君の声が聞こえる

「ちょっと、何やってるの。BGM上がってないんだけど。違う、そっちじゃない。あっ。ねえ何でマイク上がってんの、こういう状況だと普通下げるでしょ?」


 モニター会会場の一番後ろから見ていると、みんなの様子がよ~くわかって面白いネ。これは今回の合宿で一番ヤバいって言われてる3班の番組。向島の三井クンと、青女の1年生の子が組んでるパート。

 スピーカーからは三井クンの荒げた声。内部の“お叱り”がマイクに乗ってしまっている。三井クンから叱責された女の子はガタガタ震えだして、固まっちゃった。班長のつばちゃんは殺意を隠しきれない顔。


「えー、ちょっとね、ミキサーのミラがやらかしてしまったんですけどー、ここから僕が取り返して行きたいと思いまーす」


 つばちゃん率いる3班は、この三井クンが毎回打ち合わせを荒らして好き放題していたそうだ。ラジオのことは自分が一番わかっているし一番上手いんだから言う通りにするべきだとか、星ヶ丘はインターフェイスに遊びに来てるのが困るとか。

 初心者講習会の話もあったし、俺たち3年は三井クンがそういう人だって知ってるから別に驚きもしなかったんだけど、番組でまでそういう感じなんだ~と思ってドン引きしてるよね。ラジオのことはわかってるかもしれないけど、ライブのことはわかってないなって。


 今日は、合宿参加者の議長サンと実家で養生している長野っち以外の前対策委員4人でモニター会に来ていた。番組後には俺たちや、俺たちのように見に来ていた4年生の先輩たちと講師のダイさんが講評をするという流れ。

 この番組は、俺たちの誰が何の講評をするんだろう。ただ、これまでに番組を終えた1班と2班の感じで言えば、班長に縁のある人が選ばれる傾向にある。3班はつばちゃんの班だし「そろそろ俺かな?」みたいな予感があって。


「お疲れさまでした。それでは講評に移ります。えー、つばめの班ですし、星ヶ丘繋がりで山口先輩にお願いします」

「は~い。来るような気がしてました~」

「変なこと言ったらぶっ飛ばすぞ洋平」

「つばちゃ~ん、安心してして~。星ヶ丘のステージスター・山口洋平で~す。3班の皆さん、お疲れさまでした~」


 番組でミスをしてしまったミラちゃんの顔色がとんでもなく悪い。そりゃそうでしょ、自分の番組が終わって3番手のペアが番組をやってる間にもず~っと三井クンから公開説教されてたし。


「俺はんですけど~、一人のMCとして気付いたことを言いま~す。エージ君とつばちゃん。息もぴったりで~、選曲もカッコよかったよ~。でもつばちゃんは屋外のクセが抜けてないかも~。番組は屋外の設定だけど現実には屋内だから、屋内で聞きやすいエフェクトの方が良かったかな~。モモちゃんとL~。集中しにくい状況で、自分たちの番組に集中出来てて良かったと思いま~す」


 ここからが本番。星ヶ丘にラジオの何がわかるって? ラジオのことではないかもしれないけど、星ヶ丘だからこそわかること、星ヶ丘だから気付いたことを言っちゃうネ。


「三井クンとミラちゃん。ミラちゃんは、最後まで本当によく頑張ったよ。よくやり抜いたと思う。三井クンは、生放送が苦手なのかな~? 向島さんは収録の方が得意だもんネ。ああいう状況では、喋りで繋ぐとかしてブランクを演出に見せたり、逆キューで指示をするのがアナウンサーに必要な技術じゃないかな~。もうちょっと場数踏んで状況判断力を鍛えた方がいいかも~。あと、三井クンはアナウンサーではあるかもしれないけど、パーソナリティーではないかな~。その人が見えないと言うか、ググれば1ページで終わる情報しかないというか。Siriとかペッパー君で間に合うことを人間がライブでやる必要ってないよね。現状、聞きもしないことを押しつけてくる構ってちゃんAIの域を抜けないかなって」


 つらつらと感じたことを言っていけば横からは前対策のメンバーが、前の方からは議長サンや伊東クン、松岡クンにつばちゃんが俺に奇怪な目を向けているのがわかるんだ。要約すれば「君はアナウンサー失格だよ」ってことをマイルドに言ってるだけなんだけどね~。


「三井クンは上手だから何でも一人で出来ちゃうかもしれないけど~、みんながみんなそうじゃないし、それぞれに得意不得意があるのを忘れないでね~。得意なことを活かしたり、苦手を補い合ってより良い物を作るのがチームでの制作だよね~。ちょっと1年生に甘え過ぎかな~。以上で~す」

「山口先輩、ありがとうございました」

「野坂クン時間たくさん使っちゃってゴメンね~。お返ししま~す」


 実際にやるのは1対1での番組かもしれないけど、あくまで6人の班で作る番組である以上、要求されるのはチームプレーだと思ってる。そういうのが一番得意なのは俺たち星ヶ丘なんだ。三井クンのやり方じゃ、そのうち周りに人がいなくなる。今は“そういう物”だから人がいてくれてるけど、遅かれ早かれ。


「本日のモニターは以上です。4班から7班のモニターは明日の朝9時から開始します。お疲れさまでした」

「あ~、終わったね~」

「石川クン、アタシミラの様子見てくるね。帰る時間になったら連絡してもらっていいかな」

「うん、わかったよ」

「石川、喫煙所行くか」

「賛成」

「吸わないけど俺もついてく~」

「山口、お前まだ腹の中に何か隠し持ってんだろ」

「え~、何のこと~?」


 そんなコト、あるワケないジャない。でしょでしょ~?

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