今期の土台の基礎作り

「対策委員です」


 星港のど真ん中、花栄にあるコーヒーチェーン店。その2階禁煙席で始まったのが、技術向上対策委員会の会議。メンバーは7人のはずなんだけど、悪質な遅刻魔が1人いるおかげでなかなか全員揃わない。

 技術向上対策委員というのは、向島インターフェイス放送委員会の中にある組織。今の3年生が1年生の頃までは、冬にスキー場でDJをやらせてもらっていた。実際に営業しているスキー場でやるワケだから、そこに行くための技術を養わなければならない。

 だけど定例会は忙しいからスキー場関係専門の組織を立ち上げた。それが対策委員ってワケ。合宿を開いてスキー場に行けるメンバーを選考したり、技術向上に関する情報交換をしたり。今ではスキー場が営業休止に陥って、DJも自然消滅。代わりの場所は定例会が探してるみたいだけど、見つかるまでの間、対策委員は大学間交流と情報交換をメインに活動している。


「すみません、遅れました」

「野坂、悪質だわ。30分って。それとも30分で済んでよかったと思うべきなの?」

「ホントすみません、果林には足を向けて寝られない」

「アンタの寝相じゃそのうちひっくり返るでしょ」

「ご尤もです…!」


 30分遅れてやってきたのが議長の野坂。電車で居眠りしたりしていつも遅刻するから、議事進行は委員長のアタシが代わりにやってる。なんかもう、誰が議長なのかわかんなくなりつつあるけど、まあこんな感じ。

 他には青女の啓子さん、星ヶ丘のつばめ、向島のヒロ、アタシと同じ緑ヶ丘のゴティ、それから星大のツカサがいる。会計とか機材管理とかいろんな役職があって、これから1年間このメンバーでやっていくことになる。


「で、今は何の話を」

「初心者講習会だね」


 初心者講習会というのはその名の通り、1年生を対象にした学生ラジオとはという講習会。インターフェイスの活動のメインがラジオだから、その講習。特にステージ系大学さんなんかはラジオの基礎を教えてもらえる機会も少ないし、ラジオ系大学も認識を共有しとかなくちゃいけない。

 この講習は、去年から始まったイベント。去年は今の4年生の先輩を講師に招いていた。今年も今の3年生の先輩に講師をお願いすることになると思う。講習内容は自分たちが去年書いたアンケートを参考にしながら取捨選択していく。講師の人とも打ち合わせをしながらね。


「インフォメーションなんかは、言わば特殊なアナウンスだからこれは話だけでもしっかり聞いておきたいところだよな」

「じゃあやっぱりアナウンサー講師は2人要るね。アナの全体講習とインフォ講習で。インフォと言えば青女だけど、啓子さん」

「ヒビキ先輩にお願いしてみるよ」

「ありがと。野坂、ミキサー講師の候補は誰かいる?」

「ラジオって考えると伊東先輩か石川先輩かなとは」

「ですよねー」

「あ」

「どうしたツカサ」

「石川先輩3年になってから「研究室にこもります」って半幽霊部員宣言してるから説得はちょっと厳しいかもしれない」

「……果林、ゴティ。2人にかかる期待は大きい」

「アタシとゴティでいっちー先輩に頼み込む、的なことですよねー」

「頼む、3年生はミキサーの先輩がちょっと少ないから…!」


 アナウンサーは誰にしようかなって選びたい放題だけど、ミキサーは層がちょっと薄いんだよね。3年生はアナウンサーが多い学年だから。「機材王国」なんて呼ばれてるミキサー系の向島にすらミキサーがいないくらいの学年で。

 講習会の日時は6月第2週の土曜日に決まっている。その日に向けて、どういう講習会にしたくて、講師の先輩にはどういうことをやって欲しいのか、自分たちはこれからどういう方針でやっていきたいのかを説明してお願いしなきゃいけない。


「とりあえず、アナミキそれぞれどんなことを聞きたいか大喜利……じゃない、ブレーンストーミングやるか」

「どんなものでも意見をとにかく出す、的なことね。ボケなしで」

「ボケなしで。失礼。向島じゃボケしかなくて」

「何やの、ノサカの天然には言われたないと思うよみんな」

「ヒロ! お前誰が天然だ!」


 何はともあれ、今期の対策委員は動き始めた。これから6月頭の初心者講習会に向かってまずは講習会の方向性を打ち出すことと、講師候補の先輩にお願いすること。あ、そう言えばアナウンサー講師のもう1人まだ決まってないや。

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