第70話 おっさ(略 ですが龍とドラゴンは別なようです
王国の上空にまで戻ってきた。王都は今のところ普段と変わらない様子である。これから教会に向かわないといけないが、よく考えたらクリスをホイホイ連れていくとそのまま捕まってしまうかもしれない。ノーライフロードもターンアンデッドされるのも困る。
そんなわけでクリスたちには王国の別のところでお茶でもしてもらって待っておくことにして、俺とアランで教会には向かうことにした。追放とは本当になんなんだろう。
聖堂の近くまでやってきた。前に来たのはクリス奪還の際である。そしてアイオーンに喧嘩売られたので買った上LSDを配下の寄生虫に叩き込んだ時である。何を言っているのかわからない?まぁそういうこともあるさ。
「とりあえずアラン、お前から声をかけてくれ。頼む」
「はぁ……頼むくらいなら関係悪くするなよな。それだから追放したんだろが」
「悪くするんじゃねぇよ。悪くなったんだ」
「わかったよ、今回だけはそういうことにしとく。……勇者アラン、訳あって参上しました」
「おつかれさまですアラン様」
教会の護衛の兵士が恭しく頭をアランに下げる。次の瞬間。
「アラン様」
「なんでしょうか」
「隣にいるのって……追放したはずですよねそいつは……」
「しました」
「ではなんで隣にいるんでしょうか」
「……世界の危機ですからね。魔王以上の危険な存在が顕現しています。ならばこちらも魔王以上をぶつけるしかないでしょう」
「……アラン様……本気で言ってるんですかそれ」
「……それくらいまずいということを今しがた体感してきました。宗主に面会をお願いしたい。アポカリプスとアイオーンと立ち向かう術を手に入れたい」
兵士が自分一人では判断できないと思ったのだろう、教会の中に駆け込んで行った。俺とアランは教会の長椅子に腰掛けている。俺は待っている間アランと雑談でもすることにした。
「なぁアラン」
「なんだ?」
「この世界の『教会』ってさ、『神』を信じているわけではないんだろ?」
「……アイオーンから人類を守りつつ、アイオーンを『利用』するのが目的だという話だったろ?ならそうだろうな」
「なら別に『教会』なんて名乗らなくてもいいのではないか?」
「……どっちかっていうと、教会の出自に関係があるからな。ハカセ、教会の由来は古代の『教会』だ」
「なっ!?」
「いつからその教会が今の教会になったかは宗主の方が詳しいだろうけど、古代の教会の人々がアイオーンの暴走に絶望し、それでもなお立ち向かうために宗教と技術を集めて立ち向かったことに端を発している」
神を信じるものたちが、偽りの神と立ち向かい、時に抗い、時に利用するようになった、だというのか。
「教会の人々には苦渋の決断だったろうな」
「そうであったようですね」
「宗主か」
「お久しぶりです。本日は何か?」
相変わらず人を食ったような男である。もっとも初対面が、アイオーンに乗っ取られて、クリスを奪おうとしている状態だったからな。最悪だったから仕方ない。アイオーンが悪いんだが。
「宗主、お伝えしたいことがあります」
「そうかしこまらないでくださいアラン。何がありました?」
「四騎士を撃退した直後に、アポカリプスが我々を襲撃しました。一瞬でノーライフロードが真っ二つにされました」
「あのアンデッドの王を……なんという……」
「アポカリプスの力の前では我々は無力といっていいです。宗主、かつての人類はどう立ち向かったかご存知ですか?」
宗主は首を横に振っている。知らないのか。
「知ってはいますが、今その方法は奪われ、忘れられています。竜の卵を用いてアポカリプスに匹敵、いやそれを上回る存在を作るということ。竜の卵は帝国の反乱分子が持っていますし、アポカリプスに匹敵する存在の作り方など喪失しています」
手詰まりか。いや待て。
「宗主、それはつまりかつてはあったとそういうことだよな」
「それはそうですが、根本的な問題が我らにはあります。龍はこの地上にはいないのです」
「龍?ドラゴンのことか?それならいるだろうが」
「先程乗ってこられたレッドドラゴンのことですか?ドラゴンと龍とは全く別の存在です」
どういうことなんだよ?ドラゴンと龍は別?
「宗主、アポカリプスは俺とクリスのことをドラゴンと呼んでいた。ドラゴンってのはその、龍のことなのか?」
「そうです。勇者とは、かつて人に与えられた龍の因子を持つもの、その子孫なのです」
「……ちょい待ち宗主。龍っていうのが人間因子を与えただと?にわかには信じられないんだが。人間と交配できるわけがないだろう、別種の生物が」
いくらなんでもファンタジーだからといって、ありえることとありえないことがある。生物種が別の生物種と生殖する?それが可能だなのは比較的近縁種に限られるし、雑種ができても雑種の子は繁殖能力を持たないことも多い。
「生物が別の生物になることなどありえない、あなたはそう言いたいのですか、ヒラガ」
「それはそうだろう。長い間継代していき、種として変異が発生し、その結果別種の生物になる。そういうことは起きえるが、1世代で変化することなど……」
「確かにこの世界の生物はそうですね。しかし我々はこの世界の生物以外と遭遇していませんか?」
「……アイオーン!?」
そうだ。別種の生物が生物を操作し、変異させてしまう。寄生生物により行動パターンを変化させ、場合によっては自殺させることすらある。アイオーンは量子サーバに寄生した寄生生物であり、その果てに世界の環境すら変化させてしまった。
「待て宗主、ということは龍とは」
「そうです。異界よりアイオーンを追ってきた狩人。彼女はこの世界を救うため戦い、傷つき、そしてアイオーンと相打ちになり……眠っています。ここで」
「ここで?」
「そうです。地上にいないと言ったのはそこで、龍もアイオーンと共に封じられています」
「ならアイオーンが復活したら龍も?」
宗主は目を伏せた。
「いえ、そうはなりません。龍の力は最早失われています。残念ですがほぼ龍は死んだも同然の状態です」
「でも、ここに龍はいるんだよな?」
「……いますね」
「なら宗主、頼みがある」
「なんでしょうか」
俺は試験管を取り出した。アルコールはある。界面活性剤も持ってきている。ここまできたらやることは一つだ。
「龍とアイオーンを(ゲノム配列的に)丸裸にする。手伝ってくれ」
「なっ!?アイオーンはともかく龍は……そもそも何が目的ですか!?」
「おいハカセ!また忘れてるぞ!遺伝子ってのを徹底的に丸裸にするんだろが!!」
アランに突っ込まれて助かった。クリスもアランも脱がせてしまったからな。別に人の全裸を見る趣味はない。人並みに性欲はあるけど、それはそれ、これはこれだ。
「そういう意味ですか。しかし龍もアイオーンもその意味で遺伝情報は持っていないかもしれませんね」
「どういう意味だ?」
「龍はもちろん、アイオーンは難しい気もします」
あぁ、量子サーバ上の存在だから、か……しかしそうなると、龍はアランたちに何を遺伝させたんだ?
「とにかく、龍を調べさせてくれ」
「わかりました」
こうして俺たちは地下へと降りていくこととなった。いよいよ龍との対面だ。果たして鬼が出るか蛇が出るかだな。龍だけど。
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