第371話 見たくはないが見ないといけない
「オチなんて!! ないんだよぅうううううう!!!!!!!!!!」
泣きながら空に向かって叫んでいる少女の名前は、百合野 円(ゆりの まどか)。
彼女は、収まらない怒りを表現するように、手をブンブンと振りながら、フシャーフシャーと唸っている。
「……何を言っているんですか、アナタは?」
そんな彼女に怪訝な目を向けているのは、マドカの親友、水橋 ユリナである。
「なんか、オチを求められた気がして……数えるのが大変なくらいに。シリアスな場面だったのに」
「そうですか。とりあえず、落ち着いてください」
「オチって言わないで! ネタとか言わないで」
「それは言ってないのですが……」
マドカの目が半泣き状態になっている。
「というか、ネタって言われてもしょうがない失態をしたよね」
冷たい声が聞こえてくる。
言ったのは、常春 清(とこはる せい)だ。
「セイちゃん? 失態って?」
マドカは、首をかしげる。
「先輩に頼まれた事、半蔵さんに取られていたよね?」
「うぐっ!?」
セイからの指摘に、マドカは、半泣きの目から、動揺の目に変わる。
「な、なんのこと……かな?」
「あの女、引きこもって出てこなくなったから、皆の様子を見ていたの。そしたら、マドカさん怒っていたでしょ?ロナさんに。そのまま、殺そうするし……先輩の言っていたことを守れていないなら、ネタと言われてもしょうがないでしょ?」
「あーあー聞こえなーい」
マドカは、耳を押さえてセイから目を背ける。
そんなマドカに、ユリナは呆れたような目を向ける。
「そんな態度だからオチとか聞こえるんじゃないですか? 知りませんが」
「聞こえなーい、オチなんて聞こえなーい、ネタなんかじゃなーい」
「……まぁ、どうでもいいので、とにかくアナタは今、どういう状況かわかっていますか?」
ユリナに指摘され、マドカはゆっくりと耳から手を離した。
「わかっているよ。下で、あの男と明星先輩が戦っている」
マドカたちは今、ミユキ達が避難していた観戦席に立っていた。
地上から離れた場所に浮いているこの空間は、攻撃などはバリアのようなモノで守られているが、シンジとシシトの戦いの様子ははっきりとわかるようになっている。
「予定通り、予想通りの状況のようですが……ヒドい戦いだったのでしょうね。あの様子では」
ユリナは、少し離れた場所で、うずくまっている少女に目を向ける。
駕篭猫々子(かご ねねこ)。
今、シンジと戦っている少年、駕篭獅子斗の妹だ。
ネネコは、雲のような観戦席の床に、何度も頭を打ち付けている。
「アアア! アアア!! アアアアアア!」
まるで、死鬼にでもなったように奇声を上げて、何度も、頭をぶつけようとする。
しかし、観戦席はその雲のような見た目同様、フカフカとした素材で出来ているので、ネネコの頭に傷をつけることはない。
だが、ネネコの顔は傷だらけだった。
おそらく、彼女自身の手を使って、自分の顔を傷つけたのだろう。
今は、自傷行為を禁ずるために後ろ手に縛られているが、我慢が出来ずに、なんとか自分を傷つけようと床に頭を向けているのだ。
「……ずっと、あんな感じでな」
ネネコを少し離れた位置で見守っていた飾道 美幸(しょくどう みゆき)が、ユリナ達の元へやってくる。
「シシトの話を聞いたから、ですか?」
「ああ、正直、気持ちはわかるよ。一時間以上、ずっと明星さんの悪口しか言っていなかったからな。あの男」
ミユキは、自分の腕をギュッと握っていた。
腕の赤さが、彼女の押さえ込んでいる怒りを表している。
「事前に聞かされていなかったら、私もあの男を殴りにいっていたかもしれない。ましてや、あの子は実の妹なんだろ? 身内のああいう言動は……ツラいよな」
「でも、今からあの調子で、これから耐えられるの?」
セイの意見に、ユリナも頷いた。
「そうですね。ネネコは、これから先の光景は見ない方がいいかも、ですね。ただの言葉であの様子なら……この先は、耐えられないでしょう」
「それは、ネネコちゃんのためかい?」
セイたちの会話に入ってきたのは、コタロウだった。
「俺は、この先もネネコちゃんはしっかりと見ている必要があると思うけど」
「どうして、ですか?」
マドカは、コタロウをにらみ付ける。
「シンジが、ネネコちゃんをこの場所にいるように仕向けていたから」
コタロウは、笑顔で答えた。
「たぶん、ネネコちゃんは見る必要があるんだろうね。これまでの光景と、これからの光景を。必要がないなら……シンジは、無駄に誰かを傷つけるような事はしない」
コタロウの意見に、セイとユリナは口を閉じる。
しかし、マドカはまだ不満げだった。
「……大丈夫」
彼らの会話に、入ってくる者がいた。
床に顔をつけたままの、ネネコだ。
ネネコの隣には、コタロウと一緒に戻ってきたヒロカとライドもいる。
「私は、大丈夫だから……耐えるから」
「ネネコちゃん……」
「それに……一番ツラいのは私じゃ無くて、明星さん、でしょ?」
ネネコの言葉に、その場にいた者は全員、地面に目を向ける。
そこでは、シンジがシシトと対峙していた。
ロナ・R・モンマス。
岡野ユイ。
引間小鳥。
3人の少女を挟むようにして。
この状況は、シンジが予見していたモノと相違ない。
「見ないと……いけない。見たくないけど」
ネネコは、歯が砕けそうになるほどに食いしばりながら、彼らの様子から目をそらさなかった。
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