アイドル現在進行形!

 夏合宿の班が決まれば、それぞれの班での活動が始まる。夏合宿は8月末に2泊3日の日程で開催されるけど、合宿中には少しの講習と番組のモニター会があるくらいで、実質的には夏合宿までが本番と言える。

 対策委員での班編成では3年生の扱いをどうするということに重きが置かれていたけど、俺の束ねる2班に3年生は入らなかったし、それなりに平和にやれそうな気がしてたんだよなあ。


「サドニナは歌って踊れるアイドル声優を目指してるんですよ! 今はオーディションを受けたりして地道に活動中なんですけどー」

「それはそれは、そうですか」

「こーた先輩何ですか軽く流してー!」

「活動をしていると言われましても、ソースもありませんし参考になるような動画などがなければ「へー、すっごーい!」と言うことも出来ませんからね」

「動画ならありますよ! せっかくですからモニターさせてあげますし、そのモニター次第でこーた先輩がサドニナの相手としてふさわしいか判断してあげます!」


 南条班はとにかくこのサドニナとこーたが濃い。班長の俺を含めた他の子がとにかく普通か薄いから、尚更どぎつく感じるのだ。オタクの人がみんなこうだとは言わないけど、サドニナがいつもこうなら啓子さんは大変そうだなと。

 サドニナを扱えるのは同じオタクのこーただろうと一瞬でペアが決まった。ちょうど1年アナと2年ミキだし。ペアを組むミキサーとしてふさわしいかどうかが動画のモニターで決まるのもどうかと思うけど。

 こーたがサドニナのアップしている動画を聞いている間、俺は班長としてこの班で作る番組の方針や、各ペア15分番組を繋いでいくんだよという基本ルールを説明していた。こーたは経験者だし向島だから説明を多少省いても大丈夫だろう。


「という感じで行こうと思います。ここまでで何かある人」

「話を折るようですみませんが、サドニナの動画の視聴が終わりました」

「あ、お疲れこーた」

「さあ、さっそく聞かせてもらいますよ! サドニナは可愛いですからね!」

「可愛いかどうかはともかく、動画としては少ない再生数通りの評価で間違いないと思います」


 そして始まったモニターでは、初っ端からこーたが剛速球を放る。きっと誉められる物だとばかり思ってうきうきしていた様子のサドニナは、予想だにしなかったそれに反応出来ずショックを受けているようだ。


「ひ、人が一番気にしてるところをー! まっ、まだ民衆がサドニナの魅力に気付いてないだけなんですよ!」

「いえ、単純に技術が拙いですよ。動画の後ろに行くにつれてコメントがなくなるというのは、最後まで再生されていないということの何よりの証拠です」

「聞き惚れててコメント出来ないんですよ」

「聞き惚れるような動画ならもう少し伸びるでしょう」

「ふえええん、何がいけないっていうのー!」

「現状では絵とミックス以外ですね」

「絵とミックスにサドニナは関わってません!」


 あまりにこーたがド直球ばかり投げ込むものだから、逆にこっちが心配になってきた。サドニナはショックを受けているようだし、この調子で合宿は大丈夫だろうか。班の運営に支障が出るようでは困る。


「ええと、こーた、もう少しやんわりとだな」

「やんわりでは意味がありませんからね。もちろん改善点も伝えますので心配なく。いいですかサドニナ、まず、サドニナの歌唱力は一般の上手い人の域にも達していません。ですので、それを逆手に取ってセルフプロデュースするくらいでなければ底辺の域からは脱せられませんよ」

「底辺って言ったー」

「声を作ることばかり気にしていて歌がなってません。まずは地声でちゃんと歌えるようになってください。それから、発声が弱いですね。そういう“味”とかではなくただふにゃふにゃしている印象です。テンポの速い曲などでは滑舌も少々怪しいですね。舌っ足らずが売りではないでしょう? 基本的な練習をどうぞ。それから、リズムも微妙にズレてるんですよね」

「いいところはないんですか~」

「その根拠のない自信とやる気くらいですかね。独学なら少し厳しいとは思いますが、努力と根性でどうにかすると言うなら頑張ってください」


 こーたのド直球モニターは、もしかすると番組にも適用されるだろうか。だとすれば2班の番組自体はまあまあ良くなるとは思うけど。だけど、問題はサドニナだ。このモニターでショック死しなければいいが。


「こーた先輩っ!」

「なんですか! まさかこのいたいけなウザドルに対する仕返し!?」

「サドニナのミキサーとしてよろしくお願いします!」

「あら、意外に認められましたね」

「これからもモニターお願いします!」

「そっちはほどほどでお願いしますよ。まずは夏合宿です」

「はーい」

「そういうことですからツカサさん、話を進めてもらって」


 あれっ、ここのペアは何か上手く行きそうな予感。よし、合宿までこのメンバーで頑張ろう。

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