第60話 おっさ(略 ですが暗殺される前にかゆくしてました
けむくじゃらかつ這い回る獣を始末したのはいい。これなんの生き物だよ。ジロジロ見て回る。クリスが剣で切った断面を見るとどうも脊椎動物ではあるようだ。骨あるし。骨あるにもかかわらず手足はない。モグラかミミズみたいな体型と言えなくもない。
とりあえずいい検体が手に入ったというわけだ。早速断片から血を取ったりし始める。うまくとれるといいなDNA。
「えっと、なんとか倒せましたけど、こんなのが千頭もいるんですよね」
「それくらいはおるだろうな」
手持ち無沙汰なクリスと皇太子を横目に、血液サンプルをとったり、肉片を持ってきていた乳鉢ですりつぶしたりした後、DNA抽出工程に入る。界面活性剤やら精製アルコールやらぶち込むときちんと取れてきた。生き物なのは間違いないな。
「少しはこいつが何かわかったな」
「えっ、もうわかったんですか?」
「といっても完全には程遠いがな。まず、こいつは生物ではある」
「見ればわかるだろうが」
聖剣はそんなことを言うが、皮だけ被ったロボットなりゴーレムなりの可能性だってあったからな。
「次にだ。身体付きを見ると毛が生えているし、骨がある。つまりこいつは哺乳綱の動物をベースにしている」
「えっと、哺乳綱ってのは……」
「人間を含めたいわゆる動物の中で、毛とか生えてて子供産むやつ」
「そういえば人間も動物とは、共通点が多いんですよね。教会でこんなこと言ったら大変ですけど」
「ひでぇ」
クリスの弁に思わず嘆息する。どんだけサイエンス毛嫌いすんだよ教会は。
「そして、こいつだ」
「えっと、何ですかこの、液体の中のふよふよした白い毛みたいなやつは」
「こいつの設計図だ」
「設計図???」
「俺自身やクリス、アランのも調べたが、生物の体内の細胞にある染色体、その中にはこの生物の設計図、DNAが存在する」
「ふむ。そんなものを回収できるとはな」
ふよふよした液体をクリスと皇太子に見せる。
「こいつを聖剣が用意してくれたシーケンサにかけると、何に近いかがわかると言うわけだ」
聖霊にデータ見てもらうとまた文句言われそうだが、見せないわけにも行かんよな。
「敵の設計図を奪えるというわけか。なるほど、そうすれば弱点も分かる、場合によっては作れると」
「察しがいいな殿下。その通りだ。さすがに作るのは困難だろうが」
ここで密かに用意していたある道具が役に立つ。クリスにチャージして貰えばしばらくこのDNAをもたせられる。
ひとまず俺たちは生存者などを探すことにした。街の住人のほとんどは避難済みのようで、街はもぬけのからである。もし怪我人がいてもあのエクスポーションもどきは使いたくないな……。なんかキモいし。
「ふむ。ひとまず皆が避難した方に我らも向かうとするか」
「えっと、この人たちどうしましょうか」
「女の人は俺が背負って行くか」
「ヒロシが?わたしがやりますよ」
「女の子の方も歩かせないといけないが、長くは歩かせられないだろ」
「そっか。わかりました」
まだ意識のない女の人を背負い、クリスが女の子の手を引き、女の子に皆が避難した方を案内してもらう。村からしばらく行くと、山が見えてきた。この山のどこかか?
「……ん?こ、ここは……ひっ!?」
俺の背中で女の人が目を覚ました。
「ママ!」
「あ、アニエス!?無事だったの!?」
どうやら感動の再会である。まずは良かった。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございます。あなた方は……」
「通りすがりのマッドサイエンティストと」
「その助手です」
「の剣だ」
「ふむ。全く理解できん自己紹介であるな」
「は、はぁ」
いいんだよこんなもん適当で、命助けたって言ったってほんとうに通りすがりのマッドサイエンティストたちなんだし。
「マッド……サイエンティスト……ってあの!?」
知られてんのかよ隣国にまで。国王たち俺のこと本当は嫌いだろ。嫌われても仕方ないという自覚はなくはないが、俺なりに頑張ってんだよ?
「む、娘だけは改造人間にしないでください!」
「しねぇよ!!!」
「ど、どこからそんな話が……」
クリスもおろおろしている。俺は改造人間なんか作ったことねぇよ!仮◯ラ◯ダーとか作る気はねぇ!
「そちらの助手の人って改造人間なんですよね?」
「ちょっと違うし、そもそも俺がしたんじゃねぇ!!」
「改造人間扱いされてました」
まぁほぼ勇者と同等の戦力を持つ(遺伝子レベルでの)改造人間と言えなくもないけどさ。2号ライダーみたいなもんだと言えなくもない。
「ご婦人。こいつはたしかに魔王城吹き飛ばしたりはするが、我が知る限り存外人間味はあるぞ。人間をむやみに傷つけたりはせぬ。我が保証する。安心せよ」
「はぁ」
皇太子あんた、それ全然安心できないだろ自業自得とは言え。
「で、こちらの方は」
「えっと、帝国の皇太子殿下です」
「元だがな」
「……どういうことなの」
女の人が変な目で見てくるが、俺だって聞きたいよ。どういうことなの。
「今帝国内は大変なことになっておる。それで、このヒラガに助けを求めたというわけだ」
「毒を持って毒を制す、ですか」
「ふむ。まぁそのようなものだ」
ひでぇよ奥さんも皇太子も。助けたくなくなってくるわそんなん言われたら。
「しかしご婦人、あのデカブツはどこから」
「それが、突然地面から出てきたんです。わたしは逃げ遅れて危うく……」
やっぱりモグラか?その割には被害が少なかったような。
「ひょっとして、公国も攻められておるのか?化け物どもに」
女の子がうなづく。くそ、公国ももちろん王国も危ないだろこれ。アラン早くきてくれぇ!(無茶振り
「ひとまず避難場所まで向かうことにしよう。我らはその後公国にてあるもの達と合流する」
「合流?誰とだ?」
「我らの影だ」
よくわからんがスパイとかそのへんだろうか。主戦力欠いてる皇太子一派だが、情報というのもたしかに重要だからな。アイオーンにしたって目を潰しておけばダマくらかせてるわけで。
避難所に2人を届けたその足で、俺たちはすぐに公国の首都を目指す。といってもそう遠くはないから、まあなんとかなるだろう。
街道をしばらく進むと巨大な生き物の死体が転がっている。これのサンプルも取っておくか。
「このDNAも回収しとくか」
「さっきのとは全然違いますね。動物とトカゲとが混ざって……」
「まるでキメラだな」
こんなもんまで作れるのか竜の卵ってやつは。これはしかし、何を合成したんだろうか。
サンプルの採取も終わり先を急ぐ。夕暮れも近い待ち合わせの場所に、ちょっと前まで噴水があったようだ。噴水は怪物のせいか大きく破損しており、水もダダ漏れである。そんなところに、黒い服を着た男と、紺色と濃い茶色の服を着た2人の女がたたずんでいた。
近寄ってみると男の方の顔、どこかで見た記憶がある。なんだろう。男は男で俺のことを知っていたようで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。何やったっけ俺?皇太子が男達に声をかける。
「待たせた」
「いえ、それは構いません。それは」
「何か不満か?」
「その男です!」
女の1人が俺を指差す。だから何をやった俺は?
「そうよ!その男のせいで!私たちは!」
「ちょっと待て。俺何をやった?記憶にないんだが」
「……俺を、またバカにするのか」
「えっと、みなさんは?」
クリスも面識がないようだ。本当に誰だよ。
「俺は、そいつのせいで……喪ったんだよ!暗殺騎士の名を!」
「……おまけに3ヶ月もお預けだったんですよ!変な病気にされた疑いで!!」
あー思い出した。俺を暗殺しようとした間抜けか。それはなんか悪いことをしたな。
「そうなのか。それはすまんかった」
「バカにしやがって……」
「えっと、暗殺騎士ってなんなんですか?」
「……暗殺者というのは本来立場の低いものだ。だが、国や民を守るための暗殺というものは戦場における首級を挙げるに等しいものもある。そういった戦果を挙げた暗殺者に贈る称号である」
なるほどなー。ということはそれ失敗したら国や民に問題があるんじゃ……ってなんで俺狙われてんだったっけ?ちょっと待てよ……あー思い出した。
「そうか、王国も帝国も含めての暗殺だったんだよな。暗殺されなくってすまんかった」
「バカにしてんの、そういうとこだ!」
そうは言ってもな。魔王倒すまでは死んでやれなかったし仕方ないだろ。
「でも殿下。こいつ役に立つのか?人間相手ならともかくデカブツ相手に」
「さっきのやつを倒したのが彼らだとしても?」
「すまん。本当はできる子たちだったんだな」
「すごいですね!」
クリスは素直に感心しているが、君も同等の怪物倒してるからね一撃で。女の子たちは褒められて嬉しそうである。暗殺者はまだムカついていそうだが。
「その言い方がなんかムカつくが、まぁいい。殿下、これからどうするのですか?」
「これから公国にある教会に行く予定である。教会のアーティファクトに、四騎士の情報があるかもしれぬ」
「四騎士……」
女の子たちが不安そうな顔をしているな。四騎士ってなんなんだろう。敵が多すぎて不安しかない。
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