事案の規模と問題レベル

 昨日一昨日の間に、MBCCサークル室では一大事件が起きていた。それを発見したのは俺だ。そういやCDを置き忘れていたと思ってサークル室に来てみれば、明らかに金曜にここを閉めた時とは状況が変わっていたのだ。

 そこらじゅうにベタベタと貼られたウチの備品の付箋には、あれこれとダメ出しめいた文言が書かれている。そう見覚えのなかった筆跡だったから、手がかりを探そうと雑記帳やアナノート、ミキノートを開いて答えが分かる。

 どうやら、向島の三井が土曜日にこの部屋の鍵を開けて侵入してやがったようだ。ご丁寧にも、雑記帳には土曜日の日付と一緒に「三井参上!」と書かれていて、この惨状の犯人を探すまでもなかったのが救いか。

 何が起こっているのか一瞬理解出来なかったというのもあるし、俺自身の冷却期間も欲しかった。とりあえずその日は「明日でいいか」と放置して、やってきた明日が今だ。月曜の1限の時間帯にこの部屋に来るメンバーはまずいないだろう。伊東を呼び出し、この状況を見せる。


「――と、こんなことになってやがった」

「なにこれ、酷いなあ」

「ちょっと、昨日これを見つけたときは思いつかなくて備品とか金とかそういうモンが減ってないかっつーのの確認が出来てねえんだ」

「わかった。お金のことに関しては、今は俺が実質的に会計みたいな物だし見とく」

「わりィ」

「ううん。とりあえず、これをどうするかだね」


 いつまでもベタベタと貼られた付箋をそのままにしておくワケにもいかなかった。とりあえず証拠として写真を何枚か撮って、付箋は片付けることに。しかしまあ、ウチの事情も知らずに好き勝手言いやがって。いい身分なこった。


「つーか、他校生が鍵の借り方なんざ知らねえだろうし、どうやって入った」

「あー……もしかしたら1年のときにぽろっと喋ってた鍵の場所を覚えてたのかも」

「そういや当時から隠し場所は変わってねえな」


 緑大のサークル棟では、守衛室で部屋の鍵を借りて各々の部屋に部屋に出入りするということになっている。名前と時刻を書き入れる帳面なんかがあって。だけど、どこの団体も勝手に合鍵を作って保管しているのだ。暗黙の了解というヤツだろう。

 団体の代表が鍵を持っている場合もあれば、ウチみたくそれらしい隠し場所があったりとその保管方法は多岐にわたる。ちゃんと隠してあれば、誰に連絡を入れるでもなく好きに部屋に入れて便利ではある。しかし、こうなるリスクもあるということだ。

 三井がインターフェイスでトラブルメイカー的扱いをされる前、つまり化けの皮が剥がれる前は普通に伊東とも仲が良く、奴が伊東の部屋に遊びに来たりもしていたような間柄だった。その時にサークル事情として鍵の話になった覚えがある、と。


「ゴメン高ピー、絶対俺だ」

「いや、鍵の隠し場所を変えてないのがそもそもの問題だ。それは教訓として今後に生かすしかねえ」

「うん、そうだね」


 さて、こういうことがあった以上、俺たちだけでその問題をおしまいにするのかという話になる。他校のサークル室に不法侵入するのはインターフェイスを揺るがす大問題だというのが俺の考え方だ。定例会に話を上げて、然るべき処罰を下すべきだ。


「伊東、俺はこの問題を即定例会で問題にすべきだと思う」

「向島のトップをすっ飛ばしていきなり定例会に上げるかー……」

「向島のトップも定例会議長も圭斗だろ、ならどっちだろうと同じじゃねえか」

「まあ、確かに物的被害もあるからね。現状でわかってるのが付箋だけだけど。これで金品にも何かあったら即定例会っていうのは俺も賛同する」

「インターフェイスの問題にするにしても、ウチと向島の問題にするにしても、俺は圭斗にこれこれこういうことがあったが説明を求めるっていう苦情は入れるぞ」

「それは、任せるよ。うーん、でもそうすると圭斗も被害者になっちゃう気がするなー…!」

「圭斗に謝罪を求めるつもりはねえ。向島のトップでも定例会議長でも何でもいいが、三井を表に出して頭下げさせろって訴えるだけだ」


 どっちにしても、圭斗に話をしないと始まらない。俺個人の被害だったら直接三井に殴り込むことも出来るが、これはサークルの被害だから相手方のサークルにも事情は伝えなければいけないだろう。

 伊東は調べる物をリストアップしながら、アイツが今更ウチに何の用事なんだろう、と渋い表情をしている。確かに、武藤はとうの昔に幽霊部員になっているからアイツに関する物なんざ残っちゃいねえし。意味がわからねえ。


「よし、送信完了」

「うわ、マジで送ったの高ピー」

「当たり前だ」

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