第46話 おっさ(略 ですが旅に出たいのに旅に出られません
俺がその種子貯蔵施設の名を出したとき、一同が妙な顔をしているのに気がついた。
「ハカセ、それどこだ?」
「おうすまんアラン。かつて俺がいた頃の世界に、世界の種子という種子を集めた施設があってな。そこならあるかもしれないと思ったんだ」
「そんな施設があったのか……」
「古代人は何考えてるのかわからんのう」
二千年女王のおまえには言われたくないぞクズノハ。
「それで」
「おうどうしたクリス」
「その施設ですが、どこにありますか?」
「北緯78度45分 東経16度00分 …って言ってもわからないかもしらんが、ものすごい北の島だ」
「そんなところにどうやって行くつもりですか?」
「海路でいけるとこまで行ってそのあとは陸路かな」
おいマックスウェル、何可哀想な人を見る目で俺見てんだよ。天使レミリアが何か思い出したように言う。
「ヒラガ、聞いてください。そこが仮に北だとしますよね」
「そうだ、かなり北だ」
「北は帝国領ですよ?私たちが入るの難しいと思いますが」
おう、そう言うめんどくさい問題があったか。どうしたもんかな。
「国教会通じて帝国の教会に許可もらえないか?」
「ヒラガの通行許可を?……無理だと思います……」
「レミリア様、もっとストレートに言わないとこいつにはわからないと思います」
なんだよマックスウェル、その棘のある言い方は。
「貴様、帝国でどう思われてるのか知ってるのか?」
「どうって王国と同じだろうが」
「……王国はなんであんなん飼ってるんだ、いや、放置せざるを得ないのか……ってな」
あんなん扱いかよ。害虫か何かみたいな扱いだなおい。一応迷惑もかけてるかもしれないが、王国にはそれなりに貢献してないか俺?
「ちょっと待てマックスウェル、俺一応人の役に立つこともしてはいるつもりだぞ」
「ああ。それはわからないでもない。だがなヒラガ、王国側はそれ全部伏せてる」
「何故!?」
「で、変なことしたことだけ帝国や諸国に流してる。例の魔王城大爆破とかな」
俺何かしたか!?王国は俺になんか恨みでもあんのか!?クリスまで俺のことを可哀想な人を見る目で見ながら聞いてくる。
「マックスウェルさん、なんでヒロシのことそんな風な噂を流してるんですか?」
「おそらく王国的には、ヒラガに迷惑だけかけられていることにしておく方が都合がいいんだろう」
「ひでぇ」
「ヒラガが役に立つとすると、王国的には諸外国から圧力の対象になると踏んだのかもな」
「迷惑しか被ってないということになったら、王国はむしろ被害者ヅラできると。なんとまぁ」
ほんとなんとまぁだよ、聖剣の言う通り。
「流石にいつまでも都合のいい情報だけは流せなかったようだがな。それとは関係ないが、現在帝国と王国の間の関係は徐々に緊迫している」
「どっちにしても、それじゃ迂闊に行けないじゃないか。どうしたものかな。ドラゴンにでも飛んでもらうか?」
「それこそ開戦の可能性すら危惧されるぞ。領空侵犯この上ない」
この世界飛べるモンスターとかいるから、領空侵犯の概念あるんだな。
「めんどくさいな、いっそ帝国に何かしてやろうか」
『めんどくさいという理由でテロするのやめろ』
「ノーライフロードのほうがヒロシより常識人ですね」
非常識で悪かったなクリス。しかし種子貯蔵施設に行かないと聖霊の強化無理だろ。
「しかしそうなると、これからどうしたもんだろうな。アイオーン対策は必須だが、その為の手段なんてほとんどないじゃないか」
「対策しないとどうなる?」
「アイオーンが近々野生に帰る。そうなると世界はヤツの好きなように改変される。今度はどうなるかわからない」
聖剣がアランに説明しているが、実際これから打てる手がないんじゃ手詰まりだ。世界はアイオーンの思うがままに改変されて終わる。
「案外ほっといてもなんとかなるかもしれんのう」
「過去はどうなんだクズノハ」
「そうじゃなアラン、2000年前にヤツが解放された時には国が数十滅んだくらいで済んだもんじゃ」
「それはほっておいたら世界が滅ぶって言ってるんだよな」
アランが頭を抱えてそう呟いた。
「帝国にも協力求めるしかないですねやっぱり」
「そううまく行くといいんだがなクリス」
確かにそうなんだがなぁ……国王たちに頑張ってもらうしかない。そう思って会議をおひらきにした。だが数日後、事態は最悪の方向に動き始めてしまった。
俺が朝起きて実験を始めようとしていると、クリスが慌てて部屋に駆け込んできた。寝癖すごいぞ。かろうじて着たとおぼしき服も乱れてるし。ボタンがズレてる。
「ヒロシ!大変です!」
「お前の格好が大変だぞクリス」
「それより!王国からの通信です!!帝国軍が国境付近に展開しているって!!」
悪い、それは飛び起きざるを得ない。なんだってそんなことに?
「またえらく急じゃないか。王国と帝国は仲が良くはないのは知ってたが、そこまでじゃなかっただろう」
「はい。ですが、突然帝国側との次官級の対談で交渉内容が異常に厳しくなったそうです」
なんじゃそりゃ。そんな飲めない条件提示して何か意味あんのかよ?
「それで?」
「当然王国側はそれを飲めないと最初はやんわり拒否したようなのですが、それを帝国側は交渉決裂と判断したとのことで」
「むちゃくちゃだな」
「そのまま次官を拉致」
もう戦争する気満々じゃねぇか?どうしてそうなったんだ?
「酷くね?」
「どうしますヒロシ、このまま王国と帝国が戦争になったら……」
戦争になろうが知ったこっちゃないが、人死には増えるしそもそも種子貯蔵施設には行けなくなるしどうしようもない。
「それにしても、なんでそんなことになったんでしょう……」
想像だがアイオーンのせいだろうな。王国側のアイオーンの一部が使えなくなったから帝国側を使ってんだろう。
「アイオーン……」
「やっぱりそうなんでしょうか?」
「だとして末端の兵隊は被害者だろ?そんなんで殺し合いとかバカらしいにも程がある」
「でもヒロシ、戦争となったらそんなムシのいいことは言えないと思います……」
そういうことはあまり言って欲しくないな、クリスには。
「……それでもやっぱりバカらしい。そんなんで俺を止められると思うなよアイオーン」
「ヒロシ、何かやるんですか」
不安と期待の混ざった視線で俺をクリスが見ている。
「やるに決まってんだろ。なんせ俺はマッドサイエンティストなんだぞ?」
「それで、何をするんですか?」
「決まってる」
悪い笑顔というのはこういう時に使うもんだろうな。
「戦争なんざしたいバカどもは、みんな痒くしてやる」
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