第45話 おっさ(略 ですが古代の遺産を継承したいと思います



 目が覚めたので、俺はあちこちに連絡を入れることにした。研究所の会議室には見知った顔を全員集めさせてもらおうと思う。


 アランはともかくアランのパーティの連中はハブってもいいかもしれないが、律儀なアランは嫌がるだろうな。はぁ。仕方ない。連絡だけさせてもらうか。クリスが起きてきたな。……寝癖すげえな相変わらず。


「もう大丈夫かクリス?」

「えっと……あまり大丈夫じゃないです。昨日の記憶が結構曖昧で」

「そりゃアイオーンに乗っ取られてたからな」

「えっと、そうなんですけど、教会の宗主と結婚させられそうになってヒロシが宗主を殴りながら『俺のクリスを返せ!』とか叫んでたの……多分夢ですよね」

「うーん……そりゃ一部夢だ。結婚のところはなんでか知らんが本当だ」


 全部覚えてるじゃねぇか恥ずかしいなおい!あと宗主には八つ当たりしたのは悪かったと思う。クリスに思いっきり不審な目で見られているが押し切る。


「んでクリス、病み上がりに悪いんだけど、知り合い全員に連絡とりたい。会議したい」

「えっ?なんでですか?」

「アイオーン対策とかこの世界がどうなってんのかとか色々聞かないといけない。……俺の元同僚がやらかした結果この世界が生まれたくさいからな」

「世界が……生まれた?」

「ざっくりいうと、ここは地球、つまり俺がいた世界と同じ世界だ。15000年未来ではあるけど」

「えっ?でもヒロシは確か『物理定数が微妙に違う』からここは別の世界だとか言ってませんでしたか?」


 よく覚えてるな。実際俺もそれがあるからここは異世界で、不幸にも俺は異世界転生したと思い込んでいた。しかしだ。


「もし、その物理定数すら変化させられる存在があったとしたら?」

「えっと……そ、それって?」

「生体量子サーバ『Sophia』の最終的な狙いは、物理世界に演算を基に干渉を行うことだった」

「それって、ほとんど魔法じゃないですか!」


 相変わらず超人的な洞察力で、ほぼ説明しなくて助かるな。


「そう。Sophiaについてはエネルギーの問題あったけど、核融合が実現してたから気にせずガンガン使えたしな」

「核融合?」

「俺が魔王城吹っ飛ばしたのは核分裂反応だが、太陽などでは水素原子同士が融合してヘリウムの原子核になる際に膨大なエネルギーを発生させている。それを人間も実現したんだ」

「まるで……神の……炎だ」


 プロメテウスの神話がこの世界にあるかは知らないけど、ほぼ神の世界の領域に相当するのか、これも。


「だが、そいつを利用しようとしたのは人間だけじゃなかった。それがアイオーンだ」

「つまり、どういうことですか!?」

「アイオーンはそもそも高次元に存在した怪物だ。そいつをSophiaが高次元にアクセスした際に『ダウンロード』しちまった」

「だうんろーど?」


 コンピュータウィルスが自然に存在してて、偶然ダウンロードされてしまったようなもんだ。あり得ないと思うが、事実なんだか仕方ない。


「Sophiaがアイオーンに乗っ取られたと思ってくれ。んでその間のことはわからんが、教会はアイオーンを抑え込めた。何をどうしたかわからんが」

「教会すごいですね……」

「んで教会は、アイオーンの復活阻止に動いたんだろうな。あんまり世界を変えるような無茶すんなと、無茶したらアイオーンが暴れ出す」


 なのに女狐クズノハだの不死領主ノーライフロードだのドラゴンだのがどさくさに紛れて暴れている。


「おまけに魔王だ。魔王を教会が作ったとは思わないからなぁ。アイオーンだろうそんなんやらかすのは」

「でもそうすると、教会は何を?」

「アランだよ。魔王を倒すために最低限の世界改変で済ますために勇者作ったんだろう」

「えっと……とすると……」

「そう、そりゃ教会としちゃ頭も痛いだろう、クリスの存在は」


 とにかくいるもんは仕方ない。なんとか頭の硬い教会にクリスの存在は認めさせないと。

 さて、魔王は勇者アランでないと倒せないが、アイオーンとなるとさすがに無理だろう。どうしたものか。


「というわけでクリス、マックスウェルとかドラゴンとかみんなに連絡とりたい」

「わかりました」

『おるかー!』


 って連絡取ろうとしたら、なにかと思ったらクズノハかよ。早すぎじゃないか。連絡取る前に来るなよ。とりあえず返答だけ返す。


「おるわー!」

『ひとまず無事で何よりじゃ!色々支払って貰うモノもあるがのう』

「教会からも支払って貰えよ」

『とにかく上がらせてもらうぞ。クリスはもういいのか』

「えっと、はい、大丈夫です」

『お茶の相手がおらなくなるのは寂しいからのう』

「いいから早く上がれ」


 そうやってクズノハを研究所に上げていると、連絡取る前にノーライフロードも来やがった。こいつもマメなアンデッドだ。それと前後するかのようにアランも来たじゃないか。そりゃアランからしたら血を分けた妹(血は繋がっていない)みたいなもんだからな。クリスが半端呆れたように、だけど嬉しそうにいう。


「連絡取る前にみんな来ちゃいました」

「当たり前だろ、みんな不安だったんだぞ!」

『全くだ。クリスがいなくなったら誰にハカセの死体の利用許可貰えばいいんだ』

「勝手に殺すな。復活させてもらったが」


 ドラゴンからも連絡が来たし、マックスウェルたちもやってきた。


「全員連絡する前に来たのかよ。お前らどんだけクリス好きなんだよ」

「貴様には負けると思うがな」


 マックスウェル、それは聞かないふりをしてやる。マックスウェルと天使はあちこちに包帯を巻いていてなんていうか痛々しい。それでも生きてみんなこうやって再会できたんだから、かすり傷だ。


「お見舞いに来ましたけど、大丈夫そうですね」

「イグノーブルさんも!お久しぶりです!」

「そうだクリス、国王付きの魔法使いに連絡頼む」


 会議召集の前に主だったメンバーは集まってくれた。これは助かる。会議室に皆を通す。聖剣とノーライフロードが何か話しているな。俺から挨拶させてもらうか。


「さて、まずはクリスの奪還に成功したのはみんなのおかげだ。礼を言う」

「気にするでない」

「そうだぞ。妹みたいなのクリスのためだからな。お前だったら放置してるが」

『放置するよりむしろ始末してアンデッド化だな』

「酷くね?」


 一同笑っている。そんな冗談から入った会議だが、割と重要なことを伝えなければならない。


「しかし、こうなったら原因だが、アイオーンが問題なんだよな、マックスウェル」

「そうだ。信じられない、いや信じたくないというのが実情だ」

「とはいえ現実を見なければならない。アイオーンがSophiaを乗っ取って世界改変をして、それを教会が止めたんだろ?」

「どこでそれを知った?」

「待てマックスウェル、これは憶測だ。だがアイオーンにSophiaが乗っ取られたのは俺も

「そうか……」


 俺の過去をメンバーに簡単に話す。全員の表情は複雑だ。


「つまりお前らの作ったそのSophiaのせいで、俺たちの世界ができたってことか?」

「まぁそうなる、アラン」

『それにしても、物理定数が変化する程のことをやらかしたとすると……世界がどうにかなったってことか?』

「その通りだ不死者アンデッド。貴様やそこの女狐やドラゴンが闊歩する世界に成り果てた」


 言い方酷いなマックスウェル。さておき、俺は根本的な問いをすることにした。


「でだ。アイオーン、どうやって始末する?」

「始末できるならとっくに教会がしとるじゃろ」

「悔しいが女狐に同意だ。変容こそが奴の本質。アイオーンの暴走で世界がどうなるかはもはや想像すらできない」

「そうなんですかマックスウェルさん。えっと……そうだヒロシ、アイオーンってどこかからやってきたって言いましたよね?」


 急に何を思い出したクリス?


「高次元からやってきたって言ってたな」

「なんできたんでしょう?」

「そりゃクリス、たまたまなんじゃないか?」

「アラン……わたし、しばらくアイオーンの支配下にあったんですが、その時ヒロシに危険なお薬投与されましたよね?」

「LSDは用法容量を守ればそれなりには安全だぞ」

「安全なわけねぇだろ!大天使様たち悶絶してたぞ!」


 マックスウェルが叫んでるが、LSD自体はそこまで危険じゃないと思う。バッドトリップはまずいけどな。


「だとするとヒロシ、アイオーンにLSDって効くんですか?」

「そんなバカな……」


 さすがにクリスの意見に対してみんなから失笑が漏れる。だが待て。


「クリス、投与された時他に何か記憶はないか?」

「そうですね……アイオーンは、何かから逃れていたように思います。何か恐ろしいものを見て、それで逃げ出して、たまたま……」

「マジかよ!」

「おいおいおいおい!アイオーンより危険な何かがいるとでも!?」


 アランやマックスウェルが叫んでるが、そうでなきゃ逃げたりしないわな。なるほど、高次元にはもっと危険な奴がいると。オラなんだかワクワクしてきたぞ!


『おい、ヒラガ、ワクワクすんじゃない』

「えー」


 ノーライフロードに突っ込まれてしまったが、実際ワクワクしないかみんな。


「アイオーンより危険な何かがいるとしたら、アイオーンを始末するのに役立つだろ?」

「そりゃそうかもしれないけど……」


 他の連中が不安になるのはわかる。ハブを駆除するのに投入したマングースが、ハブより食べやすい鳥とかウサギとか食い荒らしてしまう結果になった事例もある。頭を抱えてアランが呟いた。


「もうちょっと穏便にアイオーンに対処する方法ってないのか」

「えっと……そうだ、アイオーンの天敵がいるなら、その一部を使えばいいのでは?」

「冴えとるのうクリス!それいけぬか!?」

「どうやって持ってくる?Sophiaは使えないしアイオーンの支配下だろ?ほかに高次元にアクセスする方法とかないだろうが」


 ダメだ詰みだ。これからもう一台生体量子サーバ作るとか吐きそう。


「生体量子サーバですか……自機の機能の178%の性能を持っています。再現は不能です」

「聖霊すげぇなお前」

「変態に褒められても嬉しくはありませんし、性能は下回っています」

「あれ?でも聖霊、半分以上の性能はあるんですよね」

「肯定しますクリス」

「だとしたら、聖霊を強化すればいいのでは?」


 そんな単純な手で行けるのか?


「回答します。本システムの機能向上のためにはある植物の成分が必要となります。しかし現環境にはその植物は適合していません。既に絶滅したと思います」

「……待て聖霊。その植物、15000年前には存在したか?」

「回答します変態。肯定です」


 よし!それならいい方法がある。


「みんな聞いてくれるか?聖霊を強化する方法は、ある。俺はその植物がある場所を知っている」

「どういうことですかヒロシ?」

「古代の遺産を継承させてもらうんだよ!」


 俺たちの目的地は決まった。スヴァールバル世界種子貯蔵庫、そこに宝はあるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る