第58話 おっさ(略 ですが闘争するべきか逃走するべきか、それが問題です
帝国の皇太子にまで助けてくれと頼まれた。頼む、アラン助けてくれ。どうしてこうなった。お前ら俺のこと、23世紀から来たネコ型ロボットとかなんかと勘違いしてないか?……あ、それもう過去の話になってるな。
助けてくれと言われてたんなら、出来る範囲で助けてやらんこともないが、それにしてもこれからどうすんだよ皇太子。
「殿下、言いたいことはわかった。できることは手伝いたい」
「そうか」
「しかし、これからどうするかの方針は決めたい。帝国がぐちゃぐちゃになってるのはわかったから、帝国に戻るのはキツくないか?」
「それはわかっておる」
だよな。だとして王国行くのもまずい気はしている。国王あたりはなんとかしてくれるかもしれないが、反帝国感情は王国内では結構強いものがあると前にクリスに聞いた。
「ひとまず帝国、王国には中立的な公国あたりに行こうかとは思っている」
「妥当な線か」
「えっと、公国にまではどうやって行きます?」
「これを使う」
そういうと皇太子はごく軽く船を叩く。おう、この船か。結構小さいがこれでいけるのか?
「かなり速いぞ。ドラゴンが飛ぶのと同等の速度が出せる」
「数百キロ出てんじゃねぇか……」
「数日で公国につけるな」
聖剣の言う通り、その速度なら船どころか航空兵力でもなかなか追いつけまい。
「ひとまず行く先はそれでいいか。助ける方法というのもすぐには思いつかんが」
「そうですね……」
立ち話もなんなので高速船に乗りこむことにする。船内は割と質素ではあるが、品のいい調度品で飾られている。
「こちらがヒラガとその助手だ。帝国の混乱を収めるのを手伝ってもらう」
「は、はぁ……」
気の無い返事を返す船長らしい人物に、俺は少し同情した。皇太子無茶ぶりすぎるだろ。
「まずは公国を目指すことにする」
「よろしいのですか?」
「構わぬ」
なにがいいのかさっぱりわからない。だがポジティブな内容でないのだけは確実である。
「では参るぞ。途中で反乱分子に出会わぬと良いな!」
「なっ!」
想定はしてるがヤバいだろそんなのに出逢ったら!こちらの速度に期待するしかないんじゃなかろうか。あと反乱分子、レーダーとか装備してないよな?
「えっと……ダメです、周囲に何かいるか調べようと思ったんですが」
「この船には魔力を吸収する機構があるからな。逆に言えば見つかりにくいともいえる」
そうなのか。レーダー吸収とか未来に生きてんなこの船も。
「それなら一安心だ。殿下、いくつか聞かせろ」
「構わぬ」
「帝国が突然あちこちに侵攻してるの、アレなんでだ」
「……実のところ教会がそう仕向けている」
「はあっ!?」
教会……というかアイオーンか。この国にもアイオーンの一部転がってそうだな。なるほど、王国も一歩間違ってたらそうなってたな。
「んじゃ反乱分子を支援でもするか?」
「そうもいかぬ。奴らも同等以上に危険よ」
「えっ、なぜですか?」
「反乱分子どもは魔物を量産している。おまけに教会や帝国のアーティファクトを狙って攻撃を繰り返している」
「まずいな。禁書関連の情報が流出したか?」
聖剣先生の読みが当たっているなら、確かに非常にまずい。……あれだけ散々俺には使うな使うなって言ってたのにこれかよ。
「羨まし……いやけしからんな」
「……えっと、本音でてましたよね」
そういうなよクリス。最近クリスの目付きが悪くなってきた気がしてきたが、俺だって色々やりたいんだぞもっとこう色々と!そう色々と!!
「……それにしてもだ、この船はすごいな。飛んでるんじゃないかってくらい速いぞ」
「うむ。我も詳しくは知らぬが、細かい泡で船を包み、水との抵抗を少なくするとのことだ」
「キャビテーションだとっ!?」
思わず叫んでしまう。高速船にキャビテーションとか未来に生き過ぎてて逆に俺は悲しくなるぞ。
「……どうじゃアーダン。我らの知らぬことをこやつは知っておるぞ」
「そのようですが……でもよろしいのですか?」
「構わぬ。
……見透かされているようで腹が立つが。
「えっと、殿下はヒロシのことを結構わかってますね」
「そなたほどではないがな。そのような男にずっとついているようだが」
何赤くなってんだよクリス。
「安心せい、取りはせん」
「取らないでくださいっ!!」
俺はモノじゃねぇぞお前ら。さておき、船が速い。ものすごく速い。キャビテーション魚雷のシグヴァルは亜音速出るとすら言われている。こんな速度で進んでいくとだ。
「殿下、ふと思ったんだが」
「なんじゃ」
「この航路、王国まで行く航路と途中まで同じだよな」
「そうなるな」
「そしてこの速度だろ?」
「何が言いたい」
「……追いつきそうだ、俺が乗ってきた船に」
「悪いが無視させてもらうぞ」
普通であれば気がつかれず済むかもしれないな。普通なら。だが。
「殿下!前方にドラゴンが!」
「なんと」
おう……あの船にはフェンリルもドラゴンも乗ってるんだよ。そりゃあいつらなら気がつくだろうな。
『な……な……とい……は……』
魔力通信が妨害されて何言ってんのかわからん。
「殿下、悪いんだが船を止めてくれ。あいつは知り合いだ」
「ドラゴンに知り合いがいるのか。ふむ。やはり面白い男だ。船長」
心底嫌そうな顔をしながらも、船長が船を止めてくれる。すまんな船長色々と。もっとも船長が変な目に遭うのは、俺のせいだけじゃないと思うが。
『どーらーごーーんーさーん!』
『ぬうっ!?クリスが乗っているだと!?』
クリスが船の扉から身を乗り出す。ドラゴンもこちらに気がついてくれた。
「おう。数日ぶり」
『なんなんだこの異常に速い船は。みんなビックリしたので私が見にきたんだ』
「それはすまぬな」
『こいつは?』
「帝国の皇太子」
『ファッ!?』
ドラゴンもビックリの模様だ。そりゃそうだろうな、何故か仮想敵国のトップが変なとこにいたら。
「俺たちはしばらくこちらの殿下と行動を共にする」
『わ、わかった……』
「ふむ。ご足労だったなドラゴンよ」
『あ、ああ』
「つまらぬモノだが、詫びの品だ。記念にとっておけ」
そういうと皇太子は大きな光る玉を取り出した。ダイヤモンドのようにカットがされているが……
『こ、これは!?』
「大したものではない。アーティファクトとしては最下等品だ」
「ちょっと借りていいか?」
「構わぬ」
俺は息を吹きかけた。曇る。ジルコニアかよ!!本当に下等品じゃねぇか!!
「ドラゴンは光り物が好きと聞く。せっかくだ。持っていくがいい」
『ありがたく頂戴する』
良かったなドラゴン、嫁への土産ができたじゃねぇか。……ジルコニアだけどな。ダイヤモンドの数百万分の1の価値しかないけどな。
「えっと、殿下。これシュードダイヤですよね?」
「そうだが」
「シュードとはいえこの大きさ……金貨数十枚はしますよね」
「えっ!?こんなのが!?そうなの!?」
俺が驚いてるのを見てクリスが妙な顔をする。
「こんなのってヒロシ、アーティファクトですよ。今では作れない古代の遺産です」
「そういうものか」
なんかジルコニア作って売りさばきたい衝動に駆られるが、それはまた今度にしておいてやる。本当に実行したらふははは金を作っているかのようだ!って叫べそうだな。
「しかしドラゴン、お前で助かった。帝国の教会や反乱分子だったら大変だったぞ」
『それなんだがな』
「なんだよ」
『この海域にたくさんの帝国の船がだな』
畜生!そう簡単に行くとは思わなかったが、やはり囲まれているか。皇太子が腕組みしながら呟く。
「突っ切るしかない。最初からそのつもりだ」
『待たれよ』
どうしたドラゴン。
『いいものをくれたお礼だ。少し暴れてくる』
「待て待て待て、暴れるのはいいがなるべく殺したりするなよ!」
「我からも頼む。我らがこの海域を抜けれればそれで良いからな」
『わかった』
いうが早いかドラゴンが海域の帝国の船に向かっていき、やや遠距離からブレスを放つ。船団が混乱をはじめる。よし。
「行くぞ!」
皇太子のかけ声とともに、船は最大船速で混乱の最中の船団を縫うように通り過ぎていく。どうやらうまくやれたようだ。助かったぞドラゴン。
それにしても、これからどうするかについては全く見当がつかない。内戦とか勘弁だぞ本当に。
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