキサーのセンスだと俺は思う。言い出しっぺが菜月なら、ペアを組む高木のセンスが4班の番組の核になっていると考えるのが自然だ。1班の方では、伊東が「そう来るかー」みたいな顔をしている。


「アドリブとか普段やらないことって~、ミキサーへの信頼がなきゃ出来ないんだよね~」

「まあ、律なら大体のことには対応出来るしな」


 律のリードで番組はスムーズに進んでいく。変な構成だろうとノイズにならなければ何の問題もない。青女のアナに関しては、好きな曲を使って熱唱するのはいいがMの終わる時間を意識するのが今度の課題だ。

 2番手はこの班の黒幕・菜月と高木のペアだ。基本の構成なんか当然やってこないし、最初のペアが流しっぱなしにしていた曲をクロスフェードで自分たちのMに変えるのは高木の趣味だろう。まあ、クロスのタイミングはちょっと早かったな。

 クロスした曲のイントロで自分たちの自己紹介と簡単な挨拶を済ませてしまう。そして曲に入った瞬間、横から差し出されるインフォメーション用紙。まあ、MBCC勢は事前に鍛えてあるしこれくらい何ともないだろう。


「本日は、ツバメパークにお越しいただき、誠にありがとうございます。お客様にお呼び出しのお知らせをいたします。白いTシャツに、カーキ色のズボンをお召しになられました、ゆうや君と仰る5歳の男の子――」


 ――とまあ、そんなクソみたいなインフォメーションがされれば、わかる奴はこっちを見てくるよな。クソ、伊東てめェ後でブン殴るぞニヤニヤしやがって。誰がこんなの仕込みやがったんだ。大方果林だろうな。アイツも後でシメる。


「白いTシャツにカーキのパンツのゆうやクン、ここにいるでしょ~」

「生憎俺はハタチだからな」

「奥村さんにこのインフォを読ませるあたり、対策委員はわかってるな」

「性悪てめェぶっ飛ばすぞ」


 菜月・高木ペアの番組は、高木が今持っている技術を全部ぶち込みましたという感じにまとまっていた。そういうことも出来んなら秋学期は結構面白くなりそうだ。これなら秋の昼放送は当確だろう。

 奇抜な構成に、聞く状況が違えばドン引きしそうな菜月の体験を交えたトーク。それらが合わさっているのに聞く分にはスムーズに聞けて時間はあっと言う間だった。そして番組は最終ペアに引き継がれる……はずが。BGMがなくなって、菜月の声だけで番組が続く。しかも、このBGMのない時間にミキサーが交代している。


「それではみんなで呼んでみましょう! せーのっ、かりーん、ゲンゴロー」

「はーい!」


 一種のコール&レスポンス。そんな物もこれまでのインターフェイスの番組では見たことがない。普通、ペアの入れ替わりは前ペアが垂れ流しにした曲の間に行うのが一般的だ。第1ペアとの入れ替わりもそうだった。

 しかし、第2ペアと第3ペアの入れ替わりは、菜月が次ペアを呼んだ後の一瞬の間に席を入れ替わり、ゲイン調整の必要のない声量で果林が返事をするという、何気に難しいことを自然にしでかしている。相当練習したな、これ。

 そして果林の返事と同時に第3ペアのミキサーがBGMを上げて自分たちの番組を始めている。これは事前に高木が音源を仕込んでいたのだろう。ペア間の連携がよく出来てるな。


「山口、このミキサー星ヶ丘だよな?」

「うん、朝霞班だよ~。ゲンゴローっていうんだ~」

「1年ミキでしかも星ヶ丘だろ? ラジオは不慣れなのに初っ端からこんな奇抜な番組っていうのも巡り合わせかな」

「奇抜な構成とか突飛な要求にはウチのPに鍛えられてるし~、むしろ得意かも~。ダテに朝霞班じゃないからネ」


 高木の初期衝動に、何でも器用にこなす律。それから、ライブ慣れした星ヶ丘のミキサーというピースが揃ったからこそ全力での遊びが実現したのだろう。この番組を作るのは7割ミキサー、そんな風に見える。

 日程が違うからちょっと微妙だけど、3班と言うか三井の主義・思想に対するアンチテーゼのようにも見えるのは俺の性格が悪いのかね。もちろん、そんな下らないことを考えて番組をやる連中ではないだろうが。自分たちが楽しむのが最優先だな。


「高崎、講評で何喋るか考えたか」

「いや、俺かよ」

「今更議長サンに高崎クン以外の人が真っ当なモニターなんて出来ないでしょ~」

「ミキサー主体の番組なんだから、石川でいいじゃねえか」

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