第354話 幻聴が5通くらい(2021年12月24日現在)
「……オチとかないんだよっ!!」
「急にどうしたんだ?」
マドカが、突然空に向けて大きな声をあげた。
「いや、幻聴が……5通くらい……」
「……そうか。まぁ、オチというか、これで大丈夫なのか?」
「どういう意味です?」
「そりゃ、ヤクマが……」
「マドカ!」
滝本と会話をしていたマドカに、マドカの母親、ナナが飛びつく。
「わぷっ!? お母さん!?」
「大丈夫!? ケガはない? 痛いところは? ごはんは食べている? 歯は磨いた?」
「お、落ち着いて。質問の内容もちょっとおかしいから。大丈夫。何も問題はないから」
わしゃわしゃと確認するように撫でられながらマドカはナナをみた。
ナナも、ケガはないようである。
「マドカちゃん」
ナナに続いて、トオカやブレンダ、ミサコがマドカたちの元にやってきた。
「久しぶり。元気そうね」
「はい。トオカさんも。無事でしたよね?」
マドカの少しだけ心配が混じった確認に、トオカは微笑む。
「ええ。大丈夫。ケガはないわよ。他の人も、ね」
「よかった。ユリちゃんにトオカさんのこと頼まれていたから」
「……ユリナは元気にしているかしら」
シシトが生き返ったシンジを倒しにいくという情報を得たときに、ユリナも生きているということを、トオカは知っていた。
しかし、詳細は得られなかったし、連絡も出来ないでいたのだ。
トオカの目には、娘のことを想う親の情が現れている。
「はい。とても。楽しそうにしていますよ」
マドカが苦笑しながらいうと、トオカは目に涙を浮かべ、その場に崩れ落ちた。
「……ごめんなさい。ちょっと、このまま」
顔を両手で隠し、トオカはじっとしていた。
かすかに震えているのは、あふれ出る感情を落ちつかせようとしているのだろう。
「ユリちゃんから、元気だから心配しないで、って言われています。ユリちゃんも会ってお話したいことがたくさんあるそうです」
「……うん」
マドカは、そっとトオカの肩に手をおいた。
少しでも、ユリナが生きている暖かみを感じることが出来ればいいのだが。
「あー……感動的なところ悪いがな」
ブレンダとミサコに抱きつかれている滝本が、申し訳なさそうにマドカに話しかける。
「なんですか?ハレ本先生?」
「なんだその陽気そうな教師。青空の話をしたが、名前的には雨っぽいんだよ。いや、そうじゃなくてだな。さっきの話の続きだが、ヤクマは本当に倒せているのか?」
大きな花になったヤクマの残骸を怪しみながら、滝本が言う。
同じことをトオカやナナ、ブレンダ達も思っていたのだろう。
そっと二人から離れ、緩んでいた顔を引き締める。
「大丈夫ですよ。確認していたって言ったじゃないですか。分身というか……あの化け物が飛ばした他の肉体も、全部ここに集まっていましたし、それらは花に変わっています」
埴生など周囲を取り囲んでいた化け物も、『男の娘』本体も、すべてヤクマ同様薬ごと体内の水分を奪われて、花を咲かせている。
「それに、上空から見ていた限り、この町には別の本体がいるとかなさそうです」
「別の本体……」
「別の本体が逃げ出した、とかだと今はさすがに手に負えないですけどね。襲ってきてくれたら、いっそ返り討ち出来るんですけど」
「……余裕があるな」
「まぁ、ヤクマはついでというか、本当の狙いは別に……」
二人の話を遮るように、火薬が破裂する音が聞こえる。
銃声だ。
音の発生源に目を向けると、一人の少女が黒いライフルのような銃を持ち、銃口をマドカに向けていた。
「動かないで」
少女は……ロナはかすれた声で、マドカに言った。
一方マドカは、ロナに対して枯れ果てたヤクマに向けた目よりもさらに冷めた目を向けていた。
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