第381話 愛が生まれる
雷撃が止む。
地面は高熱で紅く染まり、大地はボコボコと音を立てながら沸騰していた。
溶岩になった地面に大きな樹が沈んでいくが、その木は燃えていなかった。
マドカが作り出した『生命の樹』だ。
その樹の根に、シシトが捉えられている、はずである。
「……どう、ですか?」
額から汗が噴き出ているユリナは、肩で息をしていた。
「死んでいる? あの男?」
隣にいるセイも、ユリナと同じように疲弊している。
10分以上、セイとユリナは協力して強大な雷雲を作り上げ、シシトに電撃を浴びせていた。
カンストしていようが、問答無用で殺せる程度の攻撃力をもった雷撃であったはずだが、それでも不安は拭えない。
殺しきったと、安心出来ない。
「……『生命の樹』の根っこに、あの男の体はもうない。ヤクマの薬は何度も吸い上げたし、効果はいいかげん消えているはず。この『生命の樹』を作り出すときに、セイちゃんの『雪桜火』とユリちゃんの電気を材料に組み込んでいるから、二人の攻撃で根っこが焼き切れていることは無いし、あの量の根っこが突き刺さって、逃げる事が出来るはずもないけど……」
マドカの言葉をそのまま捉えるなら、シシトはもう死んでいる。
死んで、その体は溶岩に溶けてなくなっている。
そう、考えて良いはずだ。
なのに、発言者であるマドカも、ユリナも、セイも、3人ともシシトが死んでいると思えなかった。
その理由はただ一つ。
「私達の攻撃程度で死ぬヤツが、先輩を殺せるの?」
セイが口にした、その疑問だ。
間違いなく、今シシトに攻撃した方法は、今のセイとユリナが出せる最大限のモノだ。
マドカが生み出した『生命の樹』も、シシトを捉えるうえで、これ以上はない。
だが、消えない。
嫌な予感は。
「……そちらは、どうですか?」
ユリナは、後ろにいるコタロウに話しかける。
コタロウは首を振っていた。
「俺の方でも、シシトの反応は無い。さっきの電は、直撃すれば俺だって十分に死ねるくらいの攻撃だった。普通に考えればシシトも死んでいるが……」
コタロウの目線に合わせるように、視線が一つに集まる。
その先にいるのは、シンジだ。
「んー……そうだな」
シンジは、ポリポリと頭をかいている。
「……そろそろだ」
苦笑しながら、そう言った。
その言葉を合図にするように、溶岩が間欠泉のように吹き上がる。
「ぷっ……はぁっ!」
溶岩から現れたのは、シシトだ。
なぜか何も身につけていないが、溶岩が彼の体の重要な部分を隠している。
もちろん、というのもおかしな話だが、シシトの体に傷は一つも無い。
「……どうやって」
マドカが唖然としながら言う。
確かに、シシトの体は無くなっていたはずだ。
無くなっていなかったら、逃げているはずがない。
仮に肉が無くなっても、骨だけを追尾するような能力を、『生命の樹』に付与してある。
その証拠に、溶岩から出てきたシシトに、『生命の樹』は根を伸ばした。
「うわっ!?」
伸びた根に、シシトはあっけなく捕まる。
「……もう一度いきますよ! セイ!」
「ええ……」
汗を拭い、ユリナは杖を構える。
セイも、手のひらを空に向けた。
その間に、マドカが操る『生命の樹』はギチギチとシシトの体を締め付けていく。
「……この樹、百合野さんの?」
「死ね」
おそらく、本当にどうやっているのか不明だが、シシトのHPは戻っているのだろう。
どれだけシシトがヤクマの薬を飲んでいても、あれだけの攻撃を回復しきれるとは思えないのだが。
根っこに締め付けられても苦しそうなそぶりをみせないシシトに、マドカは根を槍に変えて攻撃する。
先ほどは、この根の槍で、シシトの体に穴をあけて、捉えていた。
ならば、もう一度。効果はあるはずだ。
鋭く尖った根の槍が、シシトに迫る。
その槍を見ながら、シシトは笑った。
「可愛いね」
同時に、根の槍が消えた。
いや、根だけではない。
『生命の樹』そのものが、姿を消したのだ。
「……は?」
明らかな異常事態に、マドカだけでなく、ユリナもセイも、動きを止める。
シシトは、冷えて固まりだした地面の上に、そっと降り立った。
「百合野さんが作ったモノだと、樹でもこんなに可愛く見えるんだ……ふふ」
シシトは、また微笑んだ。
優しく、ゆったりと。
まるで、慈愛の女神のように。
「……セイ!」
「……わかっている!」
ユリナとセイは、急いで雷雲を大きくさせる。
「『天ノ霹靂・桜霆(アメノヘキレキ・オウテイ)』」
強大な雷が、シシトに直撃した。
肉を焼き、溶かすほどの強力な電撃だ。
そんな電撃を浴びても、シシトは笑っている。
「……綺麗だぁ」
雷の轟音のなか、微かにシシトの声が聞こえた。
次の瞬間、雷が消える。
その上にあるはずの、真っ黒な雷雲ごと。
「…………うそ、でしょう?」
空を見上げ、綺麗な青空が広がっていることにユリナもセイも言葉を失う。
一方、シシトは傷一つない顔で、ニコニコと笑っていた。
そして、両手を広げて、マドカ達に向ける。
「百合野さん、常春さん、水橋さん。愛している」
甘い声で、シシトは3人に告白した。
ステータス---------------------------------------------
名前 駕篭 獅子斗
性別 男
種族 人間
年齢 16
Lv 99
職業 愛する者☆1
HP 9999
MP 999/999
SP 999
筋力 999
瞬発力 999
集中力 999
魔力 999
運 33
技能
三千兼愛
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